J-CASTの記事

モトネタは9/21付J-CAST

ここからです。


残業時間に対する残業代は妥当か?

私はてっきり、そこまでの残業時間が発生している事が問題になっているかと思ったのですが、そうではなくて、

この答弁内容が地元紙で報じられると、ネット上では、驚きの声が上がった。「ギリシャみたいだ」「一体どんな仕事の仕方してる訳?」「これじゃいくら税金あっても足りないわw」といった書き込みが相次いでいる。

つまり高額の残業代自体が「許せない」と報じています。まあ、さいたま市の返答(本当にそうであったかは保証しません)も、

さいたま市の職員課では、取材に対し、この職員が震災対応に追われ、土日祝日も働いていたことが大きいと説明した。ゴミ収集などの現業ではなく、一般事務をしていたというが、具体的な業務の内容などについては、個人情報保護のため答えられないという。

さいたま市の残業代が高かった傍証としてJ-CAST福島市の事例を挙げています。

震災の被災地に聞くと、福島市の職員課では、「時間外手当が給与と同額なケースは、昨年度でもさすがにないですね」と驚いた様子で話した。11年度は、震災対応などで1000時間を超える時間外勤務をしたのが25人いたが、最も多い2100時間勤務の職員で、手当が500万円ぐらいだという。震災前の手当は、多くて200万円台ぐらいだとした。

なるほど! と言いたいところですが、良く見なくても比較の条件がそろっていません。残業代は通常の給与から換算した時間給で支払われるので、元が高給なら高くなり、安ければ低くなります。では給与の全額が時間給計算の対象になるかと言えばそうではなく

  • 含まれるもの


      基本給(職能給、職務給、年齢給など)、皆勤手当、食事手当、資格手当、運転手当、役職手当など


  • 含まれないもの


      家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時給与、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与
記事にあるさいたま市

課長補佐級の40代男性職員は11年度の1年間で、1873時間の時間外勤務をし、783万円もの手当を支給されていた。この職員の年間給与は791万円のため、合計の年収はなんと1574万円

これにしても年間給与791万円が残業代の計算に含まれるものだけなのか、そうでなくすべてなのかも不明です。さらに複雑なのは時間外及び休日手当には割増がつきます。

分類 割増率 備考
時間外 2割5分以上 月間60時間を超えるとさらに5割増し
深夜 2割5分以上 実際は時間外+深夜で5割以上
休日 3割5分以上 深夜になれば6割以上


細かい事を言えば、時間外割増は1日8時間の上限を超えたときから発生します。たとえば9時〜17時まで就業時間があったとして、昼休みが1時間あれば17時〜18時の残業には割増がつかず、18時から割増がつくです。それと年間1873時間となれば単純計算で1ヶ月156時間となり、月間60時間を超えた時の「さらに5割増」規定も適用される時間帯も多くなっているはずです。

不確定要素が多いのですが、確かなのは年間1873時間に対して783万円の残業代なので、平均残業代時給は4180円になります。さらに残業代以外の給与は791万円である事です。年間の労働時間の計算も不確定要素が多いのですが、年間120日の休日があり、1日当り8時間労働と計算するとおおよそ2000時間です。これらから簡単にシミュレーションしてみます。

残業代単価 割増率 正規時間給 正規給与
4180 1.00 4180 836万
1.10 3800 760万
1.25 3344 669万
1.30 3215 643万
1.40 2986 597万
1.50 2787 557万
1.60 2613 523万
1.70 2459 492万

私の誤解であれば申し訳ないのですが、残業代の時給計算に含まれない「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与」とは具体的にはボーナスの事と思われ、公務員ですから年間4か月分はありそうに思います。そうなるとボーナスが200万円ぐらいになる計算も可能で、そこから考えると残業代の平均割増率は1.5ぐらいが考えられそうです。1.6でも良さそうに思いますが、1.5は確実にあると見ます。 割増率1.5は残業代の割増計算、また残業時間が正規就業時間に匹敵するぐらいの長さですから、60時間以上の5割増も合わせて考えると十分に「ありうる」数字と私は考えます。では福島の事例ではどうだです。2100時間で500万円ですから、残業代1時間単価は2380円になります。
残業代単価 割増率 正規時間給 正規給与 年間給与推測
2380 1.00 2380 476万 635万
1.10 2164 433万 577万
1.25 1904 381万 508万
1.30 1831 366万 488万
1.40 1700 340万 453万
1.50 1587 317万 423万
1.60 1488 298万 397万
1.70 1400 280万 373万

さいたま市と同様に割増率1.5と考えれば、年間の総給与が420万円ぐらいなら妥当な支払額になります。福島とさいたま市の違いは元の給与の違いに過ぎないとも言えます。この試算に近ければ福島だって、
    残業年2100時間で500万円、年収1000万 福島市職員なぜそんなことが許されるのか
てな感じにもなります。1000万にしたのは残業代計算に含まれない「その他の給与」が含まれるとしてです。それと震災時の福島市だから許されるかどうかの話は、別次元の問題と御理解下さい。まあ、福島の2100時間職員がさいたま市並の給与をもらっていれば、今度はサービス残業がテンコモリあったの話につながりますが、これ以上は情報がないので、あくまでも「まともに払った」と考えます。 J-CAST福島市以外に千葉市の例も挙げていますが、

さいたま市と同じ首都圏の千葉市では、国への派遣を除くと、11年度は、最も多い1256時間勤務の職員で、手当が350万円ぐらいだという。1000時間を超える時間外勤務をしたのは5人だけで、いずれも震災対応だった。市の給与課では、「うちでは、課長補佐級は管理職ですので、時間外手当はありません」としている。

千葉市では、

    うちでは、課長補佐級は管理職ですので、時間外手当はありません
管理職の定義を良く確認しましょうね。千葉市には名ばかり管理職がウヨウヨいる事が誇らしげに主張されています。お時間がありましたら、法務業の末席様、よろしくレクチャーお願いします。

とにもかくにも計算に怪しい部分は含むとしても、「残業時間」に相応しい「残業代」であると出来ると思います。


さいたま市のマネージメントは?

企業はもちろんですが、役所だってあり余る人を雇っているわけではありません。基本は業務量に見合う人数を雇っているです。この業務量とは平時のもので計算されます。ここに突発的に業務量がドカンと増えれば、その人数ではこなせなくなります。単純な算数です。そして震災は業務量を突発的に増やしたとしてもおかしくありません。

業務量が突発的に増えたときには、ごく単純には人数を増やしての対応が考えられます。考えられますが、突発的に増えた業務が今後どうなるかで判断は変わります。震災での業務量の増大は、あくまでも短期的であり、中長期に見れば時期が過ぎれば平時の業務量に戻ります。短期の業務量の増大に対して人数を増やすのは悪いとは言えませんが、無闇に増やすと今度は平時で人が余ります。

それとお役所は年間予算で動いています。人件費もまた年間予算で決められています。途中で変更するには議会での承認手続きが必要で、どうしても年度単位の対応になります。これは役所に限らずの傾向もまたあります。これぐらいを頭において考えて欲しいのですが、記事にある

同一職員ではないものの、同じ課長補佐級の男性で、1年間で1843時間の時間外勤務をし、747万円もの手当を支給されていた。この職員の年間給与は781万円のため、合計の年収は1528万円に上る。職員課では、生活保護を受け持っており、その業務量が多かったためだと説明している

さいたま市に甘いの批判もあるとは思いますが、年間1843時間の残業が発生していますが、これは昨今煩くなった生活保護問題に対する業務量が増大したとお受け取れます。別に生保問題でなくとも良いのですが、とにかく業務量が異常に増大した結果と見れます。これが翌年には解消しているとも受け取れますから、さいたま市は何らかの対策を行ったと見ることも可能だと言う事です。

「震災に関係なく発生している」の根拠にJ-CASTは取り上げていますが、震災でなくとも特定の部署の業務量が急に増大する事はありえます。マネージメントからすれば、業務量の増大に対して他の部署からの応援等の対策が取れなかったが問われるべきかと思います。震災時に関しては、どの部署とも平時より業務量が増大するとしても不自然でなく、とくに負担がかかる部署が生じても他の部署から融通が利かせにくかったがあっても不思議はないです。

ベストのマネージメントでなかったは言えるとは思いますが、ボロクソに批判できるほどの根拠も、この記事から拾い上げるのは難しいと私は感じます。


記事の問題点は?

J-CASTの記事の中途半端さは、単に金額だけを叩いている点かと感じます。冷静に考えなくとも、正規の従業時間に匹敵するほど残業を行えば、正規の給与に匹敵するぐらい残業代が支払われる事のどこが不思議なのかです。まるで残業代を支払うのが不当行為であるかのような書き方です。従業員サイドからすれば正式に「残業である」認められた限りは残業代を受け取るのは当然です。もし問題にするのなら、実態の乏しい残業に支払っているとかぐらいは材料が必要と思います。

真に問題にするべき事は、残業代が高額になった要因(=長時間残業の発生)に目を向けるべきでしょう。それこそ、

  1. 残業代の発生が震災要因だけで説明できるのか
  2. 職員の業務量が残業を必要としたのか
  3. 日常業務でも本当に人が足りていたのか
  4. 過重な負担を回避する手段はなかったのか
J-CASTの取材力では無理かもしれませんが、どうにも「公務員とは働かないもの」「公務員とはサボるもの」の先入観念だけで記事を組み立てているようにしか見えません。そういう公務員批判自体が許されないとは思いませんが、批判するにはそれだけの根拠が必要と思います。残業を2000時間近く働いた職員をこれだけ貶めるには、もう少し裏付けを取るべきかと思います。もし命を削る思いで働いていたのなら、大いなる侮辱になるんじゃないかです。

それとですが、J-CAST記事では福島の2100時間で500万円は何の問題もしていません。ところがさいたま市の1873時間で783万円は許されざるものかのように書かれています。この基準の違いは何なんでしょうか。500万円ならOKで、783万円なら論外と言う事でしょうか。私には理解しがたいところです。

まあ、こういう批判が出れば、今度は残業代の隠蔽のためにサービス残業が増えるのもこれまた世の常なのも悲しいとところです。


医療職は・・・

個人的にはこれが一番笑ったのですが、

さらに、医療職を除く職員では

あれまあ、医療職は除かれちゃいました。除いても記事は「まったく」問題にもしていないようです。さいたま市もよほど公表したくないのでしょうし、J-CASTも触れたくなかったのでしょう。個人的にはどれほどの残業時間が公式に認定され、どれほどの残業手当が実際に支払われたのか「とっても」知りたいところでした。それにしても医療職が除けるなら、さいたま市も一般職も除けば叩かれなかったのにと思ってしまいました。