1/f ゆらぎみたいなお話

資料に当たる時間と心の余裕が無くなっていますので雑談です。「1/f ゆらぎ」と言われるものがあります。簡単にwikipediaから紹介しますが、

1/fゆらぎ (エフぶんのいち - ) とは、パワー(スペクトル密度)が周波数fに反比例するゆらぎのこと。ピンクノイズとも呼ばれ、あらゆる物理現象、生物現象、経済現象に現れる。具体的には人の心拍の間隔や、ろうそくの炎の揺れ方、電車の揺れ、小川のせせらぐ音、アルファ波、目の動き方、木漏れ日、物性的には金属の抵抗、ネットワーク情報流、蛍の光り方など。その発生機構や効果は研究途上にある。

少〜し前に、それなりにもてはやされたものと記憶しています。現在の扱いとか研究とかがどうなっているかは全然知らないのですが、実生活でほんの少しだけ実感した気がするので、それにまつわる雑談です。

現在の本業は季節性ワクチン接種の津波と、新型インフルエンザの流行の影響で正直なところ忙しくなっています。ところが同じように忙しい日でも、わりとリズム良く乗り切って「明日も頑張るぞ」で終われる日もあれば、疲労困憊でヘタリ込む日もあります。これは様々な要因があり、なぜかの単純な説明は出来ません。

ありきたりの理由を並べると、週の後半の方がへばる、自分自身及びスタッフのバイオリズムの調和・不調和、その日の患者の手のかかり方・・・その日、その日によって事情はもちろん異なるのですが、感性的に大雑把に言えば「リズムに乗れる」か否かが大きな部分を占めそうに思っています。

リズムに乗れるかどうかも複雑で、最初からハイテンションで押し切れる時もあれば、途中から息切れしたり、逆に途中からリズムに乗るときもあります。まあ、最初から最後までリズムに乗り切れない時は、仕事中も苦痛の塊ですし、終わってもまさに疲労困憊状態で、物を言うのも億劫になります。

ではでは、どうやったらリズムに乗れるかどうかが問題になります。この謎を解き明かしたら、毎日快調に本業に勤しむ事が出来ます。もちろん解き明かしていないから、毎日出たとこ勝負で過ごしているのですが、最近感じているのが「1/fのゆらぎ」です。診察ペースが「1/fのゆらぎ」で進む時には容易にリズムに乗り、そうでない時はゴツゴツとリズムに乗れないのではないかと考え出しています。


医療に限らず多くの職業は、パターン化された手順の上に成立しています。パターン化された定型手順を覚えこむ間が修行とか勉強期間であり、一人前になるとは必要な定型手順を覚え、さらに自在に駆使できるようになることだと考えます。駆使できるとは定型手順を状況に応じて臨機応変に繰り出す事が出来るようになることであり、応用と言ってもその殆んどが定型手順の組み合わせが上手に瞬時に出来るかではないかと思います。

ある仕事にかかる手間や時間を人間は瞬時に概算できます。これは仕事の内容を見れば、使う必要のある定型手順とその組み合わせが直感的にわかり、それぞれの定型手順に必要な時間が割り出せるからです。

さて、その定型手順ですが、これも常に寸分違わず同じではありません。それぞれの状況に応じた適用が必要なんですが、それでも基本的に必要な手間は通常の一定の範囲に収まると思い込んでいます。思い込んでいるというのは重要な点で、実際の仕事は定型手順のパーツを順に踏んで完結しますし、さらにもっと広い全体の仕事(外来ならその日の診察数)を終わらせる時間計算にも影響します。

とは言うものの、人間相手の仕事ですから、そうは計算通りに事は運びません。同じ説明をしても、すらっと通り抜けれる時と、そうでない時が当然のように出てきます。ただしなんですが、全部がすらっと通り抜けられたら良しかと言えば必ずしもそうとは言い切れないような気がしています。

あまりにもスラスラと行くと、今度は仕事があまりにも機械的になってしまいます。型に嵌りすぎて、ロボットのような状態になり、これはこれでリズムに乗りにくいと考えています。もちろん全員に悪戦苦闘したら論外で、そんな状態になれば仕事がパンクします。

基本として定型手順を時間通りにこなす事が重要ではありますが、個々の患者である程度の手間の揺らぎがあった方がリズムに乗りやすそうな感じがしています。この手間の幅もトンでもなく大変なのは論外で、ある一定の幅の中で収まる時が一番リズムに乗りやすそうな気がしてならないのです。変な話ですが、ちょっと手間のかかる患者の後に、スラスラと仕事が流れれば、そこに快さを感じてリズムに乗りやすいと言えばよいのでしょうか。

そういう事を考えているときに頭に浮かんだのが「1/fのゆらぎ」です。機械的単調さも人間は耐え難いですし、毎回毎回ゴタゴタと進むのはもっと耐え難いと考えています。基本は平穏であっても、ある程度の波がある方がリズムに乗りやすそうな気がします。

もう少し実際的に言えば、手間のかかる患者にいかに手際よく説明を行なうかに集中力を傾け、逆にスラスラと事が運ぶ患者には、そんなにスラスラで見落としはないかと注意力を働かせるという適度の刺激がテンションを高め、高まったテンションがリズムを呼ぶと言う見方です。ただし手間の幅は仕事全体で見て「1/f」の範囲で収まる事が重要で、これを越すとかなりの苦痛になります。

さらに考えを進めれば、患者は千差万別です。医師の注文通りに「1/fのゆらぎ」の範囲におさまってくれるものではありません。そこで熟達の医師は範囲に収まらない患者を、範囲に収めるテクニックと言うかメソドを多数用意しているのだと考えています。これは忙しい外来を多数経験しないと身につきませんし、覚える事もできません。

まだまだ私も修行が足りないようです。何を考えても外来が始まれば、終わるまでは続きます。今日は一体どんな日になることやら・・・。