「Heaven helps those who help themselves.」が原文で、サミュエル・スマイルズの自助論の日本語訳として有名です。これもモトネタがあるそうで、17世紀の英国の政治家・哲学者のアルジャーノン・シドニーの言葉「God helps those who help themselves.」から採られたともされます。スマイルズが「God → Heaven」に換えた事によるニュアンスの変化はよく分からないのですが、抽象的と言うか哲学的な「God」からもう少し具体的な「Hwaven」に置き換えたのではないかと推測しています。
ですから「Heaven」は日本語の極楽ないし天国に近い意味であり、もう少し教訓的には「望むべき環境」とか「達成を目指す到達点」、もしくは「成功者」さらにはもっと単純に「成功」に近いニュアンスと考えています。難しくこねくり回さなくとも、「努力なくして成功なし、努力するものに天運は回る」ぐらいの解釈でもちろん十分です。
そんな前置きをしておいて7/30付四国新聞より、
高松市民病院に是正勧告/協定なしで医師が残業
高松市民病院(香川県高松市宮脇町2丁目、小笠原邦夫病院長)が、労働基準法で定めた残業に関する労使協定を結ばずに医師に残業をさせたとして、高松労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが29日、同病院への取材で分かった。残業代は支払われており、同病院事務局は「病院側のミス。速やかに協定を結びたい」としている。
病院によると、今年2月に労基署の立ち入り検査で指摘された。残業について、医師以外の看護師や薬剤師らを対象に「月45時間以内」とする労使協定を結んでいるが、医師は除外されていたという。3月2日に是正勧告を受けた。
本来なら協定の対象となる医師は27人。同病院では9月1日から翌年8月31日までの1年間で各種労使協定を結んでおり、来月中に残業上限を月45時間以内と定めた協定を医師と締結する。医師の平均残業時間は月10時間程度という。
いつから協定の対象外となっていたのかは不明。理由について事務局は「はっきりしないが、医師は徳島大などから数年単位の派遣が多く、協定の必要はないと勘違いしていた可能性がある」などと釈明している。
同市立の香川、塩江の両病院でも、市民病院と同様に医師と残業に関する労使協定を結んでおらず、今後締結する方針という。
最近五月雨式に報道される病院の労基法違反ニュースに一つです。報道される数も増えてきたのですが、実際に労基署の立ち入り検査を受け是正勧告を受けている医療機関はもっと多いのですが、報道されるケースとそうでないケースの線引きはよく分からないところです。付け加えておくと是正勧告を受けるに値する医療機関は「そうでない」ところを探すのが大変なぐらいあるとされます。
病院事務局の釈明がとりあえず面白いのですが、
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「はっきりしないが、医師は徳島大などから数年単位の派遣が多く、協定の必要はないと勘違いしていた可能性がある」
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医師は除外されていたという
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医師の平均残業時間は月10時間程度
31人の残業時間は月平均11・3時間(5月)で、医師を除く病院職員について、組合側と結んでいる現行協定の上限45時間を下回っていた。
四国新聞では対象医師は27人となっていますが、3月に是正勧告を受けた時点の31人から27人に現在は医師が減ったためとなっています。まあ、日本中の勤務医から鼻で笑われるような釈明をしている事が確認できます。もちろん実態は知る由もありませんが、高松市新病院既報構想に
がん, 脳卒中, 急性心筋梗塞および糖尿病の4疾病ならびに救急医療, 災害時における医療,へき地の医療, 周産期医療および小児医療( 小児救急医療を含む。) の5事業を中心とした医療を提供します。
きっと今は「まったく」提供していないのだと思われます。もし提供していれば、これもまた病院の労務管理で白昼堂々行なわれる「時間外勤務時間の帳簿上処理」がキッチリ行なわれている事の一つの傍証になります。
もう一つ興味深いところを同じ読売記事から引用すると、
常勤医師46人のうち、管理職を除く31人に時間外手当を支払っていた
ここも注目すべき点で46人中15人が管理職、つまり労基法41条2号の「管理監督者」として時間外手当を支払っていない事です。この管理監督者の話も何回もしていますが、労基法41条2号の管理監督者として時間外手当を値切るには、労基法41条2号の条文にある
事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
これを満たす必要があり、具体的には
さらにこの条件の適用も訴訟になれば怖ろしく厳格です。ちなみに「名ばかり管理職」で問題になった滋賀のケースでは、是正勧告の結果、管理監督者に残されたのは、-
病院事業庁次長および各センター病院長
記事情報程度からでも突っ込みどころはあるのですが、これを活かすも殺すも労基法運動で言えば「天は自ら助くる者を助く」です。告発なり告訴をすれば、労基署が是正指導に動くところまでは現在確認されています。しかし是正指導されただけでは労働環境は必ずしも改善されません。この辺の呼吸はこのブログの読者ならよくご存知かと思います。
記事情報を読む限り、労基署からの是正勧告は非常に適当に病院が扱っている事がよくわかります。私が指摘した程度の事を「正しい事」として平然とマスコミに語るほど、なめてかかっています。もちろん報道情報だけでは実情はわかりませんが、外野としてはひたすら健闘を祈るだけです。
エールを贈ったところで改めて気になったのは、医師数の変化です。
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31人 → 27人
2月に労基署の立ち入り調査があり、3月2日に是正勧告を受けた。
病院側としていかにもやりそうな事は、2月の時点で犯人さがしに取りかかり、4月ないし5月の人事で異動するように大学医局に働きかけるは十分ありえます。この憶測のネックは4人減になっているところで、後任が見つかっていないところです。どうなっているかは内部情報がありませんから、この程度の可能性の指摘に留めておきます。