特命教授と特命助教授

同じニュースを伝えているはずなのですが、まず3/16付Asahi.comより、

医師確保へ官学連携 県と神戸大、「地域医療」研究へ 兵庫

 兵庫県立柏原病院(兵庫県丹波市)の医師不足問題を受け、県と神戸大学は10日、医師確保などを目的とした「地域医療連携推進事業に関する協定」を結んだ。両者は今後、地域医療が抱える問題を解消するための共同研究も進める。自治体と大学がこうした協定を結ぶことについて、文部科学省は「全国的に珍しいのではないか」としている。

 県によると、神戸大は同協定に基づいて内科医2人が柏原病院で外来診療するほか、医師の勤務環境、患者や診療内容の地域的特徴などを研究する。一方、県は行政職員を神戸大に派遣し、「特命教授」として医療行政を研究させたり医師に地域医療の重要性を教えたりする。

 県と神戸大はこれまでも、公立豊岡病院(豊岡市)でのへき地医療研究事業を05年度に始め、08年度からは医師を大学病院と公立病院に順番に勤務させる「循環型人材育成プログラム」に取り組んできた。しかし、医師の労働環境悪化や現場スタッフとの連携がうまくいかないなどの問題点が浮上したため、地域医療の診療環境の改善に取り組むことにした。

 柏原病院は同プログラムに沿って08年度から神戸大の整形外科などの医師を受け入れているが、同病院が最も必要とする内科医は含まれていなかった。このため、県は09年度予算案に医師2人の人件費分を含む3千万円を計上。研究成果を検討しながら、12年度以降の継続を協議する。

 井戸敏三知事は「不安のない医療の提供ができるようにしたい」と述べ、神戸大の野上智行学長は「国際的に卓越した大学になるためには地域の信頼が第一歩。連携して地域医療を確立したい」と語った。

これに対しコチコチの地元紙である3/12付丹波未来新聞では、

神戸大学の特命教授3人が柏原病院へ

 県が神戸大学に委託し、県立柏原病院などをフィールドに実施する 「地域医療連携推進事業」 の概要が10日、明らかになった。同大の特命教授3人が、同病院で週1、2度勤務し 若手医師を育成する方法や地域医療機関の連携のあり方などを検討する。教授は週1、2回外来診療も行う。地域医療循環型人材育成プログラムの2人の欠員も、内科医師2人が同大附属病院から派遣される。県と大学は、同事業実施で丹波地域2市でつくる丹波医療圏を再生し、それを弾みに県内他地域に同様の取り組みを広げることを視野に入れている。柏原病院で行う同事業は、県と大学が連携し、地域医療を支援する新しい仕組みの試金石となる。

 赴任する教授は3人。消化器内科、循環器内科、消化器外科を予定。発令は、4月1日付け人事。

 同大は、同事業に取り組むため、同大大学院の医学研究科を改組。新たに「地域社会医学・健康科学講座」を設ける。この中に、「総合臨床教育・育成学」 「地域医療ネットワーク」などの分野を設け、新たに特命教授を置く。これら特命教授が、柏原病院で研究と、外来の診療支援を行う。

 教授を同病院に派遣することで、同大から派遣される若手の医師をサポートし、若手の医師が赴任する「教育環境」が整った病院づくりに役立てる。外来診療も一部を担うことで、少しでも、紹介患者の受け入れ数の増加につなげる。

 また、柏原赤十字、兵庫医大篠山病院、地元医師会らと話し合い、地域の医療連携、最適化について研究する。着任後、早々から精力的に研究を行い、 できる限り早い時期に議論の叩き台をまとめる意向。

 循環型プログラムによって着任する常勤の内科医は、消化器、循環器の各1人。2人の着任で、同病院の常勤医師数は、内科6(循環器3、消化器3)、外科5、小児科5、産婦人科3、整形外科11、放射線科1の21人。昨年4月とほぼ同水準の人数になる。

 これまで同大は、内科医の派遣は難しいとしていたが、高井義美同大大学院医学研究科長は、「地域医療連携推進事業によって教授も柏原へ行き、若手医師をサポートするシステムができた」と話している。

 県は、地域医療連携推進事業に3000万円を予算化。県と市は、医師5人を同大から派遣してもらう「循環型プログラム」に1億5750万円を予算化している。

かなり内容が異なっているのがお分かりになるでしょうか、目に付くところで比較対照表を作ってみます。

項目 asahi.com 丹波未来新聞
特命教授の役割 県は行政職員を神戸大に派遣し、「特命教授」として医療行政を研究させたり医師に地域医療の重要性を教えたりする。 特命教授3人が、同病院で週1、2度勤務し、若手医師を育成する方法や地域医療機関の連携のあり方などを検討する。
内科医の派遣 神戸大は同協定(文脈上、地域医療連携推進事業)に基づいて内科医2人 地域医療循環型人材育成プログラムの2人の欠員も、内科医師2人が同大附属病院から派遣される。
研究の目的 医師の労働環境悪化や現場スタッフとの連携がうまくいかないなどの問題点が浮上したため、地域医療の診療環境の改善に取り組むことにした。 柏原赤十字、兵庫医大篠山病院、地元医師会らと話し合い、地域の医療連携、最適化について研究する。着任後、早々から精力的に研究を行い、できる限り早い時期に議論の叩き台をまとめる意向。
予算 県は09年度予算案に医師2人の人件費分を含む3千万円を計上。研究成果を検討しながら、12年度以降の継続を協議する。 県は、地域医療連携推進事業に3000万円を予算化。県と市は、医師5人を同大から派遣してもらう「循環型プログラム」に1億5750万円を予算化している。
神戸大のコメント 「国際的に卓越した大学になるためには地域の信頼が第一歩。連携して地域医療を確立したい」(野上智行学長) 「地域医療連携推進事業によって教授も柏原へ行き、若手医師をサポートするシステムができた」(高井義美同大大学院医学研究科長)


