しつこいけど10mlバイアル

「またか!」と言われるのは確実ですが、今日のはかなり推測と推理が入っていますから、推理ドラマ風です。まず長妻答弁をもう一度確認します。

ところがそのうち1社については、1ミリリットルの容器で新型のワクチンを作るとすると季節性インフルエンザワクチンの製造を中止しなければいけないという話

「そのうち1社」の特定するには、ワクチン生産の前提条件が問題なのですが、確実に言える事は、

    「そのうち1社」は新型10mlバイアルを作っている
後は推理になるのですが、新型1mlを作るなら季節性を製造中止にしなければならないとしていますから、新型1mlバイアルを作っているメーカーは「そのうち1社」に該当しない可能性があるとも考えます。ここは1mlと10mlの並行生産のバランスではないかの話も出てきますが、一つの仮説です。もう一つ傍証で木村氏のブログでは9/25に長妻大臣が10mlの正式承認をした様子として、

電話でお話しした時、「打ち合わせが終わった後にもう一度尾身さんから、10mlバイアルはもう製造が始まっているから変えられないと釘を刺された」とおっしゃっていたと記憶しています。

これは9/25頃のお話ですから、10mlバイアル製造は長妻大臣が事後承認した物である事を指し示す一つの証拠になります。木村氏の話の信憑性の問題はありますが、10/9に新型ワクチンの第1回出荷が始まっています。舛添前大臣は在任中に10mlバイアルの製造を認可しなかったと参議院予算委員会で明らかにしていますし、それに対して長妻大臣も鳩山総理も民主政権下で決定したと答弁しております。

鳩山政権が始まったのは9/16であり、即座に10ml製造を承認したとしても10/9の出荷に間に合うかと言えば正直なところ疑問です。9/16スタートで10ml瓶の大量調達、10ml瓶詰めラインの稼動(他のワクチンで10mlバイアルは存在しない)準備を行ない、10/9に2万2498本の10mlバイアルを出荷するのは非常に困難であると考えられるからです。細かい話ですがラベルやキャップ、添付文書、パッケージの調達も必要です。

つまり「そのうち1社」は大臣の認可前に10mlバイアルを既に製造しており、今さら中止になると、季節性ではなく新型ワクチンの製造を1mlに転換するのに時間がかかるとの理由を粉飾して医系技官が長妻大臣に説明した解釈するのが妥当と考えます。この推理を裏付ける証拠が第1回から第3回までの各メーカーの出荷の内容です。

メーカー バイアル 第1回出荷 第2回出荷 第3回出荷 合計
化血研 1ml 0本 0本 0本 0本
10ml 2万5000本 5万628本 10万2950本 17万8608本
北里 1ml 9万3782本 0本 0本 9万3782本
10ml 0本 0本 0本 0本
デンカ 1ml 27万1218本 8万2561本 27万本 62万3779本
10ml 0本 0本 0本 0本
微研 1ml 0本 1万3700本 56万本 57万3700本
10ml 0本 0本 0本 0本


読めばおわかりのように10mlバイアルを製造したのは化血研のみであり、さらに化血研は1mlバイアルを1本も出荷していません。また他の3社は10mlバイアルを1本も出荷していません。この事実から照らし合わせると、長妻大臣承認前に10mlバイアルを製造していたのは化血研であり、長妻答弁の「そのうち1社」も厚生労働省医薬食品局所管の公益法人である化血研であると特定しても良いと考えます。



厚労大臣承認前に医系技官が10mlバイアル密造を指導した理由は様々に取り沙汰されていますが、今日はそこは置いておきます。そこでなくてどういう手続きで事後承認を取り付けたかを考えて見ます。11/6付ロハス・メディカル「「10mlバイアル認めたのは前政権」−舛添前厚労相質問に、足立政務官」に、

10ミリリットルのバイアルを作って、そのことによって接種する人が増えるんではないかという検討は、8月31日と9月2日に開催された専門家の意見交換会で出てきたことでございます。そして、その意見の内容を厚生労働省としてまとめ、パブリックコメントを9月6日から13日まで行いました。そのパブリックコメントの中に、『可能な限り10ミリリットルバイアルによる効率的な接種を行う計画を策定し』と書かれております。ご案内のように、パブリックコメントの時期、これは前政権下でございます。

ここに日付があるので他の情報も含めてまとめてみます。

日付 事柄
8/30 総選挙投票
8/31 専門家会議
9/2 専門家会議
9/6 パブコメ募集開始
9/13 パブコメ募集終了
9/16 長妻大臣就任
9/18 10mlを含めた新型ワクチン生産計画が出来上がる
9/25 長妻大臣10ml生産を承認


