TPPのお勉強

先週よりもう少しお勉強してみました。まずは日本情報分析局様の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)私訳 『目次』です。労作なんですが、これの問題点をピックアップして分析してくれと言うのがkoume様のリクエストでしたが、時間と気力が少々足りません。そこで11/11付の参議院予算委員会でのTPPに関する集中審議を見ながら泥縄式に勉強してみます。これも全部は長いので、佐藤ゆかり議員の質疑部分を取り上げてみます。

これが30分以上はあるのですが、TPPのお勉強のために頑張ってみます。

佐藤 続きましてTPPに関しまして質疑をさせて頂きたいと思います。まずこのTPPに関してですね、闇雲に感情論に走るのは良くないと思われます。そこで私は一つ冒頭で申し上げておきたいと思いますのは、あたかもTPPイコール貿易推進派、反TPPイコール反貿易自由化派と言うようなレッテルの下での議論を行うべきではない。それをまず冒頭申し上げておきたいと思います。

その上でですね、このTPPと言うのが今政府のみなさんのお話を伺ってますと、どうもTPPイコール通商条約と言う形で御答弁されている。そういう側面が強いように思うのですね。ところがTPPと言うのは遥かに通商条約を越えて、国家社会全体を網羅するようなそういう話なんですよ。ですからそこから認識を変えて頂いて、議論を深めて頂かないとまったく正しい結論に導く事はできない。そういう事を一点目まず申し上げておきたいと存じます。

そこでですね、日本はシンガポールやマレーシア、インドと個別にバイのEPAを既に締結しておりますし、たくさん実績もあるわけであります。この自由化をする事は日本の経済成長を促進するので極めて大事である。これはほとんど異論のある人はいない、こういう風に思うわけではありますが、ではTPPなのかあるいはバイのEPA交渉の数を増やしていくのか、あるいはASEANシックスなんて色んな自由化協定の枠組みはたくさんあるわけでありますが、このあたりなぜにTPPなのか、逆に日本の国益にとりまして、このエスパートに向けてすね、経済効果のもっとも高い包括的自由貿易協定の枠組みはなんであるか、野田総理にもう一度認識をお尋ねしたいと思います。なんの協定が一番高いと思われますか。
首相 あの、高いレベルの経済連携を推進していこうと言う事が、先ほど御議論のあった新成長戦略に書いてあります。それを踏まえて昨年の11月に包括的な方針をまとめまして、あの、いわゆるバイをやってました。若干韓国などと較べると周回遅れの傾向もありましたので、バイのEPAを推進しながら、その中でTPP、今御議論頂いておりますけれど。あの、何が一番有用化は難しい話ですけれども、あの、参加をしている国のGDPだけで見るのか、あるいはこれからの成長率、成長性を見るのか、等々それぞれ観点は私は違うかと思います。
佐藤 あの〜、総理はですね、後数時間後に交渉参加表明するかしないか。その決断する数時間前の今のこの時間ですよ、何を言ってるかわからない。エスパートに向けて何が一番包括的な交渉として、総理が何をお選びになるか、数時間後の事を言ってるんですよ。お答え下さい。
首相 あの、質問の意味、わかりました。エスパートの道筋の中で何が一番良いかというお尋ねですね。あの、その道筋はASEANプラス3と、ASEANプラス6と、このTPPです。ASEANプラス3とASEANプラス6については、まだ政府間の検討段階に留まっています。その中で具体的な交渉が始まっているのは今のTPPである。そういう中で我々はどう判断するかと言う事だと思います。
佐藤 まったく答えてませんね。要するに数時間後に総理が今検討しているもの、これTPPじゃないんですか、パーセンテージ経済を押し上げるんですか。仰って下さい。TPPに加入する事によって、日本のGDPは、今林議員からもありましたけれども、もう一度確認させてください。日本の経済押し上げ効果いくらですか。
首相 数字は10年間で2.7兆円であります。
佐藤 それでですね、あの、たとえ、今日本政府としてこのAPECで交渉参加したとしてもですね、それから手続き上は米国の議会で承認を得なければいけない。90日ぐらいかかると言われております。ですから、それを経てようやく日本が交渉のテーブルにつけるのは今から、早くてもですよ、半年後になるわけであります。


