ワクチン問題は後遺症ステージに

DPT、Hib、PCV7の同時接種による死亡事件により起こった、Hib、PCV7の一時中止問題は、私も含めて関係者が様々な心配や懸念をしましたが、結局のところ4/1から、ほぼ従来の状態で接種再開となっています。私は小児科医として素直に「良かった」と感じていますが、やはり後遺症は出ています。

もちろん予想された範囲とは言えますが、あの騒動でHib、PCV7を接種しないと判断された方はわりとおられます。これはやむを得ないと思っています。「怖いから接種しない」の理由であるのは聞かなくてもわかりますし、そういう判断に対して面と向かっては何も言えないからです。

接種中止は現時点の判断として仕方が無いとして、もう一つの後遺症は現場的には深刻です。接種中止を判断された方はHibやPCV7自体が怖いとしたものですが、「同時接種が怖い」と判断された方がかなりの多数になっています。同時接種が怖いとなれば、引き続いて起こるのは単独接種(バラ打ち)が増えます。これがなかなかの負担となっています。

そもそもHibとPCV7の承認は小児科医にとって間違いなく朗報でしたが、一方で接種本数が増える問題があります。ごく単純には手間ヒマが増えたと言う事です。その増える手間ヒマを幾分でも緩和してくれていたのが同時接種です。

小児科開業医とて、無限に予防接種にかけられる時間があるわけでなく、限られた時間に接種できる人数には自ずと限りがあります。とくに予防接種専用時間帯を設定している小児科医には軽視できない問題です。簡単な算数で言うと、3本同時で10人(計30本)接種する時間と、1本づつ30人に接種する時間では相当な差があります。3倍とは言いませんが、2倍以上は軽く違ってきます。

これを儲け主義と批判する方もおられるかもしれませんが、うちで言えば希望者の方が多くて、希望に応えるのに四苦八苦みたいな状態に陥ります。これも理由があって、小児科開業医といえども必ずしも予防接種に熱心でないところが案外多いと言うのがあります。商売だけで言えば予防接種をやるより、一般診察を行った方が良いとも言えるからです。


これも実際に知って、ちょっと絶句しそうになったのですが、IPV接種問題があります。うちはまだ取り扱っていませんが、接種されている医療機関を探し出して接種されている方もおられます。それはそれで別に構わないのですが、IPVを接種してさらにHBV接種と言う方もおられました。これらをすべて単独で行うとの事でしたので、

  1. HB 3回
  2. IPV 4回
  3. DPT 3回
  4. Hib 3回
  5. PCV7 3回
え〜と、16回と言う事になります。もちろんこの上にBCGが加わりますから「ご苦労さん」としか感じようがありませんでした。そういう希望で接種されていますから、私がどうこう言える問題ではありません。「どうこう」と言えば、今回のワクチン問題で単独か同時かの選択をはっきり示す事も謳われていますから、怖いからバラ打ち希望とされれば、医療機関としても、それ以上は何も言えない事になります。


バラ打ちが一過性の現象で終るのか、それともある程度定着化するのかは現時点ではなんとも言えないところです。情勢は微妙に揺れ動いており、同時接種の方向に回帰しそうでもあり、バラ打ちに傾きそうでもあります。

個人的に懸念しているのは、ワクチン問題の時に厚労省サイドが何度か打ち出しかけた「単独原則」の提案です。これは専門家委員会が、かなりキッパリ打ち消してはいますが、厚労省の思惑がそちらにあれば、それなりに誘導する事は可能です。保健所あたりの指導にそっと含ませれば、バラ打ち定着化の懸念は残るところです。考え過ぎかもしれませんが、そういう見方もあり得るぐらいで出しておきます。


もう一つ違う方向の懸念はあります。どうやら今年度中、早ければ秋にもロタワクチンが承認される可能性があるようです。MRが宣伝に回ってきていましたから、もう既定路線になっていると見てよいでしょう。承認販売となれば、希望者には接種したいと思っていましたが、バラ打ちが定着すれば非常に難しくなります。

どうも説明に来たMRが頼りなくて、3回接種と言っていましたが、3回接種ならメルクのロタテックになるはずです。一方で日本で承認申請しているのはGSKのロタッリクスがあるのは確認できるのですが、ロタテックは確認する限りどこにも何も書いてありません。ロタリックスは2回接種です。ここで私の記憶が確かならば(チト怪しい)、説明に来たMRは旧万有(現MSD)のMRだったはずですから、メルクのロタテックも承認申請しているのかもしれません。情報をお持ちの方はよろしくお願いします。

ロタワクチンは生ワクチンであり、なおかつ生後6ヶ月までに3回投与だそうです。いちおう医療関係者以外の方への解説を加えておきますが、ロタワクチンは生ワクチンで接種後4週間の間隔が必要です。ほいじゃDPT、Hib、PCV7は何ワクチンかと言えば不活化ワクチンで、接種後1週間で他のワクチンが可能になります。

生後6ヶ月以内に接種が必要とされるワクチンには、BCGもありますがこれも生ワクチンになります。ついでに言えばTOPV(経口ポリオワクチン)も生ワクチンですから、この中にロタの生ワクチンが入れば、単独接種では他のワクチンの接種が出来なくなります。これはロタワクチンを接種すると考えればになり、DPT、Hib、PCV7を優先すれば、バラ打ちである限り接種は曲芸のようになります。つうか無理でしょう。

これも余計な解説ですが、HibとPCV7は生後2ヶ月から、DPTは3ヶ月からで、ロタワクチンも詳細は確認していませんが、やはり2ヶ月ぐらいからだと考えます。つうか、生後1ヶ月の時点から接種を開始するのは実際問題として難しそうに思います。


別にロタワクチン・メーカーの回し者ではありませんが、DPT・Hib・PCV7・ロタの同時接種を行えば導入可能とは胸算用していました。しかしバラ打ちが定着化すればロタワクチンは哀れなことに、接種できないワクチンになるかもしれません。もちろんDPT、Hib、PCV7をロタワクチンの接種が終ってから始めれば机上では可能ですが、それではHib、PCV7早期接種の意義がかなり下がってしまいます。

町医者がヤキモキしたところで、どうにもならないのですが、どうなるのか成り行きに注目しています。どうか杞憂に終わりますように。