今日は奈良大淀病院事件判決が出ます

今日判決が出ます。去年一昨年の福島大野病院事件も注目の裁判でしたが、この裁判も民事とは言え注目度は福島に匹敵するものがあります。福島も裁判の傍聴記録は素早く公開され多くの医師がその内容を詳細に検討しました。奈良も有志が熱心に傍聴記録を公開され、これもまた多くの医師がその内容を詳細に検討しています。

検討の結果は福島同様、奈良でも被告産科医が責任を負うべきことは無いとなっています。亡くなられた妊婦の御冥福は謹んでお祈りしますが、当時の大淀病院及び奈良の医療事情から救命は不可能と判断しています。それぐらいの病魔が突然襲いかかったとしか表現のしようがありません。医療はかつて治療不能の難病とされた疾患を治療可能にしたものはありますが、すべての疾患を治癒させるレベルには遥かなる距離があると言う事です。


裁判の内容についてはこれまで何度も取り上げてきましたので、今日は大雑把にのみ触れておきます。民事訴訟の構造の基本は、

    被告の過失(注意責任義務違反)→ 因果関係 → 結果
これを原告が立証する必要があります。つまり被告の過失を指摘し、その過失が結果と因果関係がある事を示す事です。過失と因果関係の違いがわかりにくいかもしれませんが、過失があっても因果関係は無いことがあります。つまりその過失があっても、無くても結果に影響しないのであれば因果関係が成立せず、賠償も成立しないと言う事です。

非常に単純化している点は目を瞑って頂くとして、原告はまず被告の過失を立証しなければなりません。過失が無ければ、因果関係まで話が進まないからです。過失の立証の次は因果関係の立証です。つまりその過失が無ければ結果が変っていたとの立証です。

具体的にこの裁判であてはめると、まず入口論(過失の前提の誤診)が天王山になっています。皆様よく御存知の通り、

    原告:脳内出血
    被告:子癇
原告は最初から脳内出血であると主張し、被告側は子癇からその後に起こった脳内出血としています。これを裁判所がどう判断するかは注目されるところです。仮に子癇であると判断されたら原告側は過失の立証にさえ進めなくなります。ここがどれだけ天王山かと言うと、原告側の過失の主張である「即座にCT」は脳内出血であるから必要であり、子癇であればCTは行なわずひたすら安静が原則になります。

つまり原告側は裁判所から最初から脳内出血であるとの判断を勝ち取らないと、この入口論の時点で裁判自体が終わってしまう可能性さえあると言う事です。


入口論で原告側の主張が通ったらようやく被告の具体的な過失に話が進めるのですが、原告の過失の主張は最初の意識消失で脳内出血と診断し、即座にCTを撮らなかったことです。その時点でそこまでの判断を行なわなければならなかった事が過失かどうかも当然争われる事になります。ここも脳内出血の可能性を考えたとしても即座にではなく、30分なり1時間の経過観察の妥当性を裁判所が判断すれば、後述する原告側の因果関係の主張が成立しなくなります。


脳内出血と即座にCTで裁判所の判断を原告側が勝ち取っても、今度は因果関係があります。つまり即座にCTを撮れば妊婦は救命できたかです。原告側の主張が変わっていなければ0時に脳内出血を起こした妊婦を3時までに手術するです。これは、その間に起動まで30〜40分が必要なCT撮影があります。つまり深夜に2時間ほどで手術できる病院を探しだし、探しただけでなく搬送し、開頭して減圧まで進んでいる事が必要になります。

原告の因果関係の主張は、胎児の事を考慮せず、妊婦の手術だけを考えれば手術可能な病院はあったになっています。これは緊急時には母体優先の原則に則ったものとは考えますが、私の知る限り、開頭された妊婦を次にどうするかの説明はなかったように思います。分娩は陣痛まで発来していますから、胎児をあきらめるにしても、胎児を早期に何とかする必要があります。

つまり産婦人科のいない脳外科病院で仮に手術を行なえたとしても、手術後の妊婦を再び胎児娩出のために「どこか」のそれができる医療機関に再搬送するリスクが生じます。ましてや手術後でもまだ胎児が生きていたとすれば、今度こそ胎児の救命も考え、手術後の妊婦の救命も出来うる医療施設を探し出し搬送する必要があります。分娩後に子どもが生きていたら、これを故意に死亡させる事は出来ないからです。

そもそも産婦人科も無い脳外科病院が、そんな困難な症例の手術を即座に引き受けるかの問題もありますし、引き受けたとしても原告が主張するタイムスケジュールで治療できるかとなれば、日本中の医師が強い疑問を抱いています。個人的にはマンガやテレビドラマでも思いつかないような奇跡の治療を因果関係として主張しているように感じます。


原告は子癇・脳内出血の認定に勝ち、即座にCTの過失認定に勝った上で、さらに曲芸のような因果関係を裁判所に認定されて初めて勝利します。もちろんなんですが、今日私が考えたような思考で裁判官が判断すかどうかは誰にもわかりませんし、全然違う角度から事実関係を判断されるかもしれません。なんと言っても訴訟の結果は水物ですから、今朝の段階ではただ待つしかありません。


天必灰支邦中凶様

この訴訟は色んな意味で注目度の高いもので、余計な言葉尻を取られる危険性が常にあります。申し訳ありませんが、コメントを削除とさせて頂きます。これはアク禁を意味するものではありませんので、そこのところは誤解無いようにお願いします。また皆様におかれましても、コメントから新たなネタを探したいと考えている方がおられるのはよくご承知かと思いますので、くれぐれもご注意をお願いしたいと存じます。

卵の名無し様

同上です。