水際作戦を真面目に考えてみる

今回の水際作戦の評価は結果オーライ的な感じもしていますが、政府は高く評価しているとも聞き及んでいます。ただ医師の間では単なる幸運であっただけの見解も強いものがあります。この点は次と言うか強毒性のインフルエンザが蔓延したときの大きな判断材料で、政府も厚労省も甘い判断をしてもらいたくないところです。死亡率が30〜40%なんて弩級のインフルエンザへに対しての水際作戦として必要にして十分かと言うことです。

水際作戦自体が本当に有用かについては大きな疑問が投げかけられていますが、日本は島国ですから机上の案としては可能です。入国するには船か飛行機を使う必要がありますから、そこで迎え撃てば理論上は可能です。船の話は今日は置いておいて、飛行機の問題を考えて見ます。

飛行機の乗り入れ自体をシャットアウトするのもありですが、それはしないとします。そうなれば搭乗者のチェックになります。ただしアンケート用紙を片手に検疫官が走り回る今回の体制ではザルです。可能な限りの完璧を期すなら搭乗者全員の一律対策が必要です。どうすれば良いかと言うと搭乗者を根こそぎ全員隔離してしまう事です。期間は今回の例に従うと10日間です。

具体的には空港に隣接して隔離施設を建設します。そこに専用の動線を作り、搭乗者を全員そこに収容し10日間の隔離を行ないます。こうすれば理論上は完璧に近い水際作戦が行なえます。問題はどの程度の隔離施設が必要かになります。成田の国際便の旅客数は月に300万人ほどのようです。そうなれば1日あたり10万人程度と言う事になりますが、世界は強毒性のインフルエンザが蔓延していますから、旅客数は減るとは思います。

減ってどれぐらいになるかの予測がわからないのですが、それでも仮に対象者が1万人いるとします。1万人が10日間収容されるわけですから10万人収容の隔離施設が必要で、それも原則として個室になります。理想的には陰圧換気が必要ですし、シャワーやトイレは個室に付けるとしても、食事も大食堂方式は取れません。やはり各部屋で取ってもらう必要があります。

ただ10万人収容の巨大隔離施設は物凄いものがあります。空港隣接ですから、高層ビルにするわけにはいかないので、中低層である必要があります。中低層になると水平の移動距離が長くなります。収容者は食事も取りますし、日本人以外も多数含まれますから、ある程度の対応が必要です。子供も老人も含まれるでしょうから、これの配慮も欠かせません。

10万人の食事を賄う厨房にはどれだけの規模と人数が必要なのか、いや収容者だけではなく勤務する職員の食事も必要です。10万人の巨大隔離施設を運用するスタッフはやはり数万人になると考えられます。食事だけではなく洗濯も必要ですし、部屋の掃除も必要です。こうなれば一つの都市を作り上げるのと同じ手間がいります。色んな事情から脱走を試みる人も出てくるでしょうから、隔離施設の周囲はそれなりの警備体制も必要でしょう。

考えようによっては、そこまで作るなら医療施設もそこで完結した方が理想的です。隔離施設から移動するほうが感染をばら撒く危険性があるからです。またインフルエンザ以外でも10万人もいれば、それ以外の病気の治療も必要になるでしょうし、場合によっては分娩もありえます。もちろんインフルエンザが発症した時点で、隔離施設内にある病院で入院治療する段取りです。

では医療施設はどの程度のものが必要かになります。病院は全部個室で陰圧換気は必須ですが、必要病床数がいくらかになります。1%が発症するとして1000人分の収容能力が必要です。その他で入院が必要になる患者も出現するでしょうか、やはり1000床規模はあった方が良いでしょう。1000床規模の病院に必要なスタッフは・・・ちょっと私には概算できません。

ちょっとまとめると、より完璧な水際作戦のためには、

  1. 10万人収容の空港隣接の巨大隔離施設の建設
  2. 10万人の収容者の日常生活をお世話するためのスタッフの確保
  3. 1000床規模の附属病院及び検査施設及びスタッフの確保
簡単に言えば成田空港に隣接して20万人クラスの都市が一つ建設される寸法になります。収容者は隔離されて移動の自由はありませんが、勤務する職員は警備員なども含めるとやはり10万人クラスになりますから、ちょっとした都市です。

予算はどれほど必要なんでしょうか。用地取得、施設の建設費、収容者への食事等の支給、もちろん職員の給与、防疫のために費やされる資材などなどです。私の貧乏臭い頭では「巨額」ぐらいしか思い浮かびません。

ただ考えようによっては、そこまですれば水際でほぼ防止できます。そこにさえ費用をかければ国内は平穏を保つ事が出来るかもしれません。そう考えると経済効果が生み出され、お釣りがくるとも考えられます。もっともなんですが、隔離施設の試算は旅客数の見込みが変われば変動します。2万人を想定すれば20万人規模の施設が必要ですし、3万人なら30万人です。附属病院の規模もそれによって変わってきます。


10万人収容の巨大隔離施設は机上で可能なだけで、現実にはほぼ不可能と感じられます。ただ水際作戦を完璧に近づけたいと思えば、この程度は必要と言うのを念頭に置かないといけません。後はこれにどれだけ近い体制が現実として組めるかになります。「近い」で崩してはならないところは、全員の一律隔離です。そこを崩さずに現実案を摸索するとすれば、今日の話で前提としなかった入国制限を使うと言うのがあります。

10万人巨大施設案は入国者に合わせて施設を整える案でしたが、これを施設の規模に合わせて入国者を制限するとするなら、かなり現実的になります。その時の世界は強毒性インフルエンザのパンデミックないしそれに向いつつある状態ですから、渡航制限や移動制限がポピュラーに行なわれていて何の不思議ありません。

入国者の設定を日に1万人とするから10万人施設が必要なわけで、これが1000人になれば1万人施設で対応可能になります。1万人施設ならかなり現実的なプランになってきます。さらに500人なら5000人施設ですから、もっと現実的になります。空港も成田なりに絞り込めば施設は1ヵ所で足りますし、成田が土地問題でややこしいなら、関空の第2滑走路に施設を作れば、あそこは人工島ですから、収容者の管理はより容易になるとも思われます。

精一杯現実的に考えて見ましたが、たぶん強毒性になってもアンケート用紙を片手に検疫官が走り回る体制が「前例」として踏襲されるんでしょうね。