夕張でも話題に出ましたし、全国の公立病院の建て直し手法として重用されているのが指定管理です。これがどうにも判ったような判らないような代物で、委託契約の変型版ぐらいにしか理解できていません。それでも公立病院の再建手法として「公設民営、指定管理」は救世主の様に取り扱われる傾向があるので、もう少しマシな知識をつけておこうぐらいの趣旨とお受け取り下さい。
大層な事を言いましたが、知識のソースはwikipediaです。それも前から指定管理者の話が出るたびに読み直し、なおかつ未だに理解が生煮えの冒頭の解説、それも最初の2行の理解に努力してみます。
指定管理者制度(していかんりしゃせいど)とは、それまで地方公共団体や外郭団体に限定していた公の施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができる(行政処分であり委託ではない)制度である。
何度読んでも難解です。誤解があれば御指摘を頂きたいのですが、公が作った施設なりの運営は、公の団体でなければ運営してはならないの規則があったものと推測します。それを公が作ったものでも、公の団体でなくとも運用できる様にした制度が指定管理者制度であると理解します。良く言えば、運用をお役所仕事から民間の手法に変えれば効率が上がることを期待した制度と言えば良いのでしょうか。
じゃあ委託契約みたいなものかと言えば、ここがかなりうるさい点になるようです。wikipediaにも書いてありますが、
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行政処分であり委託ではない
「行政庁の処分とは行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(最高裁判決昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁)。また、この判決が先例として引用している最高裁判決(最高裁昭和30年2月24日判決民集9巻2号217頁)では、公権力の主体たる国(日本国中央政府)又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを「行政庁の処分」と定義していると考えられる。
読んで頭が痛くなった人は手を挙げてください。もうちょっと他にないかと探したら、はてなキーワードが簡潔だったのですが、
行政機関が個人や法人に対し、法規に基づいて権利を与えたり制限したり、義務を負わせたりすること。営業の認可、租税の賦課など。
最後のところがどうしてもピンと来ないのですが、指定管理者制度が行政処分に基くとは、行政が予め設定した条件で運用が可能と申し出たものに「許可」を与え運用を「代行」させる事のようです。言葉で表現すれば契約を結んで委託するのではなく、許可を与えて代行させるになります。なんとなく綺麗にまとめた気はするのですが、実はそれでも違いがわかりにくいのは白状しておきます。
つうのも委託も代行も日本語的には大した差が無いのです。なんとなく違うようで煮詰めれば同じような意味とも思うのですが、大辞泉で確認すると、
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委託・・・ゆだね任せること。人に頼んで代わりにやってもらうこと。
代行・・・当事者に支障があるときなどに、代わってその職務を行うこと。
日本語も日常会話レベルのニュアンスと法律的な意味合いはしばしば乖離しますので、これ以上は私の手には負えません。あくまでも「どうやら」レベルですが、代行である指定管理者制度の方が縛りがきつそうな感触だけはありそうです。どうにも解釈に自信が薄いのですが、指定管理者制度の法的根拠は地方自治体法に基きます。チト長いですが引用します。
第二百四十四条の二
- 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
- 普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない。
- 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第二百四十四条の四において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。
- 前項の条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めるものとする。
- 指定管理者の指定は、期間を定めて行うものとする。
- 普通地方公共団体は、指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。
- 指定管理者は、毎年度終了後、その管理する公の施設の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を設置する普通地方公共団体に提出しなければならない。
- 普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(次項において「利用料金」という。)を当該指定管理者の収入として収受させることができる。
- 前項の場合における利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定めるものとする。この場合において、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通地方公共団体の承認を受けなければならない。
- 普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。
- 普通地方公共団体は、指定管理者が前項の指示に従わないときその他当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
これも難解なんですが、
