滋賀の事件のさらに続報

滋賀の事件とは県立成人病センターに対して労働内容の相談が行なわれた一件です。まず告発の覚悟を決めた医師が、

告  発  状

2008年○月○日

○労働基準監督局 御中
告発人住所 ○○○○
告発人氏名 ○○○○

  1. 被告発人 ○○○○(○○○○病院管理者)が管理している○○○○(病院)における医師当直と称する勤務は、厚生労働省通達に反しており、夜間勤務に相当するものである。

    労働基準法36条に定める取り決めなく、○○○○(病院)勤務医師に対して夜間勤務を命じ、労働基準法32条に反している。

  2. 被告発人 ○○○○(○○○○病院管理者)は、夜間勤務するいわゆる“当直”医師に対し、労働基準法37条に定める時間外手当を払わず、同条に反している。

  3. 被告発人は、○○○○(病院)の被雇用者の勤務時間の補足を行う労務管理義務を果たしておらず、タイムレコーダーやICレコーダーによる管理を実施しておらず、労働基準法に定める労務管理義務を怠っている。

  4. 被告発人 ○○○○(滋○○○○病院管理者)は、○○○○(病院)に勤務する部長職以上の医師を管理職として、時間外手当の支給をしていない。同部長は、1)出退勤の自由がないこと、2) 病院経営支配の権限がないこと、などから、管理者には相当しない支配従属を受けている被雇用者に過ぎない。いわゆる“名ばかり管理職”としての労務管理となっている。

  5. 早急に捜査の上、厳重に処罰していただきたく告発する。

労基局に告発医師が持参した書面はほぼこの内容であったとされます。題名が「告発状」なのに「相談」になったのは労基局が受理しなかったのではなく、告発医師が印鑑を忘れたためとされます。ただ相談であっても確実に労基局は動き調査の結果、是正勧告書が出されています。勧告内容は、

法条項等 違反事項 是正期日
労基法32条 時間外・休日労働に関する協定の届け出なく、時間外・休日労働を行なわせていること。 20.5.末
労基法第37条 部長職以上の医師について、時間外・休日及び深夜の割増賃金を」支払っていないこと。なお、宿日直勤務時に通常の労働に従事した場合についても同様の事(平成18年4月1日に遡及して支払うこと。)。 20.5.末
指導事項 労働者の労働時間について、『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準』に基づき適正に管理すること。 20.5.末


以上3項目について5月末日までに是正せよの勧告が出されています。是正勧告に対する改善計画書小児科医と労働基準に掲載されています。改善計画書冒頭には、

 平成20年4月18日付けの是正勧告による改善指摘事項について、下記のとおり改善計画書を作成いたしましたので報告いたします。今後、本計画に従い改善いたします。

今後の改善計画スケジュール表まであるのですが、リンク先を御参照ください。計画の骨子部分は、

改善事項 改善の概要 予定時期
時間外・休日労働に関する協定の締結、届け出 労働基準法第36条に基づく協定を締結し、大津労働基準監督署に届け出る。 平成21年3月末日
部長職以上の医師について、時間外・休日及び深夜の割増賃金の支払い 病院長を除く部長職以上の医師について、時間外・休日及び深夜の割増賃金を平成18年4月1日に遡及して支払う。 平成20年11月〜

平成21年3月末日
すべての医師について宿日直勤務時の通常勤務に係る割増賃金の支払い 医師について、宿日直勤務時の通常勤務に対して、割増賃金を平成18年4月1日に遡及して支払う 平成20年11月〜

平成21年3月末日
労働者の労働時間の適正管理 「労働時間の適正な把握のために使用が講ずべき措置に関する基準」に基づき、ICカード度導入により適正に管理する。 平成20年6月末日


読んでの通りですが、滋賀県側は是正勧告を忠実に改善するとしています。予定時期については適切かどうかは私には判断できませんが、おそらく改善計画書にも一定の型はあるでしょうから、こういうものになるのではないかと考えています。とりあえず今年度中にはすべて改善するとの県側の回答です。この通りに改善される事を願います。ここで気になるのは佐賀県立病院好生館の先例です。好生館に対する是正勧告書小児科医と労働基準に掲載されています。

法条項等 違反事項 是正期日
労基法32条 時間外労働に関する協定届を所轄労働基準監督署に届出ることなく法定労働時間を越えて労働させていること。 即時
労基法第37条 法定労働時間を越える時間外労働に対し、法定の割増賃金を支払っていないこと。(不足額を確認し支払うこと。) 19.7.4
労基法第108条 非常勤嘱託である研修医の賃金台帳に労働時間数、時間外労働時間数等の法定記載事項力配入されていないこと。 19.7.4


好生館と言うより佐賀県側はこの勧告にどういう改善計画を提出し、どう実行されたかは分かりませんが、おそらく労基法37条違反に対して遡及期日が書かれていないことを理由に未払い賃金の時効化を是認しています。滋賀の場合は遡及期日が明記されているので、その点は是正勧告として優れているかと思われます。

もう一つなんですが、労基法32条違反に対する改善はどうなっているかが気になります。労基法32条の違反状態を解消するには労基法36条による協定が必要なはずなのですが、これは改善されたのでしょうか。内容的に近いところがあると思われる是正勧告を受けた2つの病院のその後に注目したいところです。