同時接種と同日接種のお勉強

神戸では1月からHib、PCV7、HPVの接種無料化が始まっています。まだの市町村も順次そうなっていくと思われますが、避けて通れない問題として同時接種・同日接種があります。HPVはともかく、HibとPCV7とDPTは同時接種を行わないとニッチもサッチも行かない現状があります。すべてバラで接種しようと思えば、最大で9回(神戸ではBCGとポリオが集団接種)も診療所で接種しなければなりません。とても需要に応じられるものではありません。

そういう訳で当院も積極的に同時接種を行っているのですが、今日もまた私の知識のアップデートにお付き合い下さい。今日の勉強のソースは、アワセ第一医院浜端宏英氏が平成22年9月15日に中部地区医師会研修会で行った予防接種における同時接種についてです。これは沖縄県のHPに収載され、講演会に保健所員も臨席されていますから、それなりに公認のものとして見なして今日は取り扱っています。

講演された浜端氏については全く面識はございませんし、公表されているのはスライド原稿なので、これを基にどんなお話をされたのかも想像だけですが、かなりユーモアに溢れたものではなかったかと推測されます。一枚だけスライド原稿を画像で引用しておきますが、

この講演会が行われたのが9月15日、沖縄の養護教諭のホメパチ記事が報道されたのが9月2日です。ですからタイムリーな話題として盛り込まれたと解釈しています。ただヒョットして沖縄では常識のようにホメパチの跳梁跋扈があり、謹厳実直な先生でも、当たり前のように書く現実があるかどうかまでは情報が不足していますので判断できません。


ホメパチはともかく、日本のワクチン事業が遅れているとか、多価ワクチン開発でも遅れている云々の話はスキップします。もうそのレベルの話はここでは良いでしょう。知りたいのは同時接種を行う上での具体的な注意です。もうちょっと言えば、接種時に気を付けておく事はないかです。それでも基本的なお話は抑えておきたいので、1995年のWHO見解を引用しておきます。

  • 現在予防接種拡大計画で使用されている全てのワクチンは同時接種しても安全かつ効果がある。
  • それぞれを混合せずに接種する
  • 例外:黄熱、コレラ、生ポリオ(お互い干渉する)

これが1995年だったのですが2010年には改訂されています。

ワクチンは、一般に同時接種が出来る。それぞれを別の場所に接種する。禁忌の記載はない。

1995年で例外とされたOPVも同時接種可能に改訂されています。接種方法についてはRed Book 28th Edition, 1820, 2009からの引用を挙げられていますが、

  • 接種部位の間隔は特に定められていないが、少なくとも1インチ(25mm)の間隔をあけ局所反応が重複しないようにする。
  • 2つ以上のワクチンを接種する場合、特にその1つがDTaPワクチンの場合は、できるだけ他のワクチン接種部位とは離れた部位を選ばなければならない

これらから日本で接種する時の原則として、

  1. それぞれを混合せずに接種する。
  2. 局所反応が分かるように2.5-5cm離して(皮下)接種する。
  3. DPTがある時は、DTPは出来るだけ離して(ひとつの肢に)接種する。
  4. 同時接種の禁忌ワクチンはない。
  5. それぞれのワクチンの禁忌、スケジュールを守ること。

現実的にDPT、Hib、PCV7を3本同時に接種する時には、DPTを片方に、HibとPCV7をもう片方に接種する事を勧められているようです。基本的に異論は無いのですが、米国のDTaPと日本のDPTが同じかの問題ぐらいはあると思っています。問題と言っても米国のDTaPなんて接種した経験どころか見た事もないのですが、どこかで聞いた話では結構腫れるそうです。

日本のPCV7も皮下注である関係上、結構腫れますから、そこら辺の関係はどんなものだろうと思うぐらいです。Seisan様、よろしくフォロー御願いします。そうそう、この講演会の質疑応答の記録も残されていまして、

Q3:同時接種のまとめのスライドについて(詳細な質問内容は?)

