国際医療福祉大の算数

4/9付朝日新聞デジタルより、

国際医療福祉大は大学病院、三田病院、熱海病院、塩谷病院の4病院に医師が約320人いる。そこから十分補充できる。

ここから考えて見ます。記事全体については引用先を読んで頂ければ良いのですが、医学部新設を巡り

医学部が新設されると、地域の病院からスタッフがとられ、地域医療が崩壊すると言われている。

この質問に国際医療福祉大・北島政樹学長が答えたものです。4つの病院の基本データはマイナビ看護学生から、

ここから取っています。表にして見ます。

病院 病床数 看護師数 平均入院数 平均外来数 医師配置基準
大学病院 293 270 230 900 19.80
三田病院 291 270 210 850 30.58
熱海病院 269 190 200 700 32.88
塩谷病院 300 130 161 480 26.83
1053 860 110.09


4病院に約320人いるとの事ですが、この4病院から動員できる医師数の上限は210人になります。これ以上動員すると医師の配置基準を満たさなくなります。でもって新設されると予定される医学部附属病院は何床なんでしょうか。大学病院にどれほどの医師が必要かは私では良くわかりませんが、具体的に判っている例として日大時代の光が丘病院を参考にして見ます。

日大時代の光が丘病院は342床で120人の医師がいたとされます。100床あたり35人となりますが、これを基に換算表を作ると、

病床数 医師数
100 35
200 70
300 105
400 140
500 175
600 210
700 245
800 280
900 315
1000 350


4病院を配置基準ギリギリまで医師数を減らして600床程度になります。実際にはそこまで医師を減らすと4病院の運用自体に支障が出ると考えられ、4病院から供出できる医師数はせいぜい半分の100人程度になるのではないかの観測も可能です。こういう状況で、
    そこから十分補充できる
これはチョット無理があるのではないかと感じます。北島学長は、

基礎と臨床を一体化したカリキュラムをめざしており、臨床実習も大学病院に限らず近隣病院とネットワークを作るため、教員は少なくてすむ。

既設の医学部とは違った形態を構想しているらしい事はわかりますが、いくら「教員は少なくてすむ」としていても4病院の320人だけで賄うのは少々難しそうに感じます。もっとも医学部附属病院が少なくとも500床クラスと言うのが先入観に囚われすぎで、病床無しの医学部形態(メディカル・スクール)に近いものを構想し、300床クラスで考えておられる可能性はあります。つうか、そうでないと足りそうにありません。


それと記事では触れられていませんでしたが、病院は医師だけでは成立しません。少なくとも看護師も必要で、これも例えばですが4病院並の看護師が必要とすれば、600床でも500人程度必要です。医師に比べ看護師は地元採用率が高く、500人の新たな需要が生まれれば地域医療に大きな影響が出るのは避けられません。

看護師数もまた500床以上でなく300床クラスであれば250人程度で済みますから、影響はまだ小さくなります。250人でも小さくないと思うのですが、500人より小さいぐらいのお話です。ここはさすがに地元への影響として触れたくないところかも知れません。


準メディカル・スクール構想のためには地元と言うか栃木県の医療機関のかなりの協力が必要になるのですが、それを実地で行うとなれば相当なハードルがあるのは医療関係者ならよく知っています。それでも準メディカル・スクール構想が現実的な点は、医学部新設に伴う地域の病床数への影響が比較的少なく済む点は挙げられます。

栃木県のどこに作るにしろ、もし1000床クラスを作るとなれば、それだけで地域の医療バランスが大きく崩れます。良い方に崩れる可能性もある一方で、悪い方に崩れる可能性もあります。現実にはメリットとデメリットが混在して、差引勘定でプラスになるかマイナスになるかの問題ですが、それこそやってみなければわからない部分が多大にあります。

これが300床クラスになれば、メリットにしろ、デメリットにしろ振れ幅が小さくなるので、地域医療への影響が限定的になるのは期待できます。ただ附属病院の規模が小さいと、地元が期待する新たな戦艦病院にはならないので、その点では誘致の熱気がどうなるのだろうは出てきます。将来的な病院サイバイバルの問題も経営として判断が難しいところです。


医師であれ、看護師であれ本気で医学部附属病院を作るとなれば、病院規模に相応しいスタッフ数は必要であり、否応無しに地元病院への影響は避け切れません。医学部誘致とはそういうデメリットもある程度織り込んだものにならざるを得ない側面があるのですが、「そうはならない」と北島学長は明言されておられます。

もっとも「そうはならない」はあくまでも栃木から医師を引き抜かないだけの趣旨かもしれません。4病院320人からの供出と、栃木以外の医師をかき集めるとしたのを記事にする時に編集があったです。どちらにしても、もう少し具体的な計画が出てこないと、これ以上の評価は現実的には難しいところです。