そんなもんなんだ

うちのような診療時にもMRは来ます。なぜか商売そのものの話より、その他の雑談で盛り上がる方が多いのが不思議ですが、訪問はあります。たいてい翌日のエントリーを必死になってまとめている時が多いので、迷惑な事が多いのですが、とりあえず訪問はあります。

かなり前に来られた方のお話なんですが、東京からの転勤(元は関西人)だったようで、定番の東西文化論になってしまいました。ありきたりの比較論が中心だったのですが、ちょっとだけ面白いお話がありましたので紹介しておきます。

MRの業務は薬剤の売り込みです。綺麗に言えば自社の薬剤の情報提供なんでしょうが、本音は売り込みです。別にそれは全然構わないのですが、売り込みの手法が東西でかなり違うの話は興味深かったところです。私は売られる方なんで、売り込み手法といわれてもさして意識していませんが、そりゃ売る方にしたら業務その物ですから必死になるのは当たり前です。


わかりやすかったのは新薬の売り込みです。これはハッキリ出ているそうで、「関西 >> 関東」だそうです。新薬に割りと簡単に飛びつくのが関西で、冷淡なのが関東とされます。砕けて言えば、関西なら「おもしろそうだから試してみよう」であり、関東では「得体の知れないものは使いたくない」とでもすれば良いでしょうか。

言われて見れば新薬が出れば、私も飛びつきやすいところが無いとは言えませんから、文化的な気風かなぐらいには思いましたが、そんな関東への売込みに有効な手法に少し驚きました。

    ○○先生も使ってらっしゃる
もちろん診療科や個人によって変わりますから、あくまでもマスのお話ですが、聞いて笑ってしまいました。ここもお断りしておかないといけないのですが、関西人の感覚として笑ったと言う事です。神戸なら中央市民病院や大学病院が大きな病院になるでしょうが、正直なところ、そこが使ったからと言って、ほとんど興味も関心も湧きません。

「だからどうした」以上の感想はでないと言うか、このMRは何が言いたいのだろうと疑問に思うぐらいです。新薬なんて誰が使っているではなくて、自分が使うかどうかの判断ですから、他所の医療機関が使おうが使おまいが、さしたる参考情報にならないとすれば良いでしょうか。あえて欲しい情報は使ってどうかの情報ですが、そんなものは新薬登場時には限られています。

もう少し言えば、近隣の医療機関がすべて採用しようが気に入らなければ使いませんし、逆に気に入れば誰も採用していなくとも使うと言う事です。ですから関西のMRで「○○先生も使っている」式のセールスにお目にかかる事は珍しいとしてよいかと思います。

ところが関東ではかなり有効だとしていました。もちろん殺し文句にはならないかもしれませんが、それがないとセールスすら始まらないぐらいの感覚とすれば良いでしょうか。そのためどの医療機関で採用されたかの情報収集は常に行なわれ、大きな病院で採用されると、その販売量だけではなく、採用された事による波及効果も高く評価されるみたいな感じです。


御存知の通り、関東と言うか首都圏には住んだ事は愚か、行く事さえ稀な人間ですから、妙に感心してしまいました。お蔭でちょっと理解できた部分があります。狭い範囲の経験ですが、医療危機問題を話題にしたときに、話の端々に「○○先生はこう言った」が目に付く方を知っています。事は医療危機問題ですから、とりあえず絶対の権威は未だに存在していないとは思っています。

話している相手も、それなりの論客のはずなんですが、私にすれば「○○先生」を何故に持ち出すのか不思議でならなかったところです。その程度の見解なら、「○○先生」を持ち出すまでも無く、常識として話せば良いと思っていましたが、今から思えば出す事に意義があったんじゃないかと思い当たっています。

話し相手は首都圏の医師ぐらいで十分かと思いますが、おそらく普段の習性として、話の根拠として「○○先生」を持ち出すのがあるんじゃないかと言う事です。そうしないと相手に自分の真意が伝わらないというか、信憑性が保てないみたいな感覚でしょうか。純粋の医療の話ならさして違和感が無かったのでしょうが、医療危機問題でもその習性が出たので私が違和感を抱いてしまったのかもしれません。

その時は内心「○○先生じゃなくて、あんたはどう考えているのか」と強く思ったのですが、本人には多分そんな意識は殆んど無く、無意識のうちにそういう話法になっていたんじゃないかと思います。余計な事を言わずに良かったと思っています。

もっとも私の体験談は n =「わずか」ですから、さしたる信憑性はありませんのでよろしくお願いします。


誤解無い様に言っておきますが、どっちが良いとか悪いとかのお話ではありません。単なる感覚と言うか習性のわずかな相違だけのお話で、優劣云々ではないのでくれぐれもお願いします。ま、これからは聞くときも話すときも、そういう文化背景があるかもしれないぐらいの意識を持っておく事にします。そうしないと余計な摩擦を起しますからね。