やはり結論ありきでんな

第2回 新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 議事録を読んだのですが、47ページもある大部なもので要約してまとめるのに途方に暮れています。つうのも議事の大部分は意見の陳述であり、陳述に対する議論は僅かであるからです。議論の流れを要約するのは非常に困難であると言う事です。

お時間があればリンク先を読んで頂きたいのですが、良さそうな意見も、何かを意図している意見も出ていますが、はっきり言って垂れ流しで、後でどうにでも要約できる議論形式を取っています。もっともですが、こういう形式は今回だけの例外ではなく御用会議の常態です。たぶんですが第1回会議が荒れ気味だったので議長が気合を入れて運用したとは思っていますが、読む方は非常に厄介です。

ですのでピックアップ方式で私の印象を伝えます。冒頭部にある岩田構成員のコメントがまず印象に残ります。

 前回の会議のとき、正林さんの御報告と尾身先生のステートメントを拝聴して、私は強い懸念を感じました。それは、その長い長いステートメントの端々に、私たちの対策は正しいというメッセージを感じ取ったからです。私たちは正しかった。きちんとアウトカムも出ている。あの当時、すべてのことは予見されていた。我々は最初からすべて分かっていた。正しく準備されていた。目標も達成できた。このような強いメッセージが込められたステートメントのように私には聴こえました。

 平原の昔より、本来、検証とは否定から始まります。自分たちは間違っていたのではないか、ここがおかしかったのではないか、正しいと思っていたことは勘違いだったのではないか、我々の功績と信じたことは、単なる偶然、まぐれだったのではないか。このような徹底的な否定、批判的・弁証法的な態度で物事を見つめるのが検証のはずです。

 しかしながら、会議の初回に既に全面肯定的な結論めいたステートメントがなされるということがあってよいのでしょうか。ましてや、尾身先生は、もしメディアの報ずるところが正しいのであれば、初回の会議に先立つ記者会見でも、今回の対策は成功だったという内容のコメントをされています。通常、検証の後で結論であり、最初に結論ありきの検証は検証ではありません。検証ごっこ、単なるアリバイづくりになってしまいます。

実はこの3倍ぐらいありますが、全部を引用すると長すぎるので、是非リンク先を御参照下さい。岩田構成員は第1回 新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 議事録を読み返しても、結論を「めでたし、めでたし」に誘導しようとする尾身構成員に執拗に食い下がっておられましたから、その反映と感じています。

もう少しだけ岩田構成員の言葉を引用しておけば、

  • 前回の会議における数々のコメントは、そういう厳しさを欠いた非常に甘いものでした。もしこのような甘えの構造が続くのであれば、議長と岩本先生、伊藤先生など当事者でなかったメンバー以外は全部取り替えて、第三者で検証をやり直すべきです。


  • 我々が、正しかったという前提でこの会議をし、総括をするということは、次に新興感染症がやってきたときに、同じことをやろうぜという結果になることを意味します。私は、去年のこの時期と同じことをまた繰り返せと言われたら、冗談じゃない、勘弁してくれよと思います。恐らく多くの現場の方は同じことを考えるはずです。

冒頭部にこういう岩田発言が掲げられてから会議は進みます。第2回のテーマは報道ですから、報道関係者を中心に10人の参考人が順に意見を述べています。お時間があればお読み下さればと思うのですが、参考人発言が終わった頃に尾身構成員のかなりコメントが出てきます。

それらを総括する前に、事実として、その理由については、学校閉鎖、タミフルが効いた、あるいは日本人の高い健康意識等いろいろあり科学的には完全にはピンポイントとして同定はできませんが、結果的には日本の死亡率は諸外国に比べて圧倒的に低く、しかも厚生労働省は当初より、死亡率を低くすることが目的だと言っていたわけですね。その目的については一応達成したと言っても良い私は申し上げました。

これにも長い前後があるのですが、尾身構成員の強い意志がこの発言に込められている様に思います。会議の目的は、

    その目的については一応達成したと言っても良い私は申し上げました
これが検証会議の出発点であり、ゴールであるとしていると考えられます。さらに言えば、この発言の前後の尾身発言が、この日の結論であると解釈するのが妥当かと考えられます。それならそこに絞って解説しても良かったのですが、ちょっと気力が足りませんでした。

尾身発言を受けてのものではないですが、この岩田発言も非常に興味深いものがあります。

 今回の広報についてですけれども、先ほどから浅井さんとか庭野さんからスポークスマンの問題というのが出ていました。それから、坂元さん、笹井さんから、情報のじゃじゃ漏れといいますか、途中でメディアに流れてしまって、我々に届く前に、例えば我々なんかも、今日ワクチンの会議をするという、その日の朝刊に、ワクチンはこうなるというのがばーんと1面に載っていたりして、「えっ、だれが決めたの、こんなこと?」みたいにびっくりしたことが多々ありました。

