ワクチン難民の予想を立てときます

9月には待望のIPV導入が確実視されています。OPVからIPVに変更されるのは総論としては賛成なんですが、各論と言うか現場論としては非常に懸念しております。理由は単純で、

これに尽きます。近年になって次々とワクチンが承認されたのは喜ばしい事です。一方で接種するワクチン数が増えた分だけ小児科医療機関の負担は確実に増えています。なんのかんのと言っても、ワクチンは「小児科医が子供に接種する」だからです。増えた分だけ手間も時間も必然的に増えます。1人の接種に当たる手順はおおまかに、
  1. まず診察する
  2. 接種可能と判断したら看護師なりがワクチンをセットアップにかかる
  3. 必要な注意事項を話す
  4. 接種
これ以外に、前回接種との間隔の確認、ワクチン接種スケジュール全体の確認、問診表に書かれている懸念事項の確認は必要です。これらは接種ワクチンの種類、本数が増えるほど単純に積み重なります。でもって小児科医療機関の応需能力ですが、地域差はありますがHib承認前とさほど変わりはありません。さらに言えば、Hib以前のさらに日本脳炎も中止されていた時代とさほど変わりはありません。種類、本数が増えた分の増加はないと考えてよいかと思います。少なくとも当院の近隣ではそうです。

今でも正直なところ目一杯です。当院でもどうしようもなくなって、バラ打ち接種希望者は原則としてお断りにさせて頂いています。そうでもしないと希望者に応需できないからです。そこまでしてもまだ希望者が溢れます。これが現状です。

あえて付け加えておくと、小児科医療機関と言ってもワクチンに対する姿勢は様々で、積極的に接種する方針のところもあれば、あくまでも「ついで」のところもあります。ここも妙な誤解を招いたら困りますから説明を加えますが、「ついで」のところが悪いわけでも何でもなく、「ついで」のところはワクチン以外の一般患者が多く、ワクチンまで手が回らないところが殆んどです。1人でやれば一般患者であろうとワクチンであろうと人数と時間は自ずと上限があるです。


IPV導入は9月とされ、さらにDPT-IPVの導入が11月に予定されているようです。この時期に何があるかと考えるだけで私も職員も戦慄しています。10月からインフルンザ接種が始まるです。例年より厳しくなる要因として、

  1. IPV待望者が9月なれば押し寄せるだろう
  2. 例年は秋の集団OPV時にDPT、Hib、PCV7の接種希望者が自然に減っていたのがフラットになる
インフルエンザ接種の時期は毎年大変なのですが、その上に上記の条件が加わるわけです。当然のようにパンクが誰でも予想できます。「どうしよう」の話題は今から出ているのですが、当院の応需能力の拡張なんてノビシロが微々たる物ですから、大した対策が出てくるわけでなく「人数制限で対応」ぐらいしか思いつきません。限界を越える応需を続ける事は事故の元です。

こういう状況は当院だけのものではなく、どこの小児科医療機関でも似たり寄ったりにならざるを得ませんから、どことも人数制限になればワクチンからあぶれる人数は必然として増加し、今どきの表現なら「ワクチン難民」が発生するだろうです。例年のインフルエンザ接種だけでもプチ難民は発生しますからね。


もう一つはワクチン誤接種の問題です。接種前にワクチンを確認するのは初歩の初歩なんですが、これが言うほど容易ではありません。年齢制限、接種量、前回との間隔、他のワクチンとの間隔、兄弟姉妹で違うワクチンを接種する時の対応。大暴れする子どもを押さえ込む作業に必死になると、確認したつもりでも思い込みの間違いが生じる余地が出てきます。

今回のIPV及びDPT-IPV導入はさらに問題を複雑にします。IPVはソーク株、DPT-IPVはセービン株のため分けて扱う必要があります。簡単にはDPT-IPVを接種した者にはIPVは接種できないです。そこに従来のDPT接種も加わるわけです。噂ではソーク株のDPT-IPVも承認が近いなんて話(今秋にはさすがに無理とは予想しております)もあり、そうなると確認作業が余計に煩雑になります。とくに他院で接種を行って中途で変更された者になると、余計に注意が必要です。

セービン株とソーク株の分離の話もある意味エエ加減で、OPV(セービン株)接種後の子どもにIPV(ソーク株)を接種するのは既定路線ですから、これもまた秋になってどうなるかは、「わからない」にさせて頂きます。わからないと言えば、ひょこっと解散総選挙になって、予防接種法の改正が遅れたりすれば、秋のIPV導入自体がよりドタバタになる可能性も有ります。

もちろん時間をかけて余裕を持って対処すればミスが減るのですが、前提は余裕どころか目一杯の上でどうするか状態です。ですから、これを懸念しなければウソになります。人間の注意力には限界があり、数や種類が増えるほどミスは一定の確率で不可避であると言う事です。いや増えれば増えるほどミスの確率はいやでも高まります。人間の疲労がこれに加わるからです。まだ神戸はBCGが集団接種ですから、これでもマシなのかもしれません。


世の中は「何故に言わなかった」の批判が後から必ず出ますから、現場からの懸念と予想としてこの時期に書いておきます。蓋を開ければ「案ずるより産むが易し」なんて事には・・・ならないだろうなぁ、どう考えても。