そうしますと半年後となりますとですね、だいたいTPPの大枠、条項の中身、条文も殆んど決定済みの段階で日本が最後に入るという形になるわけであります。ですから今の状況で交渉参加して日本に有利な形で条文変更の交渉をすると言う余地は無く、結局半年後に交渉参加した時に、この条文で良いですか、日本として丸呑みするんですか、しないんですかの二者択一の選択を迫られるのに等しいわけであります。その指摘をした上で、このTPPですけれども、デメリットとメリット両方あります。それを総合判断して総理は昨年から積極的にTPP推進の話をされてた。まずデメリットの方から少し。十分衆議院のほうでも議論はなされたと思いますが、お伺いしたいと思います。

まずデメリットにはやはり一番の海外の交渉国である、オーストラリアやらニュージーランド、私も英文のサイトで色々調べました。あまりのも日本政府の情報が不足しているためです。そうしますと色々もめてる案件が浮かび上がってくるわけであります。その一つが知的財産権の取扱い、知財条項です。そしてもう一つは投資の紛争に関する解決に関る手段の条項、ISD条項。この2つは極めて諸外国でも、異論の多い紛糾している項目になっている。そこでまず知財についてお伺いしたいと思いますが、この先ほど申しました様にTPPは通商条約の域を超えて、国家社会を揺るがしかねない、大きな条約の枠組になるわけです。

たとえばWTO知財に対する取引協定に較べますと、TPPの条文でアメリカが案として出している知財条項案。これはですね取引協定を超えて、極めて厳格で広範に規制をするものであります。たとえば医療や医薬品、もう多くの話でています。社会保障分野でさえ、医薬品や医療のやり方さえ特許を課すことによって、社会保障分野でのサービス提供すらですね、社会政策として自由にできなくおそれがある。これがTPPの知財条項であります。


薬価上昇の怖れ、たとえばアメリカの製薬会社が特許をとればですね、日本の国産品のジェネリック製品の薬品の生産が滞ってくる。そうすると中にはですね、高価な薬価のために薬を買えない患者さんが出てくるわけですね。抗癌剤C型肝炎治療薬の薬価が上ってジェネリック製薬品が入らないと。薬を買えない人たちがいる。


そしてもう一つ非常に驚く点はですね、この医療の治療方法の特許であります。日本の場合には大学病院があって、医局があって、それぞれの病院によって医局によって、その患者さんを治療する方法は違う場合があるのです。ところがこのTPPの知財条項の米国案によりますと、このそれぞれの患者さんへの治療方法、トータルな方法のパッケージについて特許を課すと。そういう条項がついている訳であります。


これは今交渉中のニュージーランドで極めて激論になっているテーマでありまして、こうした事で人命が救えるのかどうか、そういう問題になるわけでありますが、こうした知財条項を含みますTPPについて、ニュージランドで激論になっている事も踏まえて小宮山厚労大臣、いかにお考えか御所見をお伺いしたいと思います。
厚労相 今委員が仰いまいしたように、知的財産分野においてはTPP交渉参加9カ国の国内制度は多様で、この個別項目についての議論は収斂していないという風に承知をしています。一方で米国の二国間FTAでは医薬品の承認後5年間は医薬品の承認に際し、先発薬品の開発者が提出したデータを後発医薬品の販売とか等に使用させないという規定がございます。この期間の定めは○○協定(聞き取れず)には存在していません。日本では新薬品の再審査期間(かな?)を8年と定めていますので、実質上、この期間の後発医薬品の承認申請が出来ないために、先発医薬品が保護されると思っています。


手術などの特許につきましては、日本では人間を手術治療する方法は特許として認められていません。一方でアメリカでは手術なども特許の対象とされていますが、医師などの治療行為には特許権が行使されない仕組みと聞いております。いずれにしましても、これに交渉に参加する場合には厚生労働省としては政府一体となって、国民の健康がしっかり守られる方向で、議論するべきだという方向で考えています。
佐藤 要するにですね、日本では手術方法論等についてはニュージーランドと同じで特許を課す制度になっていないんですね。これは社会政策の範疇だからそういう事であって、まさにTPPが通商条約を越えた国家社会に関るですね、基盤に関る条約であることを、まず認識しなければなりませんよ、野田総理


