本当だったら終わりだな −エジプト騒乱異聞−

エジプトの騒乱のごく簡単な経過を示しておきます。

date 事柄
1月14日 首都カイロにあるチュニジア大使館の前で反政府デモが発生
1月17日 カイロやアレクサンドリアなどで合わせて3人が焼身自殺
1月18日
1月21日 低賃金にあえいでいた男性が焼身自殺を図り大やけど
1月25日 カイロやアレクサンドリアスエズなどでデモが実行され、少なくとも約1万5000人が参加したとされている
1月26日 カイロやスエズで合計3,000人規模のデモが発生
1月27日 エジプト証券取引所が騒乱のため取引停止
1月28日 金曜礼拝に引き続き「怒りの日」と呼ばれる大規模デモ
1月29日 ムバラク大統領テレビ演説も、これに反発の暴動広がる
1月31日 ムバラク大統領がシャフィク内閣を任命。スレイマン副大統領は野党に対話を呼びかけた
2月1日 野党勢力は無期限ゼネストと、100万人規模のデモを呼びかけ、ムバラク大統領は次期大統領選不出馬を表明


後も続くのですが、今日必要なのはこの辺りまでです。記憶にも新しいエジプト騒乱がピークに達しようとしていたのが、1月の末の状況である事ぐらいは誰でもわかると思います。当然ですが、エジプト在住の邦人はエジプトからの脱出を考えます。とは言うものの、こんな騒乱の中で民間の国際便が通常通りに運行するはずもなく、これは1月30日時点のカイロ国際空港の状況ですが、
1月28日の時点でもカイロ国際空港にはエジプト脱出を待つ邦人が500人はいたようです。ここからは天漢日乗様の菅直人、ダボス会議出席時、カイロに足止めされていた約500人の邦人を見捨て、救出のための補助用の政府専用機派遣を拒否@週刊朝日3/4号から引用させて頂きます。これは平野浩氏のツイッターからだそうですが、

http://twitter.com/#!/h_hirano/status/40177415451840512
菅首相ダボス会議に行ったのは1月28日。実はそのときエジプトでは約500人の邦人がカイロ空港で足止めされていた。そこで外務省が政府専用機邦人救出に使おうと提案したところ菅首相がキレた。専用機はオレが使う。勝手にエジプトに行った奴をなぜ助けるのか、と。「週刊朝日」3/4より

http://twitter.com/#!/h_hirano/status/40179085019717632
困った外務省は前原外相と相談。外相は首相を説得したが、首相は聞き入れず、28日夕に出発し、30日午後に帰国。ここで許せないのは「勝手に外国に行った奴を政府専用機まで使ってなぜ救うのか」という発言。一国を代表する宰相の言葉とは信じられない。「週刊朝日」3/4より

http://twitter.com/#!/h_hirano/status/40180219956432896

外務省関係者の言。「国民を切り捨てるなんて首相として許しがたい。他国では救援機を送っている。一体何のための飛行機で費用はどこから出ていると思っているのか」と。これが市民派宰相、菅直人の正体である。「週刊朝日」3/4より

http://twitter.com/#!/h_hirano/status/40181419753873408

ついでにもうひとつ。政府専用機は2機あり、不測の事態に備えて1機は空のままついて行く。これを使ってダボス会議の帰りにエジプトに立ち寄り邦人を救出できたはずである。そうすれば話題になり、支持率も向上したと思われる。しかし、菅首相の頭の中には邦人救出の4文字はなかったのである。

菅首相の行動を確認しておきます。首相官邸HPの菅総理の動き「菅総理の世界経済フォーラム(WEF)2011年年次総会(通称「ダボス会議」)出席:概要」によりますと、

菅総理は、1月28日から1月30日まで、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(通称「ダボス会議」)に出席するため、スイスを訪問。1月29日に特別講演を行ったほか、有識者との会合やビジネス・リーダー等との昼食会、ジャパン・セッションでの冒頭挨拶、ソロス氏との会談を行った。

確かに菅首相ダボス会議のためにスイスを訪問しています。使用した専用機はwikipediaによると、

日本は現在2機の「日本国政府専用機」を保有している。機種はボーイング747シリーズの中でも最大級のボーイング747-400

それと日本国政府専用機の運用目的として、

日本国政府専用機(にほんこくせいふせんようき)とは、日本国政府が所有・運航を行い、政府要人の輸送および、在外の自国民保護などのために使用される航空機

首相のような要人の輸送にも使われますが、在外の自国民保護にも使うとなっています。当たり前ですが争乱中のエジプトの邦人の救助に使っても目的外使用にはなりません。それと

