日赤医療センターの怪

愛育ばかりを取り上げていましたが、スーパー総合周産期センターである日赤医療センターにも労基署からの是正勧告が出されています。ある産婦人科のひとりごと氏の愛育病院、日赤医療センター: 労働基準法違反で是正勧告に掲載されている3/27付日経メディカルオンラインより一部引用します。

日赤医療センターは、1月28日に渋谷労基署の立ち入り調査を受け、3月13日に是正勧告を受けた。日赤医療センターが「このような是正勧告を受けたのは初めて」(管理局長の竹下修氏)だという。

 日赤医療センターは、(1)1日8時間の法定労働時間を超過した時間外労働について職員の代表と協定(通称36協定)を結ぶこと、(2)8時間の労働後に1時間の休息を徹底すること、(3)08年11月19日に時間外労働を担当した研修医に対して、法定割増賃金を支払うこと――といった是正勧告を受けた。ちなみに、立ち入り調査では愛育病院のように、1カ月当たり最大45時間と定められている時間外労働を超過した過重労働は認められなかった。

非常に気になる表現は、

    1カ月当たり最大45時間と定められている時間外労働を超過した過重労働は認められなかった
これはどういう前提で「認められなかった」のでしょうか。愛育であった(医療維新より)、

○時間外勤務についての割増賃金が支払われていなかった

 労基署の見解では、当直とは夜間の見回り程度の宿直業務であり、原則として睡眠時間が確保される状態のもの。しかし、周産期医療現場では夜を徹して分娩などの医療行為に当たることが常態であると言える。この点について労基署は、当該業務は事実上、宿直ではなく夜間勤務であるとし、それに伴う時間外勤務への賃金を支払うよう求めた。

つまり愛育の場合に指摘された、

    周産期医療現場では夜を徹して分娩などの医療行為に当たることが常態であると言える
この指摘を受けた上でのものであるか、そうでないかの違いです。受けていないのなら日赤の当直の勤務様態は愛育と異なり、平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」および平成14年3月19日付基発第0319007号の2「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(要請)」で通達されている。

常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること。

これを満たしている事になります。同じ東京の総合周産期センターであり、既にスーパー総合周産期センターと活動している日赤の勤務態様が「そうである」とするのは摩訶不思議な事になります。時期をほぼ同じくして行なわれた労基署の是正勧告がそんなにかけ離れた内容になるのでしょうか。真相を確認する情報が無いので、ここでは仮に同様の是正勧告があったとしておきます。

日赤の産婦人科数は日赤の担当医紹介では15人確認できます。日赤の産婦人科数については24人であるとの説があったり、そこには前期研修医まで含んでいるという説があったり、愛育同様、妊娠や育児のために時間外勤務を免除されている産科医がいるという説もあります。18人説と言うのもあるのですが、これもまた実戦力の確認が難しいので、それぞれで考えてみます。

4月モデルの時間外勤務時間数は1人当直で513時間です。日赤は3人当直体制であるとされるため1539時間になります。そうなれば、

    15人説:1539時間 ÷ 15人 = 102.6時間/人
    18人説:1539時間 ÷ 18人 = 85.5時間/人
    24人説:1539時間 ÷ 24人 = 64.1時間/人
24人説でも「1ヶ月45時間」の上限をオーバーしています。非常勤医師の応援があるのかもしれませんが、一方で当直以外の医師の時間外勤務もかなりの時間発生するのは周知の事であり、そういう野戦病院のようなところが日赤医療センターであるのも医師の間でよく知られています。ちなみに45時間以内に抑えるためには、
    1539時間 ÷ 45時間 = 34.2(人)
24人説を取ってもまだ延べ12人以上の非常勤医師の応援が必要になります。少し計算方法を変えると
    1539時間 − 24(人)×45時間 = 459時間
    1539時間 − 18(人)×45時間 = 729時間
    1539時間 − 15(人)×45時間 = 864時間
24人説でも最低限459時間分の非常勤医師の応援がないと成立しません。そうなるとやはり日赤医療センターの当直の勤務の態様は、
    常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること。
こうであると労基署が認定し、
    したがって、原則として、通常の労働の継続は認められないが、救急医療等を行うことが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分とりうるものであれば差し支えないこと。 なお、救急医療等の通常の労働を行った場合、下記3.のとおり、法第37条に基づく割増賃金を支払う必要があること。
ここにある「救急医療などの通常の勤務」で支払われた割増賃金分及びその他の時間外勤務を全部あわせても「1ヶ月の時間外勤務の45時間以内」であったと言うことなります。もちろん実情として帳簿操作の辻褄合わせが巧妙に行なわれ、サービス残業の発生を見抜けなかった可能性も考えますが、労基署の監査はそんなに間抜けな代物であるかどうかに疑問が残ります。


愛育に対して行なわれた勤務の態様の見解は労基署の統一見解であったかと思っていましたが、日赤がそうでないのならあくまでもケース・バイ・ケースと考えたほうが良いのかもしれません。ただそうであれば、

    愛育の労働量 >> 日赤の労働量
こういう関係が成立しなければなりませんが、情報不足でこれ以上はよくわかりません。これだけヒマだから日赤はスーパー総合周産期に指定されたの見方も出来ますが、それなら無理してスーパー総合周産期センターなんて指定しなくとも、それだけ余力があるのですから単純に搬送を応需すれば良いと思います。さ〜て裏舞台はどうなっているのでしょうか。