お聞きになっておられると思いますが、次にもう一つ、紛争解決手段、ISD条項ですけれど、極めて不評であります。これまでですね・・・配布資料をご覧頂きますが、自由貿易協定の名称とISD条項の有無と言うのがありまして、WTOでは投資協定におけるISD条項、いわゆるISD条項と言うのは一企業、投資家がその参入先の相手国、国を相手取って訴訟できる条項でありまして、WTOにこういう条項は存在していません。


そして米、豪、オーストラリアとのEPAではオーストラリアはこれに断固として反対をして、削除をした経緯があります。そして米韓FTA交渉ではISD条項が入ってしまいましたが、韓国側が激論でこれでもめていて議会で承認できない状況になっている。そういうことであります。まあ日本の各国の場合のEPAにはこれがあるんですが、ISD条項はあるんですが実際に発動した事例がないから大丈夫だろう、そういう答弁を役所はするわけでありますが。実際これは相手国が違うんですね、


今度アメリカが相手になってくれば、当然我々が見なければならないのはかつてNAFTAで何が起きたかです。こういう事を事例にしながら我々は戦略を練っていかねばならない。そこでNAFTAの事例をご覧頂きます。資料のページ2でありまして、このNAFTAにおきましてISD条項で一企業、投資家が国を訴えた紛争解決事例、一番最後の行でサンベルト・ウォーター対カナダ、1999年の事例をご覧頂きたいと思います。


これはカリフォルニア州の企業、サンベルト・ウォーターがNAFTA第11条に基いて提訴をした案件でありまして、この損害賠償請求の金額は当時105億ドルという非常に膨大なものであります。一体これは何がどうしたかと言いますと、実はカナダの州政府でありますブリテッシュ・コロンビア州政府がサンベルト・ウォーターと契約を結んで、数億万ガロンの水の輸出の契約をした。それをブリテッシュ・コロンビア州政府があるとき停止したために利害が損なわれたと言う事で、サンベルト・ウォーターがカナダ政府を訴え105億ドルを請求したといういうものであります。この中にも実際たくさん訴訟がISD条項で落ちてるんですね。


それでですね、こういう水のビジネスはわが国日本でもですね、海外に水ビジネスを推進しています。そして国内的にはですね、海外の外国企業が日本の長野県や北海道の水源地資源の近隣の土地をですね、買収に来ている問題があるわけです。そういう中でNAFTAで実際に水ビジネスで訴訟が起きている。事例があるんですね。これはいかにお考えかと言う事を農水大臣、鹿野大臣にお伺いしたいと思います。今水の安全保障で、北海道や長野県で土地の買収が行われています。そういう絡みから、ISD条項がもしTPPに入るとするとですね、わが国としてどうやって守る事ができるか、農水大臣の御見解お願いします。
農水相 今の森林法におきましては、外国人であっても日本人であっても森林所有の如何を問わず、保安林の伐採や開発の規制、あるいは普通林の伐採及び伐採後の造林の届出制度や、林地開発規制制度と言う規制措置を講じております。そういう中で訴えられるかとどうかと言う所は定かではありませんけれど、まさしく今申し上げましたような規制をかけているところでございます。
佐藤 このISD条項とかですね、TPPの条約で悩ましいのはですね、先ほど小宮山厚労大臣からは患者さんの外科手術の特許についてお答え頂きました、今国内法でそういう特許は許されていない。そしてまた鹿野農水大臣からは、今国内で外国企業を差別化するような法律は無いと伺ったわけでありまして、仮に今後日本が国内法において、これは水の安全保障である事案であるから、国内法を設置して外国企業と国内企業によって水資源の近隣の土地の買収は、なんらかの差別化はするんだ。