    政府専用機は2機あり、不測の事態に備えて1機は空のままついて行く
ここについても、

要人が政府専用機を使用する際は、通常任務機と副務機が共に飛行し、任務機が故障した場合には直ちに副務機が使用できるという体制をとっている。なお、政府専用機のうちの1機が整備などで使用できない場合は、日本航空が同社の機材を予備機として提供している

つまり菅首相がその気になればダボス会議の帰りに、専用機でエジプトの邦人救助は可能だったわけです。上で引用した菅首相、前原外相のやり取り、外務省関係者のボヤキについては確認不能ですが、確認される事実として、菅首相の決断一つでエジプトの邦人救助が可能な状況があり、残された事実として、それは行われなかったと言う事です。

考えようによっては、菅首相ダボス会議に出席するために、政府専用機がエジプトの邦人救助に使えなかったとも見る事さえ可能です。ダボス会議出席とエジプトの邦人救助を天秤にかけるのは難しいかもしれませんが、両立できる状況があったにも関らず、菅首相は動かなかったのは確認できる事実です。個人的には菅首相が搭乗していた専用機の使用は難しくとも、副務機の転用は不可能ではなかったと思います。

菅首相ダボス会議で行った特別講演の内容を紹介しておきます。

 1月29日、菅総理は、「新しい現実のための共有規範」をテーマとする本年のWEF年次総会において、「開国と絆」と題する特別講演を行った(シュワブWEF会長が進行役・コメンテーター)。

 冒頭、総理は、現下のエジプト情勢について、ムバラク大統領が国民との対話の中から、国民が幅広く参加する政権を作り、政治的安定と市民生活の平静を取り戻すことを期待する旨述べた。

 総理は、現在の日本で、精神面と経済面で閉塞を打ち破っていく「開国」が必要であると同時に、それにより人と人との関係に断絶が生じないよう、改めてつなぎ合わせる「絆」が必要であるとして、次のポイントに沿って、世界に向けてメッセージを発信した。

  1. 自らを開く:新しい現実、150年前に学ぶ開国の思想、開国を具体化する経済連携の推進、農業の再生に開国の精神で挑む、開国の精神によるイノベーションによる成長制約の克服。

  2. 新しい絆を創造する:最小不幸社会の実現に必要な新しい絆、絆の観点から働くことの価値を再定義する、日本が発信する螺旋階段型の発展、「新しい絆の創造」を柱に国際貢献を進める、APECの「あまねく広がる成長」の取組。

  3. 結び〜日本を、そして世界をクロスカップリングする:世界のリーダーに期待されるのはクロスカップリングにおける触媒の役割。開かれた将来を築く挑戦において人々が社会から切り離されないよう新しい絆でつなぎ直すことが求められる。

私はてっきり菅首相以下の政府要人がエジプト情勢自体を存じ上げなかったかと思っていましたが、そんな事はなかったようです。どうやら菅首相の当時のエジプト情勢の観測は、

    総理は、現下のエジプト情勢について、ムバラク大統領が国民との対話の中から、国民が幅広く参加する政権を作り、政治的安定と市民生活の平静を取り戻すことを期待する旨述べた。
ムバラク前大統領の指導の下に「間もなく」平静に戻ると判断されていたと考えられそうです。この言葉は本来、政治的な修辞も込められていると思うのですが、菅首相はどうやら本気でそう判断し、その判断に基いて専用機のエジプト派遣を不要と判断されたと考えられます。もっともカイロ国際空港に取り残されていた邦人は、2/1付共同通信(産経版)より、

 「チケットは手書きで座席指定もありません。みんな自由席」。エジプトのムバラク政権を揺さぶり続ける大規模デモの混乱で、カイロ国際空港に足止めになっていた日本人団体旅行客。政府チャーター機の離陸の直前、約30人のツアーを引率した女性添乗員が声を弾ませた。

 「機体はイスタンブールからカイロに向かっています」。1月31日、カイロから脱出するチャーター機の第1便の出発は大幅に遅延。在エジプト日本大使館の職員の現状説明に「(カイロに)もう着いていると言っていたのに、話が違う」と男性添乗員がいらだちをあらわにした。

 各国の団体客らが次々と空港の建物内に姿を消す中、建物前は搭乗を待つ日本人であふれた。搭乗手続きが始まったチェックインカウンターで「なぜ直行便じゃないんだ」と声を荒らげる人も。(共同)

2月1日にはエジプトから脱出できていますから、菅首相の判断は、「たかだか数日」の遅れを「最小不幸」として、もたらしただけとも評価は可能かもしれません。ダボス会議での菅首相の一節ですが、

    人と人との関係に断絶が生じないよう、改めてつなぎ合わせる「絆」が必要である
なるほど、人と人との絆ですか。菅首相におかれましても、つなぎ合わせる事が出来ますように祈っておきます。