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公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
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前項の条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めるものとする。
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利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定めるものとする。この場合において、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通地方公共団体の承認を受けなければならない。
条例に定められている部分でも指定管理者は提案する事は可能ですが、条例ですから手続きとしてすべて議会の承認が必要とされますし、これも当然ですが議会の承認を得る前に行政の承認も得る必要があると理解して良さそうです。なかなか窮屈そうな部分です。
その上で指定管理者の働き振りが相応しくないと判断した場合には、
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普通地方公共団体は、指定管理者が前項の指示に従わないときその他当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
どうしても理解がストンと落ちません。そこで見方を変える事にします。指定管理条件は行政が議会に提案し、議会が承認して成立します。成立したものは条例ですから、行政はこの条例の遂行遵守を行なう義務が生じると考えます。自分が提案して承認された条例ですから当然の事です。
指定管理者として許可された者が指定管理条件を満たせなかった時は、通常の契約であれば契約違反ですが、指定管理者制度では直ちに条例違反となり、行政は条例違反を取り締まる責務が生じると考えます。通常の契約でも違反があれば、これについての協議を行いますが、指定管理者制度では形式として条例違反状態の解消を行政が求める事になるかと考えられます。
それと指定管理条件の変更は条例ですから行政の一存では行えません。変更するには議会の承認を必要とします。地方議会であっても議会の承認手続きにはかなりの手間暇がかかる事がありますから、指定管理者が指定管理条件を満たせない時に、通常の契約より柔軟性が乏しくなると考えれば如何でしょうか。
例えとして相応しいかどうか疑問なんですが、借金の返済交渉で、期日を越えた時に「もう1ヶ月待ってくれ」と嘆願された時に、ある程度担当者の一存で判断する事は可能と思います。しかし条例で決められているときには、これを議会に提案し承認されないとOKは出せず、条例に基いた処置が粛々と進められてしまう感じといえば良いのでしょうが。
私の説明を読まれても「???」かもしれませんが、実は私も未だに「!??」ぐらいしか理解できていません。おぼろげな理解で本当に申し訳ないのですが、通常の契約より条件の遵守が強く求められ、変更に関しても手続きが厄介なものであるぐらいにしておきます。この程度の理解で応用問題に進むのは無謀なんですが、ブログですから進みます。
応用問題として、夕張の件をこの程度の理解で検証してみます。夕張の指定管理条件は伊関氏のブログに一部残されています。ほんの一部しかないのですが、これをテキストにして考えてみます。
(2)病床数
上述した様にこれは条例ですから、一般病床数の削減は、これを行政が認め議会の承認を得ない限りできないことになります。
(4)経費の負担
なんとなく村上氏と夕張市がもめていた事柄が想起できるような気がしています。記憶に頼りますが、開設当初に改修費用の負担でかなりもめていた記憶があります。私が記憶しているものに空調問題があります。村上氏の診療所は旧夕張市立病院の建物を使っているのですが、この空調システムは全館システムです。
ところが診療所で使うスペースは狭く、全館システムでは無駄な費用が多くなります。北海道の冬ですから暖房費用だけでも経営を揺るがすぐらいものになる話だったと思います。当然の様に村上氏は診療所スペースだけの空調システムへの改修を市に要望する事になります。旧病院もかなり古くなっているようですから、改修費用と言っても結構な額になると考えられますが、市側が相当渋った話が伝わっています。
これは多分ですが、市側の言い分として
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修繕費、機器・備品購入費及び老人保健施設への改修費は指定管理者が負担する
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ただし、資産価格の増加を伴う大規模改修等が必要な場合には、指定管理者と市との協議によりその都度負担割合を定めるものとする。
診療所経営から考えると無駄の削除なのですが、空調が及ばない範囲は使えない施設になります。これを建物の価値と言う評価で見ると「資産価格の増加」とは言い難いところがあると考えられます。「資産価格の増加」でなければ市側が負担する道理は無くなり、単なる診療所が行なう修繕費であるとの解釈も可能になります。
もう一つ類似の話で、開業準備で施設を点検した村上氏は、このままでは開業するのに不十分な状態でさらなる改修が必要と判断した話を記憶しています。これは開業のために必要な改修費であるから市側が負担して当然であるの主張を行っていました。「そりゃそうだろう」と私もその時に思いましたが、このいざ診療を行うには不十分な部分の費用も、指定管理条件では市側に負担項目はありません。
指定条件は条例でもありますから、条例の解釈として適合しないと判断されれば市側からの出費は1円たりともできません。市側が「それは修繕費だ」と主張し、村上氏側が「いや大規模改修だ」との主張が繰り返し行われたと推測されます。