そういう議案を設けたとしても、これは条約ですから、国内法は曲げられるんですよ。その事を野田総理いかにお考えですか、総理にお伺いします。
首相 あの、まさに通商の交渉だけではなくて、社会的な影響がいろいろ出る分野があると言う事をよく理解しながら、踏まえながら、対応していきたいと思います。
佐藤 国内法が条約によって曲げられる認識について、TPPの絡みでどう重いますか。
首相 基本的には我が国の守ってきた法律で、対応していけるように交渉していきたいと思います。
・・・・・・・・・・中断・・・・・・・・・・
首相 国内法よりも条約の方が上位にあって、これに対応していかなければならないという、その現実にあって、それにどう対応するかと言う事を考えると事じゃないかと言う事です。。
・・・・・・・・・・再び中断・・・・・・・・・・
首相 これですね、投資協定、えぇ、裁判管轄の問題を国際仲裁の判断に委ねる、そういう風な場合ですね。仲裁人が入って、仲裁人によって決めていく事なんで、そういうプロセスがあると言う事で良いかと。
・・・・・・・・・・三度目の中断・・・・・・・・・・
首相 ISDのお話だったものですからチョット私寡聞にしてそこ詳しく知らなかったんで、申し訳なかったんですが、この中で、あの、まさに条約と国内法との上位関係だったら、そりゃ条約です。だからこそ、この我が国で守ってきたもので、いいものだと言うものを条約を結ぶ時に、これを潰してく、壊してく事はしないと言うのが基本的な考え方で良いと思います。
佐藤 あの〜、既にですね日本は仮に総理がAPECで参加表明をしてもです。先ほど言いました様に米国で承認に90日かかるんですよ。要するにTPPの中身の条約の中身の交渉は、我が国日本としては手遅れなんですよ。決まった段階で二者択一で、日本政府、これを丸呑みするんですか、しないんですかのどちらかにしてくださいよ、これを半年後に言われるしかないんですよ。


ですから日本の国内法と言うのは、条約が上位にあるわけですから、TPPで決められたものを丸呑みすれば国内法を曲げなければいけない、変えなければいけない。TPPを選ばなければ国内法はそのまま我が国が国内法で管理をすると言うシナリオになるんですね。


で条約の事をお答えにならなかったのですが、総理これはごく当たり前の質問でしてね、憲法に書かれている事ですから、私はお伺いしたまでで、すぐにお答え頂けなかったのは非常にこれはある意味、驚愕して、ここで決めると言う事は、そういう事もわからないでお決めになると言う事は、あまりに国民軽視ではないだろうかな。非常に大きな問題を感じたわけであります。
気力が尽きたので後は略にさせて頂きます


文字に起こせなかった部分の紹介

気力が尽きて文字を起こせなかった部分ですが、

  • 枝野経産大臣が国内法で保護するとの答弁が荒唐無稽であるとの指摘
  • 内閣府の各種の自由貿易協定の経済効果の試算が民間人試算である指摘
  • 内閣府の試算の中ではASEANプラス6が最も経済効果が高く、逆にTPPのみがアメリカの経済効果にプラスになる指摘
それと水ビジネスに佐藤委員はこだわりが強いようで、今回の質問がTPP集中審議でなければ、水ビジネスで集中質問を行ったんじゃないかと感じたりしています。もう一つ、文字を起こした部分でも良く判りますが、質問と言うより自説の開陳になっている部分が多くなっています。これはTPPの周知性が低かったために解説に時間を費やさざるを得なかったのか、はたまた佐藤委員の流儀なのかはこれだけでは不明です。


国際条約と国内法の関係

三度の中断を挟むという質疑のハイライト部分になってしまった部分ですが、佐藤委員がここで首相を追い詰めようとしたかどうかは少々疑問です。追い詰める意図はあったと思うのですが、計算外の展開になっているように感じています。国際条約が国内法の上位に来ると言うのは憲法云々を持ち出すほどの話ではありません。

TPPでなくとも○○国際条約に批准すれば、条約の内容に副う様に法改正が行なわれるのはよくある事です。佐藤委員の「国内法を曲げる」と言う表現が強いので「とんでもない事が起こる」みたいに感じてしまうのですが、TPPも現行の国内法と相違する部分があり、TPPに加入すれば国内法の調整が必要になると言うだけのお話です。

