今週は尖閣ビデオ問題に突っ込んでしまったので、ついでです。11/9付読売新聞より、
映像公開で量刑下がる?仙谷長官「厳秘」資料
仙谷官房長官は9日午前の衆院予算委員会の最中、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像を一般公開する可否を検討するための資料を菅首相に示した。
「厳秘」と記された資料は、一般公開のデメリットを「映像流出の犯人の量刑が下がるおそれがある」などとしている。
資料は、〈1〉国会提出済みの映像記録〈2〉動画投稿サイト「ユーチューブ」に流出した映像〈3〉マスター映像――の3種類に関し、公開の法的根拠やメリット、デメリットを分析している。
公開のメリットには「中国による日本非難の主張を退けることができる」などを列挙。一方、デメリットは、「流出犯人が検挙・起訴された場合、『政府が一般公開に応じたのだから、非公開の必要性は低かった』と主張し、量刑が下がるおそれがある」としている。特に、流出映像の公開については、「犯罪者を追認するに等しく、悪(あ)しき前例となる」などと記している。
(2010年11月9日12時31分 読売新聞)
短いのですが読めば読むほど不思議な記事です。とりあえず今の情勢ならかなりニュースバリューのある記事です。ニュースバリューがあると言うのは、この情報が出たのが官房長官とか首相の記者会見であるのなら、読売だけでなく他社も報じるはずだと言う事です。それが全然報じられないと言う事は、いわゆるスクープになります。つまり読売の独自取材に基いたものと言う事です。
でもって記事全体の構成を読めばわかるのですが、誰かからの伝聞調にはなっていません。誰がどう読んでも、「厳秘」資料を読売記者が読みながら書いたものです。至極簡単には「厳秘」資料を読売は入手している事になります。
その厳秘資料が公式にはどこで出たかですが、
昨日の予算委員会の最中に示したとなっていますが、記事のタイムスタンプは、-
2010年11月9日12時31分
発言者 | 所属政党 | 質問開始時刻 | 質問時間 |
中井洽 | 予算委員長 | 9時00分 | 6分 |
町村信孝 | 自由民主党・無所属の会 | 9時06分 | 46分 |
高市早苗 | 自由民主党・無所属の会 | 9時52分 | 46分 |
赤澤亮正 | 自由民主党・無所属の会 | 10時38分 | 46分 |
齋藤健 | 自由民主党・無所属の会 | 11時24分 | 40分 |
昼食休憩(12時04分〜13時00分) | |||
中井洽 | 予算委員長 | 13時00分 | 1分 |
石井啓一 | 公明党 | 13時00分 | 1時間1分 |
佐藤茂樹 | 公明党 | 14時01分 | 56分 |
高橋千鶴子 | 日本共産党 | 14時57分 | 58分 |
阿部知子 | 社会民主党・市民連合 | 15時55分 | 38分 |
柿澤未途 | みんなの党 | 16時33分 | 31分 |
午前中のどこかの時点で厳秘資料が官房長官から「首相に示した」たと記事にあります。「示した」なる状態が想像し難いのですが、閣僚席で官房長官が見せたぐらいの状態かと考えています。当然の事ですが厳秘資料は閣僚席にあったと考えられます。無けりゃ示し様がありません。その厳秘資料が12時31分には読売記事になっているのです。どう考えても不思議です。
予算委員会中ですから、午前中の間に首相も官房長官も席を立たなかったと考えられます。委員会中のトイレはどうなっているか存じませんが、その間に官房長官なり、首相が便所で一緒になる状態もちょっと想像できません。よくは存じませんが、そういう時にも接触は出来ないんじゃないかと考えます。また資料自体も厳秘ですから作成されたのは1部と考えるのが妥当でしょう。そんなにたくさんコピーがあっても困ります。
つまり午前中に予算委員会の閣僚席にあった厳秘資料は読売記者に常識では渡り様がありませんし、ましてや首相や官房長官が読売記者に見せると言う状態も無理かと思われます。
ここで一つ可能性があるのは、厳秘資料を示した官房長官なり、首相がこれを利用して答弁を行った可能性です。これを傍聴して読売記者が記事にした想定です。これはビデオライブラリーを確認しないとわからないのですが、可能性としてはあります。あるのですがかなり無理なシチュエーションを考える必要があります。
読売記者は首相なり、官房長官が答弁を行った直後に「これは記事になる」と判断し、傍聴席を抜け出して記事を会社に送る必要があります。まあ、これは複数の記者が傍聴していたと考えれば不可能ではありません。
また答弁に用いた資料が厳秘であるかどうかも、答弁中に発言した(するかな?)とすれば不可能ではありませんが、それなら記事の体裁がおかしくなります。記事を引用しますが、
もし答弁にあったものならば、「記している」とせずに首相なり、官房長官が発言したと書くはずです。誰が発現したかについて記事中に全く記載が無いのが非常に奇妙と言う事になります。ごく素直に記事を読んで、答弁をまとめたものとはどうしても読めず、厳秘資料を読んだとしか見えないのです。
もう一度厳秘資料の行方をまとめておくと、
- 予算委員会の閣僚席に1部は確実にあっただろうが、これが読売記者に渡る可能性は低い
- しかし読売記者は12時31分には記事にしている