もう一つ注目すべき点は、
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市は、指定管理者に対し、2.のただし書きによる負担金を除き交付金、負担金等一切の支出を行わない。
夕張市には地域医療維持のための交付税が年間約6000〜7000万円出ています。 このお金は市職員のボーナスにはなりますが、医療従事者のボーナスにはならないのです。 この事実を市民は知りません。
夕張市への地域医療維持のための交付金が夕張市の職員のためのボーナスに使われたかどうかは確認しようがありませんが、指定管理条件では夕張市は「交付金、負担金等一切の支出を行わない」と決められています。夕張市は交付金を「地域医療維持」のために使用したとしても、村上氏の診療所に使用する義理はない事になります。
もし村上氏の診療所に支出すれば条例違反にもなります。指定条件で大規模改修以外に村上氏の診療所にビタ一文支払わないと明記しているのです。この指定条件を変更しない限り、いかに村上氏が経営上の苦境をアピールしても、市行政としては払いたくとも払えない事になります。
さらにになりますが選考要件があります。
- 市立診療所等の経営、管理を長期的に安定して行う能力を有すること。
- その事業計画の内容が基本理念にかなう医療の提供を行いうるものであること。
- その事業計画の内容が市立診療所等の利用を促進するものであること。
- 医療サービスの提供に必要な人員を確保出来る見込みがあること
これもやはり指名管理条件であり条例であると考えますが、
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経営、管理を長期的に安定して行う能力
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基本理念にかなう医療の提供を行いうるものであること
予算も無いし医師が減ったからそもそも対応出来ないのは実情ですが、指定管理者制度の趣旨からすると「条例」ですから、減った方が悪いになり、減ったから出来ないは言い訳に過ぎないの対応も可能になりそうです。ここまで杓子定規と言う訳では無いと思いますが、そうされても指定管理者側は情に訴えて理解を得る立場と言えなくもなさそうです。
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医療サービスの提供に必要な人員を確保出来る見込みがあること
今日は不十分な理解ですが指定管理者制度の面から考えていますので、村上氏には少々辛い評価となっています。これは指定管理者制度は「どうも」なんですが、委託契約に較べると条件遵守の制約が非常に強そうだの理解に基いています。その気になれば指定管理者を許可した行政側は、条件は条例ですから杓子定規に守る様に強く要求できる制度のように思えてならないからです。
もちろん最後はいくら法に基くものとは言え、人が運用する制度ですから、融通と言うか柔軟性を持たすことは可能なはずです。ただ指定管理者制度の特徴として、許認可権を有する行政側の立場が基本的に強いとは考えて良さそうです。こういう事は友好的・協力的関係下においては問題になりませんが、対立関係になると露呈する側面はあるように思えます。
おそらくになりますが、夕張市も村上氏も公立の医療機関が必要であるという一点では合意していたと考えられます。ただそれ以外の点はどうであったかが問題の様な気がします。
夕張市にカネが無いのは前提条件ですが、その前提条件の下で発想的には「財政 > 医療」であると思われます。医療は不要ではありませんが、財政負担になるようなら切り捨てるのもやむを得ないぐらいでしょうか。まあ、その割には要求が過大そうに見えない事もありませんが、他の条件が確認出来ないので、そんな感じがするぐらいにしておきます。
一方の村上氏側は「財政 < 医療」であったように感じています。夕張市がカネを出さない条件になっているのは承知していても、医療の維持に必要であるならば交渉の余地は残るはずだの考え方です。おそらく村上氏にすれば「他に代わりがいない」を強く意識されていたとも思いますし、外野の素直な感想もまたそうです。
夕張市もそういう意識はあるとは思うのですが、村上氏より温度が低い可能性があると考えています。「他に代わりがいない」までではなく、「他に代わりを見つけるのは大変かもしれない」ぐらいです。
この程度の差でしたら、運用が順調に行なわれ、経営が軌道に乗りさえすれば何の問題も生じません。また夕張市と村上氏の間に友好・協力関係が構築されれば、初期段階の差はやがて埋められ、運用に支障が生じた時も現実的な対処法を両者で摸索し問題解決に当たったと思われます。
ところが両者の間の差は運用後も解消されないどころか、差が溝になり、溝が谷間に広がった様子が窺えます。真の理由は外野にはわかりません。夕張市にも問題はあったでしょうし、村上氏に問題がまったく無かったとも思えません。わかっているのは結果であり、両者の関係は感情的な対立まで発展している事だけはわかります。
今日の話の基本は指定管理者制度ですから、話をそこに戻しますが、指定管理者制度が順調に運用されるには、
- 指定管理者が指定管理条件を忠実に履行し成果を挙げているとき
- 指定管理者が指定管理条件をすべて満たす事が出来なくとも、行政との協力関係で問題に前向きに対処しようとするとき
状況の打開のためには行政と村上氏の協力関係がどうしても必要です。対立の程度が根が解消できないほど深いものであるのか、一時的な言葉の行き違いによるものなのかは、正直なところよく判りません。ただ対立したままでは行政が行う次の処置は
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指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは