マッチングの募集定員

厚労省HPに研修医マッチングの結果についてがあるので少し分析してみます。いろんな見方があると思うのですが、10/30付タブロイド紙からあえてこの部分を引用したいと思います。

厚労省は、来春から人口規模に応じた都道府県別の募集定員を設けるなどした。

ここの「来春」が平成21年度であり、募集定員を人口規模に応じたものに「是正」したとの事です。どれぐらい是正されたかを検証してみます。都道府県別マッチ結果から、募集定員の総数と各都道府県の募集定員はわかります。募集定員の総数と各都道府県の募集数は平成20年度と平成21年度のデータがありますから、これからどのように是正されたかも判明します。

都道府県の人口比による「適正募集定員」は、

    適正募集定員 = 募集定員の総数 × 各都道府県人口/日本の人口
これにより算出されます。適正募集定員数に対する各都道府県の募集数の充足率は、
    充足率 = 実際の募集定員数 / 適正募集定員数 × 100
これが100%未満であるなら不足している事になり、100%を越えると過剰な募集定員になることになります。是正の状態は平成20年度と平成21年度の実際の募集定員が「適正募集定員」にどれだけ近づいたかで評価し、これをここでは「是正率」と言う表現にします。例えば平成20年度に90%だったのが、平成21年度に105%になれば「5%の是正」です。長いですが一覧表を示します。

都道府県 平成21年 平成20年 人口比への
是正率
実際
(人)
人口比
(人)
実際/人口比
(%)
実際/人口比
北海道 425 462.5 91.9 98.7 -6.8
青森 127 118.1 107.5 89.8 2.7
岩手 115 113.8 101.0 91.5 7.5
宮城 156 194.0 80.4 91.6 -11.1
秋田 124 94.1 131.8 128.5 -3.3
山形 122 99.9 122.1 102.3 -19.7
福島 144 171.9 83.8 77.9 5.9
茨城 178 244.5 72.8 66.6 6.2
栃木 184 165.7 111.1 96.5 -7.6
群馬 121 166.3 72.7 78.8 -6.1
埼玉 379 579.7 65.4 49.1 16.3
千葉 371 497.7 74.5 74.7 -0.2
東京 1468 1033.2 142.1 135.9 -6.2
神奈川 669 722.4 92.6 96.5 -3.9
新潟 180 199.8 90.1 70.7 19.4
富山 103 91.4 112.7 103.8 -8.9
石川 166 96.5 172.0 126.2 -48.5
福井 98 67.6 145.1 111.5 -33.6
山梨 107 72.7 147.1 113.8 -33.3
長野 150 180.5 83.1 105.1 -11.8
岐阜 138 173.2 79.7 91.3 -11.6
静岡 233 311.7 74.8 81.8 -7.0
愛知 579 596.2 97.1 108.7 5.8
三重 126 153.4 82.1 93.3 -11.2
滋賀 101 113.4 89.1 88.5 0.5
京都 289 217.6 132.8 148.3 15.5
大阪 679 724.6 93.7 104.1 -2.2
兵庫 384 459.4 83.6 84.4 -0.8
奈良 97 116.8 83.1 102.7 -14.2
和歌山 95 85.1 111.6 113.6 2.0
鳥取 68 49.9 136.3 124.9 -11.4
島根 100 61.0 164.0 144.9 -19.1
岡山 199 160.8 123.7 131.2 7.5
広島 182 236.5 77.0 88.9 -11.9
山口 111 122.7 90.5 99.3 -8.8
徳島 90 66.6 135.2 115.9 -19.3
香川 98 83.2 117.8 106.2 -11.6
愛媛 113 120.7 93.7 96.3 -2.7
高知 90 65.4 137.6 116.6 -21.0
福岡 505 415.0 121.7 129.1 7.4
佐賀 80 71.2 112.4 100.6 -11.8
長崎 139 121.6 114.4 114.7 0.4
熊本 120 151.4 79.3 94.6 -15.3
大分 106 99.4 106.6 102.9 -3.7
宮崎 75 94.8 79.1 68.7 10.5
鹿児島 162 142.6 113.6 86.7 -0.3
沖縄 154 111.9 137.7 145.5 7.8


人口比への是正率で赤字のところが悪化した都道府県であり、黒字のところが良化したところです。こうやって見ると、人口比でもっとも医師が少ない埼玉は、募集定員でも全国でもダントツの少なさ(平成20年度で49.1%)である事がわかり、医師が少ない原因の一つである様な気がします。都道府県数でまとめると、
    良化した都道府県:15ヶ所
    悪化した都道府県:32ヶ所
数の上では悪化した都道府県が2倍以上ある事が確認できます。ここでご注意なんですが、募集総数は平成20年度の1万1292名から平成21年度は1万500名に減っています。そのために東京がわかりやすいのですが、

平成20年度 平成21年度
募集定員 1510名 1468名
人口比適正数 1111.1名 1033.2名
定員/適正数 135.9% 142.1%


東京は平成20年度より実数で募集定員が42名減っていますが、総定数からの比率で言えば逆に増えている事になり、人口規模での是正と言う観点からは悪化したところになります。こういう計算で悪化と良化の上位10都道府県を抜き出すと、

良化したところ 悪化したところ
新潟 19.4% 石川 -45.8%
京都 15.5% 福井 -33.6%
宮崎 10.5% 山梨 -33.3%
沖縄 7.8% 高知 -21.0%
岩手 7.5% 山形 -19.7%
岡山 7.5% 徳島 -19.3%
福岡 7.4% 島根 -19.1%
茨城 6.2% 熊本 -15.3%
福島 5.9% 奈良 -14.2%
愛知 5.8% 広島 -11.2%


上位だけではなく全都道府県の一覧表を示すと、
説明するまでもないですが、人口規模に対する是正が悪化した都道府県が多い事がわかります。くどいようですが、これをマップにして示してみます。マップの色分けは単純で、悪化したところが赤色、そうでないところが白色です。
たしか厚労省は目標として募集定員を極力研修希望者数に近づける政策を推進していたかと思います。平成21年度の募集総数が792名減ったのもその一環と見なしてよいはずです。指標としては財務省が前に提唱していた面積の要素も加味されるとは思いますが、どういう計算を行なっても人口比が大きな比重を占めると考えられます。

基本は大都市を含む都道府県の募集定員が多めになっているところを減らし、少なめになっている地方を増やすとの趣旨であったような記憶があります。研修医マッチングの結果についてにもこういう記載があります。

都市部の6都府県(東京都、神奈川県、愛知県、京都府大阪府、福岡県)

実際にこの6都府県がどうなったかです。ここでは是正率に加えて前年度からの増減を示します。


都道府県 募集定員実数 人口比による修正計算 前年度比
増減率
H.20 H.21 減少数 H.20 H.21 是正率
東京 1510名 1468名 -42名 135.9% 142.1% -6.2% +6.2%
神奈川 750名 669名 -81名 96.5% 92.6% -3.9% -3.9%
愛知 667名 579名 -88名 108.7% 97.1% 5.8% -11.6%
京都 347名 289名 -58名 148.3% 132.8% 15.5% -15.5%
大阪 811名 679名 -132名 104.1% 93.7% -2.2% -10.4%
福岡 576名 505名 -71名 129.1% 121.7% 7.4% -7.4%


東京以外は、実質的に軒並み減少している事がわかります。減少した結果、神奈川は平成20年度時点でも人口比以下だったのがさらに悪化し、愛知や大阪は人口比以下に減少しています。この辺は様々な読みがあるとは思いますが、私はあえてコメントしません。

私が懸念するのは厚労省の目的が

    募集定員 ≒ 希望者数
そのための是正指標が主に人口規模によるもののはずなのに、平成21年度の募集定員の変動は人口比の募集定員の偏在を悪化させている事です。現時点では「募集定員 > 希望者数」ですから影響がまだ少ないですが、このままの方針で固定していけば新たな偏在を生み出しそうな懸念を持ちます。もちろん平成21年度は手始めですから、あくまでも過渡期に「一時的」に起こった現象かも知れないとしておきます。