お茶の国の知事と空港

妙に面白味があったので、6/28付読売新聞より、

静岡知事、お茶の「伊藤園」空港広告撤去要求

 川勝平太静岡県知事は27日、静岡空港にある大手飲料メーカー「伊藤園」(東京)の広告看板を撤去するよう、空港ターミナルビルを運営する「富士山静岡空港株式会社」(静岡県牧之原市)に要請した。

 18、19日に県などが共催した「食育推進全国大会」の景品として、同社が賞味期限切れの紙パック入りジュースを提供した問題を受けた対応。知事が27日の定例記者会見で明らかにした。

 対象の看板は縦1メートル、横2・8メートルで、ターミナルビル1階の国内線到着通路にある。茶畑やペットボトルなどがデザインされ、2009年6月の開港当初から掲げられている。

 空港会社は県からの出資を受けない民間企業。記者会見で、企業間の契約に県が口を挟むことの是非を問われると、川勝知事は「県が27億円余りを貸している会社で、要請する資格はある」と話した。

 看板撤去の理由について、川勝知事は「空港は県の玄関口として最も公的な空間で、県のPRの場所になっている」とし、「廃棄処分にあたるものを景品にし、静岡県の顔を汚した」「お茶のペットボトルの中に、安全とは言えないものが入っているという疑惑を招いた」などと伊藤園を痛烈に批判。さらに、「伊藤園の茶には県産が3割ほどしか入っておらず、県を代表するものとは言えない。空港の看板は本県を代表するかのごとく受け止められかねない」と続けた。イベントは国や県などの共催だが、「伊藤園の責任が一番重い」と言い切った。

 空港会社の吉岡徹郎社長は取材に「契約があるうえ、他の広告主に与える影響も懸念される。知事から要請があったからといってすぐには撤去できない。(融資は)契約に基づいて有利子で借りており、今回の件とは関係ない」と困惑した様子。伊藤園広報部は「空港会社から話を聞いておらずコメントできない。事実関係を確認したい」としている。

どうも事件の発端は、

    18、19日に県などが共催した「食育推進全国大会」の景品として、同社が賞味期限切れの紙パック入りジュースを提供した問題を受けた対応。
これに関連する記事を探すと、6/24付読売新聞より、

食育推進大会で賞味期限切れジュース配布

 蓮舫消費者相も出席して静岡県三島市で18、19日に開かれた「第6回食育推進全国大会」の会場で、賞味期限切れの紙パック入りジュース(200ミリ・リットル)計54本が来場者に無料配布されていたことが24日、分かった。

 大会は内閣府、県、三島市の共催。県によると、会場5か所を巡るスタンプラリーのゴールで、参加企業から提供を受けたジュースなど6000セットを景品として無料配布した。このうち協賛の小売り業者が無償提供した伊藤園(本社・東京都渋谷区)の「充実野菜ぶどうミックス」など計150本のうち、54本の賞味期限が6月5〜11日で切れていた。

 ジュースを受け取った参加者が気づいて三島市役所に連絡し、発覚した。これまでに健康被害の情報は入っていないといい、県は廃棄を呼びかけている。

これに対する伊藤園の見解は6/29時点ではHPには見つかりませんでした。素直に考えて伊藤園の不手際であり、担当者は真っ青になって事態の収拾に取り組んでおられると思います。この伊藤園の不手際に対し、静岡県知事は、

  • 「廃棄処分にあたるものを景品にし、静岡県の顔を汚した」
  • 「お茶のペットボトルの中に、安全とは言えないものが入っているという疑惑を招いた」

おそらくですが「静岡県の顔を汚した」とは、6/14付の知事記者会見に、

 ふじのくに食育フェア2011ですけれども、6月18日19日の2日間に渡りまして、三島市日本大学三島校舎、三島市立北小学校、ここは食育に大変熱心なところです。それから東レ総合研修センターで、第6回食育推進全国大会であるふじのくに食育フェア2011を開催いたします。大会のテーマは食のもてなし、知る、作る、楽しむ、ふじのくに食の都へようこそというものです。2日間にわたりまして様々な講演会、シンポジウム、食育に関係する企業や団体のブースの出展などを実施するものでございます。

・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・

何と言っても、食育の啓発と、そして食材の王国としての、本県の日本一の有り様を、食の都作りという、一次産業から三次産業を含めた六次産業として農芸品、海産物だけではなくて、それの味わい方も含めて食文化として、食の都作りというものに力点を置いてそれをPRしていきたいと思っています。

