地味だが画期的な気がします

12/16付産経新聞より、

医師の残業代1億超未払い 川崎市立病院に是正勧告

 川崎市川崎病院(同市川崎区)が、医師に残業代の一部を支払っていなかったとして、川崎南労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが16日、分かった。

 同病院によると、残業代未払いの対象は医師175人で、平成20年10月〜22年10月までの支給分総額約1億1400万円。来年度までに全額支払う。

 同病院は従来、宿直勤務(午後5時〜翌日午前8時半)にあたる医師に宿直手当と診察や治療などの割増賃金だけを支払っていたが、同労基署が21年9月に待機などをしている時間も残業に当たるとして残業代を支払うように勧告した。同病院によると、地方自治法の規定で、20年9月以前の未払い分は時効という。

 同病院庶務課は「指摘されるまでは適法だと思っていた。労基署と病院側の残業に関する解釈が違っていた」と話している。

もうひとつ12/16付共同通信(47NEWS版)より、

残業代1億円超未払い 川崎市立病院に是正勧告

 川崎市川崎病院(同市川崎区)が、医師に上限を超える時間外労働(残業)をさせ、残業代の一部を支払っていなかったとして、川崎南労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが16日、分かった。

 川崎病院によると、未払い総額は2008年9月〜10年9月の医師175人に対する約1億1400万円。2012年3月末までに全額支払う。

 川崎病院は宿直勤務(午後5時〜翌日午前8時半)について、診察・治療時間の割り増し賃金と宿直手当だけ支払っていたが、同労基署が09年9月、治療行為などをしていなくても待機している勤務時間も残業時間とするよう勧告した。

どちらも似たような内容ですが、

    同労基署が09年9月、治療行為などをしていなくても待機している勤務時間も残業時間とするよう勧告した。
2009年9月時点であることにちょっと注目したいところです。奈良産科医時間外訴訟の経過と簡単に対照しておくと、

date 事柄
2009.4.22 奈良産科医時間外訴訟・奈良地裁判決
2009.9 川崎市立病院に労基署から是正勧告
2010.11.16 奈良産科医時間外訴訟・大阪高裁判決


連動しているかどうかは何とも言えませんが、何となく微妙な関係にあると思います。もう一つの注目点は、産科医だけでなく病院当直医全体を対象にしている事です。川崎市立病院は700床以上の大病院ですから、実態として当直医の宿直が通常勤務に近いのではないかは十分に推測されますが、産科当直以外でも当直の実態は勤務であると認定されている事になります。

どれぐらいの基準で「当直勤務 + 時間外勤務」と認定されるかの詳しい根拠は不明ですが、私の知る限りで参考になりそうなのは、平成14年11月28日付基監発第1128001号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」に「通常の労働が頻繁」の条件があり、表にしたのを再掲しておくと、

1ヶ月の救急対応日数 1日の対応時間の上限
7日以内 規定なし
8〜10日 3時間以内
11〜15日 2時間以内
16日以上 1時間以内


通達ですから重視されると考えると、この条件を越えるところは、平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」にある、

宿日直勤務に係る許可を行つた医療機関等を対象として、休日及び夜間勤務について、その労働実態を把握し、法第41条に基づく断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが適切であるかについて確認を行い、問題が認められる場合には、宿日直勤務に係る許可基準に定められた事項の履行確保を図ること又は宿日直勤務に係る許可の取消を行うことにより、その適正化を図ることとしました

これの履行を求められている可能性があります。もうちょっと言えば、

  • 休日及び夜間勤務の労働実態から断続的労働である宿日直勤務によることが困難である場合には、法第41条に基づく断続的労働である宿日直勤務としての取扱いを廃止し、交代制の導入等について検討すること
  • 休日及び夜間勤務の労働実態から、引き続き宿日直勤務により対応が可能であるものの、突発的に行われる通常の労働に対して法第37条に基づく害1増賃金を支払うなどの許可基準に定められた事項(別紙参照)を満たしていない場合においては、許可基準に定められた事項を遵守すること

