医学部と医師数

医師が足りない都道府県に医学部を新設して医師を増やそうの提唱を盛んにされている神様がおられます。直感的にと言うか、常識的に無いより出来た方が効果的なのは誰も認めます。ただそれが絶対的な切り札的な効果があるかどうかは検証が必要です。昨日は東北6県だけやりましたが、同じような人口規模の青森、岩手、秋田、山形の4県では1940年代から医学部のある青森・岩手が、1970年代に医学部が出来た秋田・山形より医師数では少なくなっています。

この傾向が青森・岩手の特殊事情であるのか、それとも全国的なものであるのかの検証はやっておいても良いと思います。日本の医学部設立は大雑把に分けて3つに分かれます。

  • 超老舗:1920年代までに出来た21校
  • 準老舗:1940〜1950年代前半までに出来た24校
  • 新設組:1970年代から出来た32校
なお防衛医大自治医大産業医大は特殊なので除外させて頂いています。都道府県でも複数の医学部があるところはありますが、これも比較が煩雑になるので、一県一医学部のところで比較してみます。比較する時点は1975年時点です。なぜに1975年なのかですが、
  1. e-statでこれ以上古いデータを掘り起こせなかった
  2. この時点なら新設組による医師増加効果の影響は少ないだろう
もう少し前の1960年代のデータがあれば良かったのですが、その点は遺憾とします。なお医師数は医療施設に従事する人口10万人対で、1975年時点の全国平均は112.5人です。なお現在一県一医学部は全部で36県になります。これを表にして見ます。

分類 都道府県 大学 設立年 1975 2010
全国 112.5 219.0
超老舗 新潟 新潟大 1922 106.5 177.2
宮城 東北大 1915 132.4 210.4
熊本 熊本大 1929 138.0 257.5
長崎 長崎大 1923 142.1 270.3
準老舗 岐阜 岐阜大 1947 98.6 189.0
福島 福島医大 1950 102.4 182.6
青森 弘前 1944 107.4 182.4
奈良 奈良医大 1947 108.5 213.7
長野 信州大 1948 108.6 205.0
岩手 岩手医大 1947 112.0 181.4
鹿児島 鹿児島大 1943 112.4 232.4
群馬 群馬大 1943 112.8 206.4
和歌山 和歌山医大 1948 122.4 259.2
山口 山口大 1947 123.3 233.1
広島 広島大 1952 132.4 235.9
鳥取 鳥取 1948 147.8 265.9
徳島 徳島大 1945 160.6 283.0
新設組 沖縄 琉球 1979 53.9 227.7
埼玉 埼玉医大 1972 67.5 142.6
茨城 筑波大 1973 73.7 158.0
山形 山形大 1973 85.9 206.3
宮崎 宮崎大 1974 86.5 220.3
滋賀 滋賀医大 1974 89.0 200.6
静岡 浜松医大 1974 90.0 182.8
秋田 秋田大 1970 94.3 203.8
山梨 山梨医大 1978 94.6 209.7
福井 福井大 1978 97.4 226.5
栃木 独協医大 1973 98.9 205.3
愛媛 愛媛大 1973 102.6 235.8
富山 富山大 1975 103.7 223.6
島根 島根大 1975 105.2 250.8
佐賀 佐賀大 1976 108.2 245.0
三重 三重大 1972 108.2 190.1
大分 大分大 1976 109.4 245.0
香川 香川大 1978 114.2 253.7
高知 高知大 1976 119.2 274.1
凡例 全国平均比110%以上
全国平均比10〜110%
全国平均比90〜100%
全国平均比90%未満

県内に医学部がある方が有利なのは間違いありませんが、超老舗クラスがあっても全国平均以下のところもあり、準老舗クラスでも13県のうち半分以上の7県が全国平均以下です。さすがに新設組は1975年時点は医師数は少ないですが、それでも2県が全国平均以上です。1979年の琉球大が現時点で最後の医学部設置となっていますが、そこから40年後の2010年時点の結果を見てみます。 つうても表に出しているのですが、これを全国平均比に対する色分けで表にしてみます。
分類 変化 超老舗 準老舗 新設組 小計 県名
悪化 緑 → 黄 1 * * 7 宮城
緑 → 白 * 1 * 広島
白 → 黄 * 1 * 群馬
黄 → 赤 * 3 1 福島、青森、岩手、三重
横這い 赤 → 赤 * 1 3 8 岐阜、埼玉、茨城、静岡
黄 → 黄 1 2 * 新潟、奈良、長野
白 → 白 * 1 * 山口
増加 赤 → 黄 * * 2 17 山形、滋賀
赤 → 白 * * 6 沖縄、宮崎、福井、栃木
黄 → 白 * 1 2 鹿児島、愛媛、富山
黄 → 緑 * * 3 島根、佐賀、大分
白 → 緑 * 1 2 和歌山、香川、高知
安泰 緑 → 緑 2 2 * 4 鳥取、徳島、熊本、長崎

ここも上の表とは違う意味で悪化県を赤色、苦戦県を黄色で色分けしていますが、傾向として超老舗・準老舗校のある県が何故か苦戦しているところが多そうです。この理由は私にはサッパリわかりません。新設組は21県あるのですが、おおむね増加効果が認められてはいます。しかし4県で悪化ないし苦戦傾向を示しています。悪化組、苦戦組を抜き出して表にすると、
分類 県数 県名
超老舗・準老舗 10 宮城、広島、群馬、福島、青森、岐阜、新潟、奈良、長野
新設組 4 三重、埼玉、茨城、静岡

な〜んか、御馴染みの県名がズラズラと並びます。ではこの14県の1975年と2010年の人口をチョット捻って、人口10万人あたりで「1人医師を増やす」ための医師数で現して見ます。これは自然減少分(リタイア)を計算に入れていない単純計算です。
県名 10万人対1人医師を増やす医師数 2010年
1975 2010 増減 医師数 不足実数
青森 14.69 13.7 -10. 182.4 502.5
岩手 13.86 13.3 -0.6 181.4 500.1
宮城 19.55 23.5 3.93 210.4 201.9
福島 19.71 20.3 0.6 203.8 308.4
群馬 17.56 20.1 2.52 206.4 253.0
茨城 23.42 29.7 6.28 158.4 1799.8
埼玉 48.21 72.0 23.74 142.6 5497.0
新潟 23.92 23.7 -0.2 177.2 992.3
長野 20.18 21.5 1.34 205.0 301.3
静岡 33.09 37.7 4.56 182.8 1362.9
岐阜 18.68 20.8 2.13 189.0 624.3
三重 16.28 20.8 4.53 190.1 601.4
奈良 10.77 14.0 3.24 213.7 74.3
広島 26.46 28.6 2.15 235.9 -483.5

広島は「緑 → 白」の変化ですから平均は上回っていますので御注意下さい。それと不足実数は全国平均に対するものであり、なおかつ自然減少分(リタイア)を計算に入れていませんから、その点も御留意下さい。 こうやって見ると埼玉県の条件の悪さが飛びぬけているのが確認できます。埼玉県については状況が深刻すぎて簡単には論評できませんので、機会があれば後日に考えてみたいと思います。埼玉ほどではありませんが、茨城と静岡も条件が悪そうです。 ただ他の12県、広島もあえて除けば11県はどうでしょうか。やっぱり寒いからかなぁ?