・・・・・・・・・・(後略)・・・・・・・・・・

また三島市HPのふじのくに食育フェア2011(第6回食育推進全国大会)に多数のご来場ありがとうございました。には、

主催 内閣府静岡県三島市

主催した静岡県の面子を汚したの思いが反映されていると判断して良さそうです。実は実際の記者会見の様子が動画にあるのですが、1時間ほどあって遺憾ながら実際の発言を確認できていません。この点については取材不足を陳謝させて頂きます。


知事が怒っても問題の性質から当然とは思うのですが、起された行動は、

静岡空港にある伊藤園の看板を撤去せよと要請したようです。理由は、
  • 「空港は県の玄関口として最も公的な空間で、県のPRの場所になっている」
  • 伊藤園の茶には県産が3割ほどしか入っておらず、県を代表するものとは言えない。空港の看板は本県を代表するかのごとく受け止められかねない」
  • 伊藤園の責任が一番重い」

知事の看板撤去の要請理由は、「県の玄関口である空港に、不手際を起こした伊藤園の看板があるのは許し難い」ぐらいに理解すれば良いのでしょうか。えらい剣幕だと感じます。でもってこれで静岡空港が県営空港なら、オーナーたる知事の鶴の一声になるのですが、
    空港会社は県からの出資を受けない民間企業
記事的には民間会社の契約に知事が青筋立てて介入している構図に見えます。私もその線でエントリーをまとめようと構想していたのですが、空港と空港会社と静岡県の関係はそんな単純なものでは無さそうです。




まずですが静岡県HPの富士山静岡空港資料室に、

  • 滑走路などの基本施設の建設を静岡県が行い、建設後は、県が最終的な管理責任を負うことを前提に、可能な範囲内で管理業務を民間会社(富士山静岡空港株式会社)に委託しています。
  • 富士山静岡空港株式会社は、ターミナルビルの賃貸、空港基本施設の管理などを主な業務とする会社で、静岡県内の企業10社の出資により、平成18年2月14日に設立されました。

    地方空港としては初めての民間出資のみによる空港運営会社で、会社名は、空港の愛称である「富士山静岡空港」と同じ名称です。

この辺の関係が模式図として示されており、

なかなか深い関係のようで、建設したのは静岡県ですが、実際の運営は民間出資100%の運営会社に委託されているようです。この辺の関係に詳しくはないのですが、公立病院で言う公設民営みたいな形式でしょうか。それとも建物の大家が静岡県で、これを店子の運営会社に貸している関係と受け取ればよいのでしょうか。

大家と店子の関係としても、大家と店子自体も関係は深そうです。役員もその辺の関係を示唆する部分はあり、運営会社の代表取締役社長の経歴をwikipediaから引用しておくと、

静岡県企画部長、元財団法人静岡国際園芸博覧会協会 会長代理

あくまでも私の感想ですが、静岡県知事の意識として空港は県の直営ではないが、県の所有物であり、民間出資100%と言っても第3セクターに毛が生えた程度のものないしは、いつでも代えられる下請け程度のものとしているのかもしれません。もうちょっと言えば「カネを出しているのは静岡県である」とも思えます。

これは必ずしも悪口と言うわけではなく、実態的にそんな感じですし、経営悪化の最終責任も静岡県が負うとなっていますから、それぐらいのオーナー感覚があったとしてもさして不思議な事ではありません。またオーナー意識だけではなく、パトロン感覚もあるようで、

    企業間の契約に県が口を挟むことの是非を問われると、川勝知事は「県が27億円余りを貸している会社で、要請する資格はある」と話した。
ま、要請に逆らったら覚悟してもらうぐらいの勢いはありそうです。記者会見(ゴメン見てません)と記事からだけでは、静岡県と空港会社の関係が見え難いですが、富士山静岡空港の経営状態を少し調べてみます。まずフライト情報ですが、
  • 国内便:8便/日
  • 国際便:2便/日+4便/週
足し算すると10.6便/日ぐらいになります。これは現在の状況と考えますが、開港1年目の平成21年度のデータが平成21年度の富士山静岡空港の概況 にあります。そこには、1日平均着陸回数が「13.7回」となっています。フライト情報は定期便ですから、チャーター便が入っていませんが、定期便のほかに3便/日のチャーター便が運行されているかどうかは確認の術はありませんでした。

どうも平成22年度(昨年度)の収支状況の報告の公開はまだのようですから、平成21年度の成績を示してみます。それでもって平成22年11月17日付「富士山静岡空港の収支状況について(その1)」には、

(1)パターン1(空港管理運営に係る収支)

  1. キャッシュフローベースの収支


    • 空港の管理運営(人件費を含む)に係る支出額644百万円に対して着陸料等収入額は206百万円であり、収入不足となる438百万円は一般財源を投入している。支出全体に占める一般財源投入の割合は68.0%となっている。
    • この一般財源投入額を県民一人当たりに換算すると、富士山静岡空港の航空ネットワークの維持・運営に際し、116円の御負担を頂いていることになる。[ 平成21 年 4 月 1 日現在の県人口3,790,350 人]


  2. 企業会計の考え方を取り入れた収支


    • 営業収益、営業外収益を含めた収益は、228百万円となったのに対して、費用は644百万円となり、経常損益は416百万円の赤字となった。
    • この赤字額は、県民一人当たりに換算すると、富士山静岡空港の航空ネットワークの維持・運営に際し、110円の御負担を頂いていることになる。
(2)パターン2(空港管理運営及び空港整備に係る収支)
  1. キャッシュフローベースの収支


    • 空港の管理運営(人件費を含む)に係る支出に加え、県債に係る借入金償還金や空港整備事業費を加えた支出額1,653百万円に対して着陸料等収入や交付金等を含めた収入額は498百万円となり、収入不足となる1,155百万円は一般財源を投入している。支出全体に占める一般財源投入の割合は69.9%となっている。
    • この一般財源投入額を県民一人当たりに換算すると、富士山静岡空港の航空ネットワークの維持・運営に際し、305円の御負担を頂いていることになる。
        


  2. 企業会計の考え方を取り入れた収支


    • 営業収益、営業外収益を含めた収益は、322百万円となったのに対して、減価償却費や県債利息を含めた費用は1,924百万円となり、経常損益は1,602百万円の赤字となった。
    • 減価償却費が924百万円と営業費用全体の57.2%を占め大きな費用となっているが、これは、空港が開港したばかりであり、建物、構築物等の全ての償却資産について償却が生じていることによるものであり、当面は同様の状況が続く。
    • この赤字額は、県民一人当たりに換算すると、富士山静岡空港の航空ネットワークの維持・運営に際し、423円の御負担を頂いていることになる。

出来たばかりとは言え、苦しい経営を強いられているようで、この会計報告の細かい分析は出来ないから私はアラアラに流しますが、空港の収入の7割程度を一般財源から繰り出していると読んでも大きな間違いでは無さそうです。報告書の分析も

パターン2(空港管理運営及び空港整備に係る収支)の収支は、民間企業が空港事業を経営した場合を想定しているが、経常損益は1,602百万円の赤字であり、現行どおりの仕組みであれば、民間企業が参入できる事業となっていない。

もうちょっと詳しい経営成績は、富士山静岡空港の収支の状況(その2)にあるのですが、「空港管理運営及び空港整備に係る収支」で

どう見たって苦しい経営状態なのですが、富士山静岡空港の収支状況について(その1)に

富士山静岡空港株式会社の平成21 年度の決算状況

 県が管理する空港施設の運用に係る収支のほか、空港を運用するために不可欠な旅客ターミナルビルを経営する富士山静岡空港株式会社の決算状況は次のとおりとなっている。

第5期決算報告書(平成21年4月1日〜平成22年3月31日)

金額(百万円)
売上高 1255
純損失 1
総資産 3920

赤字分はすべて県が一般財源から穴埋めしているのが確認できます。空港会社は民間が100%出資であるのは間違い無いようですが、経営実態的には静岡県が半端じゃないほどの肩入れを行って、なんとか破綻しない様に取り繕っていると言うのが実情のようです。収入の基盤とも言える着陸料も1年目と2年目で大差はなさそうですから、昨年度の収支が急速に改善したとは思いにくいからです。

そういう状況で、これだけ肩入れしていれば、静岡県知事も空港会社を見下ろして発言するのも頷けます。


静岡富士山空港も、開港前の試算では「きっと」立派に採算が取れるとなっていたと思います。同じような試算が神戸空港でも出来ていました。この手の試算がなぜか常に想定外の事態に陥るのはお約束ですが、静岡県も苦しまれているようです。静岡県の現知事は2009年7月就任で、空港計画は前知事時代(1993年〜2009年)時代に推進されたものと考えます。

現知事にしてみれば、前知事の遺産の処理に四苦八苦されている状況で、前知事の様に「待望の空港」「オレが作ったモニュメント」みたいな愛着は薄いのかもしれません。なぜか日本中に突然量産された地方空港の後始末はどこも大変ぐらいにさせて頂きます。


ところで知事の逆鱗に触れた伊藤園ですが、県が関連する公共施設の自動販売機からも撤去されるんでしょうか。あれだけ激怒されていますから、それぐらいは起こりえるぐらいに思っておきます