A3:DTP の接種は他のワクチン接種の部位からなるべく離れたほうがいい。理由は、2回目、3回目等では腫れやすい。

DPTだけを片方に単独で接種する大きな理由は「腫れるから」だそうです。



さてもう一つの問題に進みます。同日接種です。ちなみに神戸市では日本脳炎接種再開に対する医師会の説明会でも、また保健所の集団接種時の説明でも同日接種は控える説明が行なわれています。これに対し

  • 同日接種の禁忌はない。
  • 歴史的にOPVとMMRの同日接種が行われてきた。実施には市町村の理解が必要。
  • 浦添市はポリオとの同時接種はOK。
  • 東京の文京区もポリオの帰りにMRを行っている。
  • 麻疹の流行時になどでは同日接種も必要!

とりあえず神戸でも

    実施には市町村の理解が必要
こうのようです。では日本の同日接種の根拠がどこかにないかですが、BCGではこういうのがあるそうです。

BCGに関して

  • 自施設で個別接種を行っている場合は、同時接種を行える
  • 保健所などで集団接種を行っている場合は、かかりつけ医等で、同日接種を行える
上記のごとく、厚労省は口頭で答えている。成文化されていない
安慶田英樹先生H22.9 地方会ランチョン

口頭か・・・この点について補充情報をお持ちの方はよろしく御願いします。この講演でも同日接種についてはやや慎重な意見のようで、質疑応答に、

Q9:ポリオはほとんど場合集団接種であるが、その日のうちに受診してDTP などの予防接種をするというのは可能か。

A9:「同日接種」は東京都のある区では普通に行なわれている。基本的に問題ないが、まだ一般的にはなっていないのが現状である。現実には、ポリオの集団接種の会場と医療機関が遠く離れていて時間がかかる場合には躊躇するかもしれない。同日接種は麻しん流行時のように緊急時に行った方が良いと考えている。

神戸の予防接種の補償は神戸方式と言われ、神戸市が音頭を取っているため、あえて同日接種を行わない方が今のところ無難そうです。そうそう、同時接種に対する補償問題も出ていました。

平成20年6月5日於:全国衛生部長会議
(質問)

  • 医師が特に必要と認めて定期接種ワクチンと同時接種した場合、定期接種ワクチンは適切に実施された定期の予防接種と認められるかどうか。
(回答)
  1. 異なる種類の定期の予防接種の同時接種については、予防接種実施要領で医師が必要と認めた場合に限り認めている。
  2. 定期と任意の予防接種の同時接種については実施要領に特段規定がない。
  3. 安全な予防接種を維持し、被接種者の健康を守るためには、実施する医師の医学的に適切な判断に委ねられる。
  4. 同時に接種された定期分については、実施要領の通り(十分な予診、決められたワクチン接種量の遵守等)適切に実施されていることが求められている。

木で鼻を括った様な回答なんですが、これは

簡単にいえば、「同時に接種された定期接種については、実施要領通り適切に実施されている限り、定期接種である」。

こう読み取るとしています。本当にそう読み取れるのか私には自信が持てないのですが、こういう補足もされています。

定期+任意接種の時の健康被害時(医事新報庵原先生、神谷齊先生より)

  1. 定期接種の健康被害の判定。
  2. 任意接種での健康被害の判定。
どちらが原因か診断できない時
⇒補償が手厚い定期接種の救済へ。

へぇ〜てなところです。ただしなんですが、もう一つの補足に

文書化されない通知や会議での発言は法によらないため、担当が変わると変更される可能性がある。

極論すれば「出てみないと判らない」みたいです。いつもの事ながらしんどいお話です。これも質疑応答部分があり、

Q4:副反応が定期予防接種か任意予防接種で起こったのかわからない場合、定期予防接種の副反応として補償される、と考えていいのか。

A4:その可能性は高い、と考えている。

毎度毎度の事なんですが、風向き一つで変わる可能性はテンコモリみたいです。とくに同日接種は所属する市町村の意向、さらには市町村医師会の意向を確認しておいた方が実務上は無難と考えます。