おそらく佐藤委員は、TPP条約により国内法では保護できない部分がある事を首相答弁から引き出し(当然そうなる)、TPPにより不利益を蒙る部分への対策をどう考えているかに展開するつもりだったと考えています。その前フリが、条約の本質部分の協議に日本が時間的に参加できない指摘です。

ところが「どうも」国内法で対応するみたいな答弁マニュアルが首相サイドにあったのか、それとも余程意表を突かれて動転したのか、トンチンカンな答弁で委員会は立ち往生したと見ています。

もっとも本当に首相が立ち往生したのかどうかの真意は不明です。いくら首相だって、国際条約を結べば、条約に沿って国内法の整備を求められるのは知っていると考えます。また条約の内容で自国に不利益な部分に対し、これを国内法で完全ブロックするのは建前上は無理と言うのも知らないとは思えません。そんな事をTPP加盟国がこぞってやったら、条約を結ぶ意味がなくなります。

個人的には「その問題は、今は議論したくない」であったと思います。言い方は悪いですが、現時点では言質を与えずに逃げておきたいです。TPPに参加してしまえば、国内産業の不利益を蒙る層への対策は複雑ですから、具体的な方策は答弁で行いたくないです。

実はこの集中審議の最後の質問者である福島委員の質問は時間の関係もあって極めてストレートなものでした。APECでTPP参加を表明するというのなら、この国会でTPP参加を表明せよです。これに対しては徹底的に言質を与えず答弁しています。同じような手法で交わしたかったんでしょうが、切羽詰って、

    ISDのお話だったものですからチョット私寡聞にしてそこ詳しく知らなかったんで
ここまで言わされたのは、チョットした失態であったと見ます。


素朴な疑問

それにしても10年間で経済効果が2.7兆円とは、大きいのか小さいのか判断に悩む数字です。こういう試算は逆に参加しなかったら「これだけマイナス」みたいなものも提示されるのですが、これも多分現時点ではないのでしょう。それとこれもどこかで議論されているはずですが、TPP参加国は

こうなっています。アメリカが飛びぬけた大国であるのは言うまでもありませんが、次はオーストラリアぐらいと思います。オーストラリアでGDP1兆ドル程度で、人口も2000万人程度です。日本が入らないとTPPと言っても中小国連合の様に見えて仕方がありません。内閣府試算のアメリカの経済効果も日本が入ってこそのもののように思うのですが、なかなか難しいところです。

経済問題は苦手なので素朴な疑問なんですが、日本抜きのTPPにどれだけ意味があるのかがわかりにくいところです。アジアと言う面で見れば、嫌でも中国の動向に目を向けなければなりません。中国はアメリカ主導のTPPには参加の意向は乏しそうに思っていますし、中国がTPPに対して力を入れそうなのはASEANプラス6になりそうな気がします。

あくまでも仮にですが、TPPとASEANプラス6の二択と考えるなら、日本が入った陣営が有力になります。もちろんこれには政治である日米関係、日中関係の問題が濃厚に絡んでくるので、経済的な算盤勘定だけで判断できないでしょう。また米中二大大国の間で上手く立ち回って、日本の一番美味しい利益を獲得するなんて曲芸的な外交センスが求められますから、机上の空論とする方が良いような気もします。


医療はどうなるんだろう

佐藤議員の指摘がどれほど正鵠を射ているのかは知識不足で不明ですが、答弁を聞く限りではこれを明快に蹴散らすようなものは少なかった印象です。これもたぶんですが、デメリット部分は可能な限りボカシ、なんとなくのメリット部分が「いっぱいある」の印象だけでTPP参加を行いたいの政府の意図がはっきりあると考えます。

「TPP参加 = 混合診療解禁」も確定した情報ではありません。ありませんが、これについて政府は否定をしていません。もし否定できるのなら、ただでも賛否両論があるTPP問題ですから、大見得切って「皆保険は大丈夫です」と言い切るかと考えています。もちろんそこまで大見得切って最終的「ダメでした」にする手法もありますが、そこまでの芸が出来る総理及び政府かと言われればチト疑問です。

どうにも情報が乏しいので「TPP参加 = 混合診療解禁」の仮定で以下は書いています。


TPP参加には得られるメリットとデメリットがあり、政治判断としてはモロモロの算盤勘定になります。現在のところ理解している範囲で言えば、デメリット部分は切り捨てざるを得ない認識でTPP参加を決断していると推測しています。ある意味ドンブリ勘定ですが、デメリット部分をメリット部分で帳消しにすれば混乱が生じてもプラスぐらいの考え方です。

この政府の判断が吉と出るか凶と出るかは今の時点では何とも言えません。決断した総理や政府にしても、今後の予想は不確定要素がテンコモリぐらいに見ています。それでも誰かが決断しなければなりませんから、決断した事自体は評価しても良いとは思います。どのみち不参加に決断したらしたで、同じぐらいかそれ以上の批判が湧いて来ると思います。



寄り道しましたが、私の立場は国全体を見る様な高い位置ではなく、もっともっと低い位置です。考えるのは医療がどうなるかです。とにもかくにも混合診療解禁となればどうなるかを考えておかないといけません。とりあえず混合診療解禁と言っても、いきなりアメリカ型が出現するとはさすがに考えていません。そんな事をやれば政権はあっと言う間に吹き飛びます。

あくまでも私の推測ですが、国会財政での医療費の問題は国庫支出分ですから、これを増やさない、もしくは漸減する政策を取ると考えます。医療費は何もしなくても自然増加しますから、この自然増加する分を自由診療部分に置き換える手法が用いられると考えます。現在は抑制のネジをグルグル締めて年間1兆円ぐらいのはずですが、箍が外れれば2兆円ぐらいになっても不思議ありません。

仮に2兆円が自由診療部分となっても当初はさほどの影響は出ません。むしろ「これで助かった」の美談が出てくるとも予測されます。ただ10年すると20兆円になります。現在の国民医療費が30兆円ぐらいだったはずですから、4割ぐらいが自由診療部分になります。年間2兆円のペースももっと早いか、むしろ遅いかは何とも言えませんが、早くなる観測も十分成立するとは考えています。10年もすれば公的保険料だけではなく、自由診療分もカバーする民間保険料を支払うのは常識になってきそうです。


医療には診療側と患者側があります。医療側から言えば、そういう時代に生き残るには目減りしていく公的保険の分を自由診療で補っていく必要があります。良い様に言えば、自由診療で膨らむ市場を取り込んだものが混合診療時代の勝ち組になります。逆に取り込めなければ負け組どころか廃業の憂き目を見るとしても良さそうです。当然ですが皆保険時代とは違う経営感覚を求められます。

問題は自由診療部分の見方で、民間保険会社との交渉は今日は置いといて、自由診療分を払える患者を集めないと話になりません。とくに高額の民間保険料を支払い、カバーできる範囲が広い患者を集める事が生き残りの鍵になります。そういう見地(原則フリーアクセスは変わらないの前提です)から言うと、自由診療分をより多く獲得できるのは病院であり、相対的に薄いのは開業医になります。

考えれば小児科開業医なんて、なんのかんので公的医療制度が比較的最後まで保持されそうな気もしますから、良い意味でも悪い意味でも混合診療解禁の影響は遅れてくるかもしれません。これもまた希望的観測に過ぎませんけどね。


患者側は医療側の裏返しが出てくると予想されます。自由診療部分が増えれば増えるほど、それが受けられる人と受けられない人の差が目に見えて出てきます。民間保険と言っても、現在の公的保険のように誰でも公平な物になる可能性は非常に薄いからです。高い保険料を支払えばカバー範囲が広くなり、安ければ狭くなります。払えなければ公的医療のみに限定されます。

現在の皆保険制度との感覚的な最大の差は、皆保険では受けられない治療は誰も公平に受けられませんが、混合診療では経済力によって受けられる人とそうでない人の差が出てくるです。いわゆる自由診療をふんだんに使って治療すれば治る可能性があっても、使えなければ指をくわえて見るしかないです。個人的には「人は貧しさには耐えられても、不公平な扱いには耐え難い」状態が出現すると考えています。