これは明らかに誰かが会議の前に結論を決定し、なおかつ異論が出そうな気配に対し先制誘導を行なっていた傍証と考えます。とくにワクチン問題はあまりにも様々な思惑が渦巻いていたのは、現場から見ても十分察せられます。ワクチン関連ですが尾身構成員にはこういう発言もありました。

また、広報・リスクコミュニケーションについていえば、例えば例の1回または2回接種の件とか、10ml、1mlのバイアルについてなど、10mlについては実は、製造の効率が1mlに比べ良いので、3週間早く現場に届くということ、つまり、より早くより多くの人にワクチンを配布できるのが理由でしたけれども、それが十分に伝わっていませんでした。

これも強烈な意図を感じます。この問題はかなり追っかけたので、もう一度確認できる事実関係を提示しておきます。

日付 事柄
8/30 総選挙投票
8/31 専門家会議
9/2 専門家会議
9/6 パブコメ募集開始
9/13 パブコメ募集終了
9/15 ・この時点で舛添大臣(当時)はメーカーが云々の説明を聞いていない
・舛添大臣(当時)は10mlバイアルの認可を与えていない
9/16 長妻大臣就任
9/18 10mlを含めた新型ワクチン生産計画が出来上がる
9/25 長妻大臣10ml生産を承認
10/1 ・季節性ワクチン接種開始
・新政権での政府の対策会議の第1回が開催される
10/9 新型ワクチン第1回出荷(10mlバイアルは2万2498本)
10/20 新型ワクチン第2回出荷(10mlバイアルは5万628本)


ポイントは舛添前厚労大臣は10mlバイアルの製造許可を出していません。これは国会質疑で明らかにされ、これに対して「そうでなかった」の長妻大臣の反論は皆無です。皆無どころか長妻大臣自らが10mlバイアルの製造を自分が認めたと発言しています。9/25に長妻大臣が10mlバイアルの承認を行なったと言うのはややアングラ情報(木村盛世情報)になりますが、この直後に10mlバイアル決定を嘆く専門家委員(森沢氏だったかな?)の寄稿が発表されています。

時間の経緯を考えても長妻大臣の決定から10mlバイアルが準備製造されたわけではなく、既に製造されていた10mlバイアルの事後承認のために医系技官が走り回ったと考えるのが妥当です。尾身発言の、

    製造の効率が1mlに比べ良いので、3週間早く現場に届くということ
この言葉には半分ウソがあって、あの時点で10mlバイアルの製造が却下されると、1mlへの切り替えのために3週間遅れると解釈するべきかと考えます。第2回はテーマが広報なのでこれで済んでいますが、第3回以降の議論に大いに期待したところです。ここも期待はしても成果は乏しいでしょうが。


ワクチン問題は私もすぐに頭に血が昇るのでこれぐらいにして、終盤部の近畿医療福祉大学社会福祉学部臨床福祉心理学科教授である勝田吉彰参考人の発言が興味深かったので取り上げます。

そういうことの気質なんかも考えながらやると、では、日本人はどうか。まず最初に、ちょっと熱しにくいのかなと。これが大変だということを理解していただくまでに、相当、何度も何度も同じことを言わないとなかなか分からない。でも、熱がわっと上がってしまうと、今度は一挙にぱんとパニックになる、そういう感覚を持っております。ですので、やはり、まず熱を持っていただくまでは、とにかく一生懸命出していく。熱が上がってしまったら、今度は報道の方もクールダウンするという体制が必要なのではないかと思います。

正直なところ「そうかな?」としか感じられない発言の様に思います。どうにも何かを擁護する発言の様に思えないでもありませんが、これ以上は控えておきます。

他にも有意義そうな意見や、思惑がありそうな意見がたくさんありましたが、紹介しきれないので御自身でお確かめ下さい。印象としては議論と言うより総花式に色んな意見が飛び交っただけのようにも感じましたが、議長のまとめが秀逸です。

 そういう議論をしてもらいたくて言っているんですよ。どうぞ、これで終わりにしましょう。僕も外来をやらなくてはいけないので。

 まともに議論をし始めたら実は切りがない話なんですね。いずれにしてもまとめてもらいます。それで、こういうことが大事なので是非まとめに入れてくれということがありましたら、先ほど言いましたけれども、事務局の方に申し出てください。よろしくお願いします。

 それでは、今日はここまでということで。

トドの詰まりは定番の事務局が結論を出すと言う事で会議はまとめられるようですが、誰の意見を軸に据えるかは決まっていると思われます。まあどうでも良いことですが、議長が会議を打ち切る理由の一つとして、

    僕も外来をやらなくてはいけないので
もう少し時間の余裕のある方に議長を代わってもらってはいかがでしょうか。この日の会議のために午後の外来どころか、1日潰して出席されている構成員もおられます。また会議の内容は非常に重要なものと考えます。必要あれば時間を延長してでも議論を尽くすべき価値はあると思いますが、諸般の事情で議論を尽くしたくない心情の表れとは思います。

議長もせめて遁辞の構え方ぐらいは勉強しておいて下さい。