4/2付医療維新より、
日赤医療センターは労基署の是正勧告にどう対応したか/3点の勧告に書類上は対応、「1時間の休憩取得」など実態が伴わない面あり
「労働基準監督署の指導は受けたが、うちは特別問題があるわけではない」。こう話すのは、日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)産科部長の杉本充弘氏。
この3月、都内で総合周産期母子医療センターを持つ病院が、相次いで労働基準監督署による是正勧告を受けた。日赤医療センターと愛育病院だ。昨年秋、都内で母体搬送が問題になり、総合周産期母子医療センターに勤務する医師の厳しい勤務実態がクローズアップされたのがきっかけだ。
「周産期部門を中心に医師や看護師などについて、昨年10月以降の出勤簿や時間外手当の支払い状況などが調べられた。ちょうど3月25日から“スーパー周産期”が開始するところであり、その関連も踏まえた調査だと受け止めた」(日赤医療センター管理局長の竹下修氏)。渋谷労基署の立ち入り調査が行われたのが1月28日、是正勧告を受けたのが3月13日だ。
日赤医療センターの職員は約1300人に上る。愛育病院では全医師の勤務実態などが調査されたが、日赤医療センターでは職員数が多いことから、全数調査ではなかった。周産期部門を中心に複数科の職員について、2008年10月以降の出勤簿や時間外労働に対する手当の支払状況などが調べられた。
労基署の是正勧告の内容は、(1)「36協定」を結んでない、(2)労働時間が8時間を超えた場合に、1時間の休憩時間を与えていない、(3)研修医(1人)の時間外労働に法定割増賃金を支払っていない日が1日あった、の3点。(1)と(2)は愛育病院と同様だが、(3)は異なる(愛育病院の是正勧告内容については、『「法令違反」と言われては現場のモチベーションは維持できず』を参照)。
追加の法定割増賃金の支払いは研修医1人
まず今回の3点の是正勧告の内容とその対応策を見る。
(1)36協定について
竹下氏は、「36協定」(労働基準法36条が規定する時間外・休日労働に関する協定)を締結していなかった理由について、「約1300人の三交代制の職場で、職員の選挙で決めることが難しかった。約1300人のうち実際に投票に来るのは800人程度。職員の過半数の支持を得るには、800人のうち650人の票は取らなければいけないことになる。二人の立候補者が出れば票が割れるなど、代表者の選出が容易ではなかった」ことを上げる。「36協定」は、病院側と、労働組合または全職員の過半数の職員の代表者との間で締結する必要がある。この代表者の選出が困難だったわけだ。
今回は2人の立候補者がいたが、「選挙」では決定しない可能性があることから、まず一人の候補者について「信任投票」を行った。この候補者について、「職員の過半数超」の信任が得られたことから、この人を代表者として決めた。「36協定」を労使間で結び、3月30日に労基署への届け出をし、受理されている。
(2)1時間の休憩時間について
是正勧告内容は、「労働時間が8時間を超えた場合に、少なくても1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えること」。
日赤医療センターの勤務時間は8時30分から17時10分。休憩時間は12時から45分間(1週間の勤務時間は39時間30分)。「17時10分を超えたときには15分間の休憩を取ってから、時間外労働をさせなければならないと指導されたので、これを徹底する」(竹下氏)。なお、この4月から勤務時間をさらに10分短縮して、17時までとしている。
(3)研修医への法定割増賃金の支払いについて
対象となったのは1年目の研修医1人で、2008年11月19日の1日のみ。「当直業務のときに通常業務を行っていた時間があったが、法定割増賃金を支払っていなかった」(竹下氏)。ローテーションしていたのは、周産期医療以外の診療科だ。4月分の給与で支払うという。なお、日赤医療センターの場合、医師の場合、宿直料は1回2万円、日直料は1回4万円。それに加えて、救急患者への対応などの業務を行った場合には、その時間分の時間外労働に対する法定割増賃金を支払っている。
日赤医療センターの出勤簿は手書きで、時間外労働については勤務時間やその内容を診療部長などの所属長に提出、所属長が「時間外労働」であると認めた部分については法定割増賃金を支払う仕組みになっている。
例えば、産婦人科の場合、常勤医は22人(うち後期研修医は10人)で、総合周産期母子医療センター(MFICU6 床、分娩室6室、一般病床100床)のほか、婦人科診療を担当する。分娩数は年々増えており、年間2500件を超し、都内ではトップクラス。うち帝王切開手術は約20%。35歳以上の妊婦が4割強。母体搬送件数は2007年度の場合、185件。