10mlバイアル製造の噂はSeisan様からかなり前から寄せられていました。Seisan様がどの筋から聞かれたのはわかりませんが、新型ワクチン生産が始まった相当初期の段階からありました。しかし10mlバイアルの話が表に出てきたのは9/6のパブコメが初めてではないでしょうか。このパブコメは足立政務官の記者会見によれば、8/31と9/2の専門家会議の結果を踏まえて作成され、パブコメ内に
    『可能な限り10ミリリットルバイアルによる効率的な接種を行う計画を策定し』
この言葉が盛り込まれる事になります。このパブコメが舛添前大臣の任期中に出された事をもって、足立政務官は10mlバイアル承認は前政権の産物としていますが、事後承認の動きは総選挙後に動き出したと見ても良いと考えます。

それ以前の時期まで考えるとさらに興味深いのですが、8/30の総選挙前には7/15に都議選もあり、舛添前大臣は猛烈に多忙であったのは周知の通りです。政治的には総選挙前に舛添氏を総裁に担ぐ動きまであり、自民の人気者として各地の応援演説に引っ張り凧状態で、文字通り東奔西走状態です。時期的に新型インフルエンザの感染も小康状態でしたし、厚労大臣としてではなく、政治家として舛添氏は主に活動していたと推測できます。

厚労省の仕事がどうしてもお留守状態になったのを利用して、医系技官は水面下の工作を進めたとしても不思議ありません。8/30の総選挙の結果は御存知の通りですが、いかに舛添氏と言えども茫然状態になったとしても不思議ありません。茫然状態は失礼としても日本では異例の完全な政権交代ですから、どうやって次期政権に業務を引き継ぐかの作業に関心が傾いたとしてもよいと考えられます。

とりあえず外野からでもわかるのは、

  1. どうしても「今」決定しない課題以外は新政権に先送りする
  2. 新たな方針決定等は行なわない
10mlバイアル問題も当然ですが、総選挙の結果を受けてレイムダック状態で決める事項ではないと考えられます。舛添氏は10mlには反対と明言しているわけですから、総選挙後にわざわざその方針を転換する理由も見当りません。この辺りは新政権への「贈り物」みたいな陰謀説も成立する余地はありますが、あえて予算委員会の質問の主軸に据えたことで否定的な感触を持っています。

2回に渡る専門家会議で10ml問題がどう扱われたかなんて知る由もありませんし、舛添前大臣が臨席したかも不明です。ロハスでは

ただ、当時の厚労相周辺に話を聞くと、「医系技官から舛添大臣へのレクで10ミリバイアルの話はあったが、『国産ワクチンをどうすれば増やせるか』というベースで話をする中で、『10ミリバイアルという方法もあります』といった"ついで"程度の話があったぐらいで、まさか本当にそうするとは思えない雰囲気だった。もちろん大臣も認めたりしていないが、パブリックコメントを見たら10ミリバイアルについて書かれていて驚いた。パブコメにそんなことが書かれているとは大臣も当然知らないことで、医系技官が勝手にこっそりやってしまった」と、政権交代という"エアポケット"の時期に、厚労省の医系技官が進めた事だとしている。

この話も信憑性の問題がついて回りますが、医系技官が舛添前大臣に説明したのは「10ml導入決定」みたいなニュアンスではなく、「10mlも検討の余地に残す」であったと考えます。舛添氏は10mlに反対であったようですが、新政権に10ml却下の決定を総選挙後の状態で申し送るのは控えたと推測します。

医系技官サイドは「検討の余地を残す」を最大限に活用し、事実上の承認として暗躍したと私は考えます。長妻大臣就任後にはさらにこれが脚色されて説明されたと私は推測します。例えば、

    10mlバイアル製造は前大臣の時に既に了解を取り付けてあります。またその了解の上で生産準備をメーカーは整えています。とくに化血研は今から1ml体制に変換すると、季節性ワクチンの製造まで中止せざるを得なくなります。
上述したように「おそらく」医系技官は長妻大臣には季節性ワクチンへの影響と説明したと思われますが、実際は新型1mlへの製造影響が真相と考えられます。そこまで医系技官が長妻大臣に説明したかどうかは不明ですが、長妻大臣が判断する時点では、化血研の10mlバイアルを事後承認しないと新型ワクチン接種はさらにスケジュールが大幅に遅れる事態に作り上げられていたと考えられます。

もっとも医系技官の政務三役への工作は上々の様子で、足立政務官もこれもロハスからですが、

その質問の中で、前政権では認めていなかったのに、政権が代わって認められたという内容の質問がありましたので、そこは事実と認識が違うということがありましたから、その点だけ最初に申し上げます。

もう一度御注意しておきますが、今日のお話は曖昧な根拠のソースも含めた状況証拠からの推理ドラマに過ぎません。この推理を裏付けるための資料等についても「たぶん」隠蔽工作や粉飾工作が十分に施され、余ほどの事がない限り真相は不明のままになると考えています。