想定外をなくせ・・・か

4/13付Asahi.comより、

原発の「想定外」なくせ 九電、津波想定した訓練

 九州電力は12日、玄海原子力発電所佐賀県玄海町)と川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)で津波を想定した訓練を公開した。訓練は、福島第一原発事故を受けて国が電力各社に指示した原発津波対策に盛り込まれたものだ。

 玄海の原子炉建屋は標高11メートル、川内は13メートルの場所にあるが、そこに10メートル超の津波が来て非常用発電機が動かなくなったと想定。

 玄海では新たに配備した高圧電源車のケーブルを約30メートルのばして制御室に電気を送ったり、仮設ポンプで水を注入したりする訓練があった。

 九電は今月中に国が指示した津波対策を実施し、定期検査中の玄海2、3号機の営業運転を5月中に再開する考えだ。

これは必ずしも批判と受け取って欲しくないのですが、見出しで、

    「想定外」なくせ
となっている割には、
    玄海の原子炉建屋は標高11メートル、川内は13メートルの場所にあるが、そこに10メートル超の津波が来て非常用発電機が動かなくなったと想定
ここは、そんなに悪意に取らなくとも、訓練ですから想定が必要です。おそらくこれまではそんな津波を被る想定をしていなかったので、これまでの想定を越える訓練を行ったと受け取る事にします。冒頭で朝日記事をわざわざ引用したのは、九電の訓練を云々するとか、記事の内容を云々するつもりではなくて、見出しの「想定外」を話の導入に使いたかっただけです。


原発事故を契機に原発を廃止し、代替エネルギーに速やかに置換すべしの意見が出ています。別に積極的原発推進派と言うわけでもありませんから、そうなれば、そうなったで嬉しいぐらいのスタンスですが、現状として、

代替エネルギーの代表格である太陽光とか、風力とか、地熱とかは「その他」のカテゴリーに含まれ、グラフ上でもどこにあるのか判り難いぐらいの発電比率です。国策として増やしたらどうかとか、日本でそんな代替エネルギーにどれだけ期待できるかの論議はともかく、10年単位以上で原子力に頼らざるを得ないであろうと言うのが正直な感想です。

原子力に頼るとなると、福島原発のような事故は防ぎたいと考えるのが自然な感情です。福島の原発事故は「想定外」の津波が押し寄せた事によるものとして良いかと思っていますが(でも指摘があったの話は置かせて頂きます)、もし津波被害の想定外を可能な限り除去するとなれば、どれほどの津波を最大限として想定する必要があるかです。日本の原発は構造的に海岸線に建設する必要が基本的にあるそうで、海岸線にある限り津波の可能性があります。

さらに日本は世界でも有数の地震大国です。様々な調査が行われていますが、日本周辺の断層をすべて調査できているわけでありませんし、その断層から発生する地震の強さ、またそこから起こりえる津波の高さをすべて予測できるほどの能力はまだ無いと思っています。

そうなるととりあえず想定範囲を可能な限り大きくするには、過去の津波の先例を考慮する必要があります。世界最大の津波として記録されているのは、wikipediaより、

1958年7月9日(現地時間)、アラスカの南端の太平洋岸にあるリツヤ湾 (Lituya bay) で岩石の崩落による津波が起き、最大到達高度は海抜520メートルに達し、津波の波高の世界記録とされている。リツヤ湾は氷河の侵食によるフィヨルドで、幅3キロメートル、奥行き11キロメートル程の長方形に近い形で内陸に入り込んでいる。湾奥に左右に分かれた小さな入江があり、問題の津波はそのうちの北側の入江に発生したものである。波の発生を直接目撃した者はいないが、後の現地調査と模型実験により詳細が明らかにされている。地震により入江の片側のおよそ 40度の傾斜の斜面が崩壊、9,000万トンと推定される岩石が一塊になって海面に落ちたため、実高度150メートル以上の水しぶきが上がり、対岸の斜面を水膜状になって駆け上がって520メートルの高度に達したものである。

どひゃ、520mだそうです。もっともアラスカのケースは、地震により狭い湾内にデッカイ岩石が崩落して起こったもののようですから、例外的なケースとして、想定内に含めなくても良いとは思います。だいたい520mなんて想定したら、東京タワーでは完全に水没し、東京スカイツリーでも634mですから、上部100m足らずが津波の上に出るだけになります。