これに準じて労基署が動き判断している可能性も十分考えられます。ここも労基法的に素直にと言うか、普通にと言うか、適切に解釈すれば、かなりの病院の「医療法上の宿直」は「労基法上の宿直」に該当しないとするのが妥当です。その辺についての川崎市立病院の見解ですが、

    同病院庶務課は「指摘されるまでは適法だと思っていた。労基署と病院側の残業に関する解釈が違っていた」と話している。
解釈が間違っていたのを素直に認めておられるようです。「当直勤務 + 時間外勤務」と「すべてが時間外勤務」の線引きは確かに微妙な事もあり、さらにはそれまでの慣行があったりしますから、間違いを指摘されたら、直ちに正す姿勢は素晴らしいんじゃないでしょうか。少なくとも川崎市立病院と言うか、川崎市は「医療法の宿直」と「労基法の宿直」の違いは理解されておられるようです。



ついでですから12/16付共同通信(47NEWS版)より、

時間外手当6200万円支払い 金沢大、労基署勧告で

 金沢大病院と金沢大が適正な時間外手当を医師や大学職員に支払っていなかったとして、金沢労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受け、医師や職員計約1500人に計約6200万円を支払っていたことが16日、分かった。

 金沢大などによると、付属病院と同大は2004年4月の独立行政法人化以降、法人化前と変わらず、国家公務員法に基づいて職員の時間外手当を支払っていたが、08年12月、金沢労働基準監督署から労働基準法に基づいて支払うべきとの指摘を受けたとしている。

 同労基署は09年、07年7月までさかのぼり、未払い分を支払うよう同大などに勧告していた。

そこはかとなく面白味を誘う記事ですが、

国立大学病院労基法の適用外であったことは先日お勉強しましたが、どうやら国家公務員法の時間外手当の金額とか適用範囲は、労基法よりかなり狭いと言うか低そうに表現されています。興味がそそられたので一般職の職員の給与に関する法律を確認してみると、

第十六条

 正規の勤務時間を超えて勤務することを命ぜられた職員には、正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して、勤務一時間につき、第十九条に規定する勤務一時間当たりの給与額に正規の勤務時間を超えてした次に掲げる勤務の区分に応じてそれぞれ百分の百二十五から百分の百五十までの範囲内で人事院規則で定める割合(その勤務が午後十時から翌日の午前五時までの間である場合は、その割合に百分の二十五を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する

時間外手当は25〜50%の割増で、深夜手当は表現がやや複雑ですが、通常の時間外手当が仮に25%とすると、そのさらに25%増しと書いてありますから、56%程度になると考えられます。おおよそ労基法の規定と同等と考えても良さそうです。休日も規定されており、

第十七条

 祝日法による休日等(勤務時間法第六条第一項 又は第七条 の規定に基づき毎日曜日を週休日と定められている職員以外の職員にあつては、勤務時間法第十四条 に規定する祝日法による休日が勤務時間法第七条 及び第八条 の規定に基づく週休日に当たるときは、人事院規則で定める日)及び年末年始の休日等において、正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられた職員には、正規の勤務時間中に勤務した全時間に対して、勤務一時間につき、第十九条に規定する勤務一時間当たりの給与額に百分の百二十五から百分の百五十までの範囲内で人事院規則で定める割合を乗じて得た額を休日給として支給する。これらの日に準ずるものとして人事院規則で定める日において勤務した職員についても、同様とする。

これも労基法とあんまり変わらないと思われます。違反した時の罰則もあり、

第二十五条

 この法律の規定に違反して給与を支払い、若しくはその支払を拒み、又はこれらの行為を故意に容認した者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。

法律上は国家公務員であっても時間外手当は労基法の規定とほぼ同等に支払われるように読めるんですが、不思議です。私には法が違うと言うより、運用と監督が違うだけにしか読めませんが、面白いですねぇ。労基署の監視が無いので、楽しい労務管理を行っていたと言う事でしょう。