-
資料を菅首相に示した
う〜ん、ビデオライブラリーを確認できる時間が無いのが残念なんですが、記事の「示した」はこう解釈するのかもしれません。尖閣ビデオ問題の答弁に官房長官が立ち、厳秘資料を滔々と読み上げ、首相にこういう事になっていると「示した」可能性です。つまり示したは官房長官の答弁であり、官房長官が厳秘資料の内容を予算委員会でいきなり首相に公表した状態です。
もしそうならある程度記事の内容の説明は可能ですが、これはこれで相当珍妙な状態です。内閣官房の厳秘資料とは言え、それを首相が知らないなんて事は非常に困った状態です。質疑に対する答弁の準備は入念に行なわれますから、準備段階で首相は当然読んでいるべき資料です。それを本番で官房長官がいきなり答弁で公表するのはやはり妙です。
さらに国会答弁ですから、官房長官から首相に示すという表現を使うのもおかしく、通常は質問者に対する答弁で、首相ではなく質問者に「示した」の表現になるかと考えます。もし「示した」が官房長官の答弁であるなら、質問者ではなく首相に「示した」と言う表現を取っているのか理解不能です。
・・・・・と、ここまで昨日の段階で書いていたのですが、私が疑問に感じた事のほぼすべての解答が11/9付産経新聞に掲載されていました。
予算委でも極秘資料撮ったら「盗撮」、仙谷官房長官
仙谷由人官房長官は9日の衆院予算委員会で、同日の読売新聞夕刊にインターネット上に流出した沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件映像の一般公開の可否を検討する資料の写真が掲載されたことについて「盗撮だ」と批判した。
掲載されたのは、「政府として映像を一般公開した場合の検討(尖閣ビデオ関連)」とされた資料。「厳秘」とされ、公開する場合の手続きやメリット、デメリットなどが、国会に提出済みの映像や流出した映像などについて、比較検討されている。
みんなの党の柿沢未途氏が、この記事を問いただすと、仙谷氏は資料について「あの辺から、望遠レンズ、拡大レンズで盗撮されたようだ」と、カメラマン席を指さして答弁。その上で「私の私的メモとして、私が私のスタッフに命じて作らせたもので、私が私的にポケットに入れて持っているものだ」と説明。政府の公的資料ではないことを強調した。
写真は、委員会が行われている衆院第1委員室の2階の傍聴人席から、カメラマンが国会の許可を得て撮影されたもので、本紙も仙谷氏が資料を菅直人首相に見せるシーンを撮影した。それを「盗撮だ」と強弁するあたり、映像流出問題に仙谷氏は相当、神経をとがらせているようだ。
産経記事には画像もあるので見てもらえればわかるのですが、読売記事が「首相に示した」は予算委員会の閣僚席で官房長官が厳密資料を示して説明した様子であった事が確認できます。昨日の段階の考察では読売記者が厳密資料を入手した推理を考えていましたが、これは間違いで、閣僚席で官房長官が首相に示した厳密資料を撮影し、これから読み取れる部分を記事にしたようです。
おそらくカメラマンが「厳密」の文字を見つけ、可能な限り鮮明に撮影し、これはスクープと判断し、記事にする様に手早く会社に送付したものと考えられます。
産経記事の主要部分は、みんなの党の柿沢未途氏が16時44分から行った質疑の内容に基くものと考えられますが、柿沢氏は自分の質問が来るまでに読売記事の情報を入手し、これについて質したと思われます。読売記事は12時31分のタイムスタンプですから、昼食休憩中に見つけたとしても不自然ではありません。
肝心の厳密資料ですが、官房長官の答弁として、
-
私の私的メモとして、私が私のスタッフに命じて作らせたもの
それでも一つだけ疑問が残ります。尖閣ビデオ問題は現在の国会の重要課題です。予算委員会で委員側から多くの質問が出されるのは誰にでもわかります。国会答弁は基本的には質問内容を事前に通知し、それに対する答弁を準備する時間があるのは周知の事です。首相はどう対応していくか入念に準備を行なっているはずです。
それを予算委員会の閣僚席で、予算委員会の質疑の真っ最中に官房長官が首相に厳密資料を示し説明しているのが非常に不可解です。そういう事は予算委員会が始まる前に行なうべきことだと考えます。これが官房長官と首相の立場が逆ならまだ納得できます。事前準備の段階と方針を変える決断を首相が行なっても構わないからです。それが許されるのが首相であり、政治判断になります。
官房長官が予算委員会が始まってから資料片手に首相にレクチャーするのはやはり珍妙です。まるで官房長官が方針の決定権を握っているような印象さえ抱かせます。まあ、まあ、今までと違う政治を行なうことが民主党のモットーでもありますから、不思議と感じてはいけないのかもしれません。
もう一つ、本当の真相はどうであれ、厳密資料の内容は官房長官の私的スタッフが作成した事は官房長官自ら公言されました。そこに書かれている内容は官房長官が認めている事と解釈して差し支えないと考えます。その傍証として、予算委員会中の閣僚席で首相にレクチャーすると言う行為に現れています。つまり官房長官の御意見と同じと考えても宜しいかと存じます。
な〜んか火事にガソリンをぶちまける行為に見えてしかたがないのですが、民主党政治でこの程度の事は、もう「たいした問題ではない」になるのかもしれません。