高額医療費時代

ssd様のはしたがねが気になって、ちょっと調べて見ました。事件の概略は胃癌の検査見落としによる「訴えるぞ」ニュースです。故人の御冥福を祈ると共に、事実関係についてはさほど争う余地が無さそうなので、それは置いときます。ssd様がソースにしたのは7/5付TBS NEWSiで、

 土庫病院はこれまで「総額3300万円を賠償金として支払った」としていますが、家族は「それは治療費の一部だ」と主張していて、今後、病院を相手に提訴することにしています。

私も気になったのはこの3300万円です。まず3300万円がどれほどの期間の治療費になるかですが、TBSでははっきりしません。そこで7/5付読売新聞を参考にすると、

  1. 2010年2月、近医開業医で胃潰瘍と診断
  2. 2010年9月、土庫病院受診
  3. 2011年9月、胃癌発見
  4. 2012年7月3日、死亡
2010年9月の検査の時に見落としがあり、これは争いがないと報じられています。土庫病院での治療期間は最大で2010年9月から2012年7月までの1年10ヶ月程になります。この間の治療について読売は、

化学療法などを受けていた

化学療法を行うなどの入院治療が本格化したのは2011年9月以降の10ヶ月と考えるのが妥当かと思われます。それでも3300万円はチト高いんじゃないかと言ったところです。事件の舞台となったのは奈良県であり、奈良の医療ニュース、とくに医療訴訟がらみのニュースとなるとタブ紙に勝るところがありませんから7/4付記事(Yahoo!版)から治療内容をピックアップして見ます。

  • すぐに兵庫県内の病院で手術を受けたが、腹膜播種(はしゅ)(腹部の中にがん細胞が散らばった状態)が確認され、手がつけられず閉腹。
  • 同11月、セカンドオピニオンを得るために診断を受けた大阪市内の病院で、余命は「来年(12年)9月まで」と告げられた。
  • 家族で全国の病院を調べ、治療法を探した。行き当たったのは保険適用外の遺伝子治療など。東京の介護付き老人ホームに滞在して治療を受け、終わったら奈良の自宅へ戻る生活を続けた。

兵庫県の病院での開腹手術や、大阪市内でのセカンドオピニオンもそれなりに費用はかかったとは思いますが、どうやら一番費用を要したのは、

東京の介護付き老人ホームを拠点としながら、東京の保険外適用治療を受けていたと考えられそうです。遺伝子治療の「他」にも色々あるのが東京です。でもって実際にどれ程の費用が必要であったかですが、

メディア 3300万円に対する記事
TBS 家族は「それは治療費の一部だ」と主張
読売 遺族側は「一方的に支払いを打ち切られた」としている。


私の調べた範囲では3300万円について記載があるのはこの2つのみです。3300万円についてTBSは「賠償金」、読売は「損害賠償」としています。TBSも読売も文脈からして3300万円は遺族に支払われているのは確実そうです。注目したいのは読売で、
    一方的に支払いを打ち切られた
「打ち切られた」と言う事は、3300万円は一括で支払われたものではなく、継続的ないし断続的に支払われた事を示唆します。今回の様なケースの場合、病院側はその後の治療を負担することが多いのですが、とりあえず土庫病院での入院治療はさほど行っていないようです。手術は兵庫県ですし、セカンドオピニオンは大阪ですし、保険外治療は東京です。

そうなると可能性としてですが、患者への治療費の請求がそれぞれの医療機関からあるたびに、領収書なりを土庫病院に回してその費用を受け取っていたのかもしれません。その額が3300万円に達した時点で、病院からの支払いが「打ち切られた」と。さらに「打ち切られた」と言う事は、その後も治療費用が必要であり、

    それは治療費の一部だ
3300万円後も治療費が必要だった。つまり3300万円以上に治療費用がかかったと言う事です。「一部」と言う言葉に誇張がなければかなりの額になっている可能性もあるかもしれません。この期間は10ヶ月程であったのは読売が報じています。もう少し探してみると情報がありました。引用したタブ記事は

◇同意なく賠償打ち切り

こんな小見出しがありますが、それ以下の記事に「賠償打ち切り」の内容が皆無です。これはもともと「賠償打ち切り」の内容があったと考えるのが妥当で、差し替えがあったと見れます。探してみるとオリジナル版が直腸癌で人工肛門になった医者の日記「がん検診の意味」に保存されていました。オリジナルと改訂版は情緒的表現で色々違う部分はあるのですが、問題の3300万円の具体的な記載は、

 一方、ミスをした病院側は昨年10月14日、「損害賠償の内払い」として現金の支払いを始めたが、総額が3300万円となった今年5月14日に打ち切った。取材に対して病院は「無制限に支払うことはできない」としたうえで、同8日に「双方で代理人を立て、妥当な金額を決めていこうと石田さん本人と合意した」と打ち切った理由を説明。しかし、久美子さんは「夫も私も同意などしていない」と反論する。

これによると、

  • 201110月14日より支払いが始まった
  • 2012年5月14日に総額3300万になった時点で中断となった
7ヶ月間で3300万円になった時点で、病院側の賠償金支払い方針の変更があったようです。病院側が「双方で代理人を立て」とし、遺族は「同意などしていない」としてますから、友好的な提案ではなく、少々険悪な中での通告に近いものであったと考えてよさそうです。死亡は2012年7月3日ですから、5月分の支払いは4月分の治療費の請求に基づいたとも推測され、遺族側は5月分と6月分の治療費が病院から支払われておらず「治療費の一部」の表現が出てきたのかもしれません。

単純平均ですが7ヶ月で3300万円であれば1ヶ月平均470万円ぐらいになり、2ヶ月で約940万円の概算は一応可能です。そうなると治療費の総額は4000万円を越えている可能性も出てきます。



この話を調べて思い出したのはスノー報道官の辞任報道です。スノー氏は当時のブッシュ政権の報道官でしたが、2007年3月に癌が再発し、2007年8月に辞任されています。治療費が支払えないと言うのが公式の理由で、当時の報道官の年俸は16万8000ドル(これも当時で約2000万円)と報道されています。

スノー氏の場合は報道官になったがためにコラムニストやコメンテーターの仕事が出来なくなり、2000万円貰っても収入がかなりダウンであったとされていますが、それでも2000万円です。アメリカの医療も凄いと思っていましたが、10ヶ月ほどで3300万円では足りない程の医療費が必要になるとは、日本もかなり追いついてきているのかもしれません。最後にもう一度故人の御冥福を謹んで祈ります。