でもってある程度自由診療が不都合なく使える層がどれぐらいになるかです。ゼロではないでしょう。自由診療部分の拡大具合によって変わるでしょうが、経済力の上位3割もあるのでしょうか。とくにこれまで良きにせよ、悪しきにせよ平等感の強かった皆保険体制とはかなり感覚の違う医療状況に変質して行かざるを得なくなると思っています。


現行の医療体制も批判は多いですが、患者は病人として平等であるという観点からは素晴らしいシステムだと個人的には感じています。段階的に自由診療部分がある程度以上に拡大した時の予想得失です。

区分 得失
開業医 マクロ的には若干プラス程度
勤務医 能力に応じて恩恵大
病院 経営手法により勝ち組、負け組が鮮明に分かれる
富裕層患者 治療の範囲が広がり恩恵大
中間層以下の患者 治療の範囲が狭まりマイナス


もちろん必ずこうなるかどうかは未知数の部分が多々あります。「そうはならない」と予測する論者もいます。ただ「そうはならない」とする論者はなぜか私が目にする限りでは、TPP推進派の方に多い印象があります。もちろん反対派の方は医療が私の予想した状態になるのも含めての反対論ですから、賛成論者にしか目に付かないのはある意味当然ですが、むしろ規制がなくなり医療費は安上がりになるはさすがにどうかとは思っています。


後は全体論との整合性になりますが、TPP参加でマクロのトータルはプラスとされます。的中するかどうかはわかりませんが、そういう予測で首相も政府も決断したわけです。ここで問題になるのはトータルのメリットは必ずしも全員に公平に降り注ぐわけではないと言う事です。メリットを受ける層はふんだんに、デメリットを受ける層は手ひどくみたいな感じといえば良いでしょうか。

当たり前ですが人はそれぞれの社会属性で暮らし、生計を立てています。メリット層が推進するのの裏返しで、デメリット層は反対します。全体でプラスになると説明されても、プラス分が回ってくるわけではなく、自分の生計のみ直撃するとなれば誰だって反対します。

医療で診療側は経済的にはマクロ的にはプラスです。それなのに積極的な賛成意見は多くありません。これにはミクロ的に過渡期にサバイバルが大変と言うのもあります。また開業医で言えば本当にプラスになるかどうかは不安な面もあります。もう一つは勤務医であっても、これまでの医師の感覚として、病人は平等の感覚が壊されるのも忌避している面はあると見ています。

お前はどうかと言われれば、これから過渡期のサバイバルを勝ち抜いて宝の山獲得競争に参加するより、現状のしょぼい開業医をやっている方に魅力を強く感じます。5年前ならおそらく目を吊り上げて混合診療反対で血相を変えていたとは思いますが、今でも診療側の忌避感情はかなり強く残っているとして良いでしょう。


では患者側はどうかです。正直なところ混合診療解禁は今や患者側に主導権が移っています。医療界の反対意見など、国策ですから農業界の意見と同様に押し潰されます。ここまで事態が進んで、これをどうにかできるのは患者側の意見だけです。「患者 ≒ 国民 ≒ 主権者」ですから、これが多数派で「TPPメリットよりも医療が大事」とすれば変わる可能性があります。

私は上述した様に個人的には混合診療解禁には反対です。ただこれでも経営者ですから、反対だけを唱えて玉砕したら家族が路頭に迷います。たとえ混合診療に移行しても、食っていけるような対策を考えておかなければなりません。皆保険のままなら、ショボイ経営に満足しますし、混合診療時代になればサバイバルから宝の山獲得競争に血道を挙げます。そうしないと生き残れないからです。


もう一つだけ、政府がTPPについては殆んど説明を行なっていません。やっているのはなんとなく「必要そう」のイメージ操作だけです。これをやる時には、強烈なデメリットがあると考えてよいと見ています。医療についても殆んど何も語らないのも同列です。後は条約を結んできて「条約には逆らえないから、仕方がない」の政治手法です。これは別に現政権が狡猾と言うわけではなく、ある種の常套手段です。

興味があるのはネット時代にこれが通用するかどうかです。ただ多方面で利害が錯綜する問題ですから、ネットの反応も議論が割れてオシマイかも知れません。