総合周産期母子医療センターの場合、夜間は複数医師体制を組むことが求められる。日赤医療センターの場合は3人体制で、宿直回数は週1回だという。分娩件数も多く、相当の業務量に上るものの、「宿直の翌日は、午前中、もしくは午後は休ませよるようにしている。1カ月の時間外労働は30−40時間程度だ」(杉本氏)。
労務問題は全国の多数の病院に共通の課題
日赤医療センターでは今回、是正勧告を受けた事項そのものについては、書類上は対応を終えた。しかし、休憩を確実に取っているかなど実態はどうか、さらには是正勧告を受けた以外に勤務実態上、労基法上で問題がないかどうかは別問題だ。
また今回のような労務問題は、日赤医療センターに限らず、全国の多くの病院に当てはまる問題でもあり、決して他人事ではない。
医師をはじめ、職員が外来診療の途中、手術中などに12時から45分間、休憩が取れるわけはない。また多少遅れた時間からであっても、45分間を昼食に充てることができる病院はどの程度、あるのだろうか。
さらに、宿日直業務の問題もある。病院が職員を宿日直業務に従事させる場合には、「断続的な宿直又は日直許可申請書」を労基署に提出しなければならない。日赤医療センターの場合は未提出だ。「申請書を提出しようとしたが、労基署は宿直等ではなく、通常業務の延長であるとされ、受け取ってもらえなかった」(竹下氏)。
この「断続的な宿直又は日直許可申請書」を提出している病院であっても、申請の内容と実態が見合っておらず、「宿直」ではなく、「通常業務」である病院は少なくないだろう。
「宿直という名の時間外労働」は、何も今に始まったことではないが、長年、改善されてこなかった。今回、母体搬送が問題になっている最中、総合周産期母子医療センターを持つ都内2病院への是正勧告だっただけに、関係者の注目が集まると同時に、問題意識も高まり、まさに“パンドラの箱”を開けた格好だ。現場の医師らがいかに問題視し、声を上げるか、一方で病院、行政がどうこの問題に対処していくか、今後の動向が注目される。
日赤が是正勧告をされたのは3点で、
- 「36協定」を結んでない
- 労働時間が8時間を超えた場合に、1時間の休憩時間を与えていない
- 研修医(1人)の時間外労働に法定割増賃金を支払っていない日が1日あった
日赤医療センターの場合、医師の場合、宿直料は1回2万円、日直料は1回4万円。それに加えて、救急患者への対応などの業務を行った場合には、その時間分の時間外労働に対する法定割増賃金を支払っている。
業務の頻度の問題も当然あるのですが、その辺は藪の中、表帳簿と裏帳簿の世界ですが、宿日直料を支払い、業務を行った時だけ法定割増賃金を払う体制は一見問題が無さそうに読めます。しかし日赤医療センター管理局長の竹下修氏は極めて重大な発言を行なっています。
「申請書を提出しようとしたが、労基署は宿直等ではなく、通常業務の延長であるとされ、受け取ってもらえなかった」(竹下氏)
つまりですが日赤医療センターは、
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労基法41条3項に基づく宿日直許可がない
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通常業務の延長である
ここでなんですが法定割増賃金ですが、細かい解釈規定がいろいろあるのは飛ばして、
- 時間外労働
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時間給の25%割増
- 法定休日(日曜祝日)
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時間給の35%割増
- 深夜労働(午後10時〜午前5時)
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時間給の50%割増(時間外割増25% + 深夜割増25%)
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午後5時〜午後10時(5時間):25%割増
午後10時〜午前5時(7時間):50%割増
午前5時〜午前9時(4時間):25%割増
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時間外割増25%増:8時間
時間外割増50%増:6時間
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時間給:1049円
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約17万円弱
例えば、弾力運用というようなことも考えてくれというのは、聞く耳を持たないわけではありません。
この発言の実用例でしょうか。日赤に行なわれた弾力運用とは、
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労基法41条3項に基づく当直許可を認めなくとも、弾力運用により「許可がある状態」と見なし黙認する