予防接種の前線の悩み

Hibワクチンに続いて肺炎球菌ワクチンも認可された事は朗報です。朗報は朗報なんですが、理想的に接種しようと考えると結構厄介です。これは誕生月により変わるところもありますが、1歳までに出来れば受けたい予防接種です。

  1. BCG 1回
  2. DPT 3回
  3. ポリオ 2回
  4. Hib 3回
  5. 肺炎球菌 3回
1.〜3.が従来からある公費接種になります。まずこのうちBCGは生後6ヶ月までが公費接種の期限(例外対応はあり)となります。どうでも6ヶ月までに接種しなければならず、ちなみに神戸ではこれを4ヶ月検診時(神戸では公費で集団でやっています)に接種します。4ヶ月検診時に何らかの理由で接種できなければ、5ヶ月と6ヶ月の残り2回の機会に賭けることになります。

そのため当院では、何はともあれBCGを先に接種する様に勧めてきました。ここは小児科医なら常識的な知識ですが、そうでない方には難解なので少し説明を加えておきます。まず上記した5種類のワクチンの分類を簡単に示しておきます。

種類 分類 他の予防接種までの間隔
BCG、ポリオ 生ワクチン 4週間
DPT、Hib、肺炎球菌 不活化ワクチン 1週間


何か研修医相手の説明みたいですが、たとえばDPTをBCGより前に接種した場合はどうなるかです。DPT同士の接種間隔は3〜8週ですから、
あくまでもモデルですが、BCGの接種日は特定できますから、出来るだけ1週間前に近づけてDPTをまず接種します。その後にBCG接種を受けますが、そこからは上述したように4週間の間隔が必要ですから、残りの3週間弱の間に次のDPTを接種すれば机上ではOKになります。ここでの最大の問題はBCGが無事接種できるかどうかになります。

もしBCGが何らかの理由で接種できなければ、期限は6ヶ月以内ですから、DPTの2回目より当然のように優先されます。ここも次ののBCG接種日との関係を見ながらDPTの2回目を接種する事も理論上は可能ですが、かなり煩雑なスケジュール調整を必要とします。何が煩雑かと言えば、このスケジュール間隔を頭で十分理解して親が調整しなければならない事です。

もちろん小児科に相談すれば知恵は出してくれますが、相談するという行為を家族が思いつかなければなりません。少子化の影響もあり子どもの数も少なくなっていますから、新米ママさんにはかなり複雑な作業を必要とします。これを避けるために、当院ではとりあえずまずBCGを先に接種して下さいと説明しています。

BCGとの関係だけでも複雑なんですが、これにポリオが絡んできます。これも神戸では5月と11月に集団接種で行ないます。ポリオは接種する月まで決まっていますから、誕生月によってはさらに複雑な関係になります。たとえば12月生まれなら、4月にBCG、5月にポリオみたいな並びになるわけです。こういう場合も当院では先にBCG、ポリオを先に接種するように原則的には指導しています。


それでもBCG、ポリオ、DPTだけならまだ関係は単純でしたが、これにHibと肺炎球菌が絡むのがこれからの予防接種です。Hibと肺炎球菌とDPTは微妙に接種間隔・回数が異なるのですが、ここでは単純に4週間おきに3回接種するものとご理解ください。上で例に挙げた12月生まれの場合、これまでの指導では

  1. 4月にBCG(保健所)
  2. 5月にポリオ1回目(保健所)
  3. 6〜10月のDPT3回(診療所)
  4. 11月にポリオ2回目(保健所)
おおよそこんな感じです。ところがここにHibと肺炎球菌が入ってきます。このためHibが認可された時にDPTとの同時接種が日本で初めて公認されています。従来も可能ではあったのですが、「公認」されたのが画期的な点です。ただ問題はDPT+Hibに加えて肺炎球菌ワクチンが絡むことです。DPTとHibの同時接種が可能なら、これに肺炎球菌も加えた3種同時接種にする手はあります。

ただ3種同時にするのは医師として問題はまったく感じませんが、それでも実際上として問題になる点があります。

  1. 接種する場所は原則として上腕部だが、3種目はどこに接種するのか
  2. 1回の費用負担が2万円弱必要になる(医療機関により相違あり)
  3. 3種同時接種の認知度の問題
費用は例の子ども手当が威力を発揮してくれる事を祈るばかりですが、残りの2つの問題はどう対応するかは現在様子見中ですし、こうやってブログに書いて情報収集の一助にさせて頂いています。


実はもう一つの問題があります。上述したモデルでは生後6ヶ月から3種の接種を開始するものですが、Hibにしろ肺炎球菌にしろ出来れば早い方(3ヶ月から)が有用とされます。そうなれば当院が従来避けていたBCGを挟んでの接種の必要性が出てきます。また先ほどの誕生が12月モデルならポリオはあきらめざるを得なくなります。では11月が誕生月ならどうなるかですが、

  1. 2月に3種同時接種1回目
  2. 3月にBCG
  3. 4月に3種同時接種2回目
  4. 5月にポリオ
  5. 6月に3種同時接種3回目
かなりの綱渡りが必要になります。それでも3種同時接種ならまだやりやすいですが、2種までが原則なんかにされたら、さらに複雑になります。複雑と言うのは、接種時期の余裕が非常にタイトになると言う事です。今日は一応Hibも肺炎球菌も最大接種間隔を8週間としてモデルを示しますと、
まずDPT+HibをBCGの2週前に接種し、次に肺炎球菌をBCGの1週前に接種します。それからBCGを接種し、そこから2週間以内に再びDPT+Hib、さらにその1週間後に肺炎球菌と言う接種スケジュールです。さらに翌月にポリオがあれば以下同文と言うか、ポリオの接種日との関係でスケジュールがうまく組めるかはなんとも言えません。最悪ポリオは飛びます。

タイトになれば、突発事態への対応が難しくなります。どんなスケジュールを組んでも子どもが健康であり、親さえ忘れなければ問題なく接種できます。しかし子どもは生後3ヶ月を過ぎると感染を起しやすくなります。突発性発疹も早ければ絡んできますし、兄弟がいればセット感染からそう簡単に逃げられません。予防接種が出来なくなった時のスケジュールの調整の幅が非常に狭くなると言う事です。

もうちょっと言えばとくに第1子であれば、こういう予防接種スケジュールを子供が生まれて3ヶ月以内に思いつき、それを小児科に相談・予約しないといけません。接種する小児科も結構大変で、接種日が集中しますので、希望通り応需出来るかどうかの問題も出てきます。


小児科関係者なら予防接種の間隔をそらで覚えていてあたり前ですが、医療関係者であっても小児科関係者以外になると知識は怪しくなります。とくに例外事態への対応は容易ではありません。ましてや新米ママさんになると、読んでも頭が痛くなるだけだと思っています。せめて3種同時接種がポピュラーになってくれれば良いのですが、とりあえずHibの供給が非常に不安定です。

メーカー筋の話なら徐々に改善して、早ければ来年度中にも「普通に発注できる」状態になるかもしれないなんて話をしてくれていましたが、どうなる事やらです。せめて噂の不活化ポリオワクチンがDPTに加えられて4種混合として承認されれば、問題は少しは解決に前進するのですが、この話も随分前に聞いていますが、どこまで進んだのかがよくわかりません。

肺炎球菌ワクチンを接種スケジュールにどう組み込んでいかれるか。とくに小児科関係者の方の意見を聞かせてもらえれば仕事の参考になります。神戸のローカル事情が絡んでいる面もありますが、よろしくお願いします。