もちろんそれだけの津波のパワーも凄まじいでしょうから、東京スカイツリーであっても確実になぎ倒されるでしょうから、想定したとしてもどうしようもなくなります。SFパニック映画ならCGの腕の見せどころかと思いますが、現実に想定できる津波としてはとりあえず置いておきます。


世界最大があまりにも桁外れとするなら、日本最大はどうでしょうか。今回の震災の津波も凄まじかったですが、記憶に残るところでは奥尻島津波は凄かったとされます。これは1993年に起こりましたが、wikipediaより、

奥尻島の各地区における津波の高さ(波高)は、稲穂地区で8.5m、奥尻地区で3.5m、初松前地区で16.8mに達した。

遡上高は、震源からの津波の直撃を受けた島の西側で特に高く、藻内地区で最大遡上高30.6mを記録した。

この波高と遡上高ですが、波高は測定が困難な事が多く、津波の高さを言うときには遡上高で示す事が多いとされます。そうなれば奥尻島は30.6mになります。これもかなりの高さで、ビルのフロアあたりの高さを3.5mとすると、10階建てぐらいの高さになります。これへの対策はかなり大変です。

奥尻島の30mも凄いのですが、日本一となると世界一とは桁は違いますが、それでも途方に暮れそうなスケールになります。これは1771年に起こった八重山地震・明和の大津波と言われるものだそうですが、

 1771年4月24日(明和8年3月10日)午前8時ごろ、沖縄県石垣島南東沖約40Km(北緯24.0度、東経124.3度)を震源とするマグニチュード7.4の地震が発生。地震の揺れによる被害は一部の建物や石垣が崩れるなどの被害はあったが比較的軽微であった。しかし、この地震によって大きな被害を引き起こしたのは最大28丈2尺(85.4m・石垣島)の大津波であった。津波は三波まで襲来し第二波が一番大きかったと伝えられている。八重山群島(死者行方不明9,313人)、宮古群島(死者行方不明2,548人)などで死者行方不明者合計11,861人もの琉球史上最悪の大惨事に発展する。

うへぇ、85.4mだそうです。これはビルで考えると25階に相当します。この地震の地区別の記録というものがあり、

村名 メートル換算
宮良村 85.4m
白保村 60.0m
安良村 56.4m
原崎 46.7m
大浜村 44.2m
嘉良岳 39.8m
伊原間村 32.7m
玉取崎 32.1m
平得村 26.0m
真栄里村 19.4m
登野城 12.2m
仲興銘村 10.7m
桃里村 9.7m
大川村 9.2m
石垣村 9.2m
富崎野 9.0m
新川村 8.2m


この津波石垣島の南東方向から押し寄せたと考えられています。ご存知のように津波は入り込んだ湾状のところが高くなる傾向があります。石垣島全体の地図を確認すると、
最大の85.4mを記録した宮良は宮良湾に面していますから、より高くなったのだと理解できそうです。ただ60.0mを記録した白保は湾ではなく岬状になっています。もちろん白保のどこが60.0mであったのか土地勘がないのでわかりませんが、湾でなくとも60.0mはありえるぐらいは想定として拾い上げても良さそうです。


地震とか津波の専門家でないので、推測が粗いのは御容赦頂きたいのですが、津波の想定として60.0mぐらいはありえるとしても良いかもしれません。これは過去に現実に起こったことであり、日本のどこでも起こりうるの想定は可能です。もちろん頻度は極端に低いですが、想定内にはなりますから、これへの対策を行なう必要があります。

ただ60mにも及ぶ大津波(地形によっては85m)にどんな対策が有効かは私には見当がつきません。辛うじて思いつくのは、厚さ20mぐらいの巨大なコンクリート・ドームで原発ごと覆ってしまうのは考えられますが、その程度の対策でなんとかなるのかは、全然わかりません。今回の震災でも立派な防潮堤が粉砕されたところがありましたから、もっと頑丈なものが必要とも考えられます。

想定外は想定できないから想定外なのであって、これを想定した時点で既に想定内になってしまいます。想定内か想定外の言葉の遊びはともかく、想定できる範囲内をごくアラアラに調べてみましたが、「完璧な対策」は容易ではなさそうです。

だから「想定外」までの予防は不可能としてはいけないのでしょうが、想定外をなくすのはかなり大変そうです。