まず確認できる事は県立柏原病院に内科医2人が派遣されることです。それは良かったのですが、派遣された経緯がAsahi.com丹波未来新聞ではかなり違います。話が混乱しないように兵庫県と神戸大と間には2つの協定が結ばれている事をあげておきます。
  • 地域医療連携推進事業(今回結ばれたもの)
  • へき地医療研究事業による「循環型人材育成プログラム」(プログラムは2008年度かららしい)
名前だけではどう内容が違うかよく分からないのですが、へき地医療研究事業の協定がある上に地域医療連携推進事業が結ばれたというのが真相のように思われます。Asahi.comはへき地医療研究事業では内科医が派遣されなかったが、地域医療連携推進事業により派遣されたみたいな伝え方をしていますが、丹波未来新聞を読むとそうではなく、地域医療連携推進事業を新たに結ぶ事により、へき地医療研究事業に基づく内科医派遣が可能になったと読めます。つまり両社の違いは、
    Asahi.com:地域医療連携推進事業による内科医2名派遣
    丹波未来新聞:へき地医療研究事業による内科医2名派遣
私は丹波未来新聞の方が正しいと考えます。実質は地域医療連携推進事業を重ねて大学と結んだので、内科医派遣が行なわれたとは言えますが、派遣の根拠はあくまでもへき地医療研究事業に基づくものであるとするのが真相でしょう。記事をある程度額面通り信じるとすると両事業の違いは、
    へき地医療研究事業:へき地へのスタッフ派遣を含む事業(循環型人材育成プログラム)
    地域医療連携推進事業:週に1、2度の非常勤外来の派遣を含む事業
こんな感じで色分けされると考えてよさそうです。従って、2人の内科医派遣のための費用は地域医療連携推進事業の3000万円から捻出されたわけではなく、へき地医療研究事業の1億5750万円(5人分)から出たとするのが妥当かと思われます。


内科医の派遣は事情が複雑そうなので理解の混乱があるとしても、次の「特命教授」がAsahi.com丹波未来新聞では全く違います。Asahi.comの伝える特命教授は県の行政職が大学に特命教授に任命される内容です。それに対し丹波未来新聞の伝える特命教授は大学の医師3名が特命教授となって、週に1〜2度柏原病院に赴く話です。

内容的には丹波未来新聞はえらい具体的です。

同大は、同事業に取り組むため、同大大学院の医学研究科を改組。新たに「地域社会医学・健康科学講座」を設ける。 この中に、「総合臨床教育・育成学」「地域医療ネットワーク」などの分野を設け、新たに特命教授を置く。これら特命教授が、柏原病院で研究と、外来の診療支援を行う。

これはとりあえず信用できそうです。問題はAsahi.comの伝える県の行政職が大学の特命教授になる話です。こちらもそれなりに具体的で、

県は行政職員を神戸大に派遣し、「特命教授」として医療行政を研究させたり医師に地域医療の重要性を教えたりする

仮にどちらも本当であるとすれば、

  • 大学から柏原病院に出張する医師の特命教授が3名
  • 県庁から大学に出張する行政職の特命教授が最低1名
最低4名の特命教授が存在する事になります。それにしても4名も特命教授を作ってどうするんでしょうか。地域支援連携推進事業の本音の目的が柏原病院支援であり、赴任を渋る医師に「特命教授」のバーゲンセールをやったのは理解するとしても、建前上の目的は研究です。その研究のために4人も船頭がいる状態がどうかの評価は悩むところです。そのために行政職の特命教授が存在するという見方は可能ですけどね。


ところでへき地医療研究事業ですが、調べてみると寄付講座です。神戸大学大学院医学研究科・医学部 実践医科学領域医学系研究科寄附講座へき地医療学講座(兵庫県)としてあります。そこのメッセージとして、

2006年1月1日兵庫県とのコラボレーションで発足した新しい講座です。研究・教育・診療のフィールドを但馬地区のへき地中核病院である公立豊岡病院に設置し、神戸大学医学部総合診療部と協力しながら運営します。但馬地区は都市部と比較し医療が生活の中にとけ込んだ環境であり、病診連携のみならず、医療・保健・福祉の連携がより優れた環境です。実際に地域に入ってそれらを肌で感じることは医学生・研修医(前期・後期)教育に非常に有用であると考えています。

メッセージの内容はともかく、そこのトップ(1人しかいないかもしれませんが・・・)の肩書きが珍しいもので少し興味が惹かれました。

■特命助教授 石田 岳史(いしだ たけし)

特命教授とか臨床教授みたいな教授の存在は知っていましたが、特命の助教授まであるとは初めて知りました。特命教授があるのですから特命助教授があっても何の不思議も無いと言えばそれまでですが、軽くググッた限りでは神戸大学のみの制度のようです。肩書きも興味が惹かれたのですが、もう一つ気になるところもあります。予算の問題です。記事を参考にすると、

事業名 予算 主要スタッフ 目的
地域医療連携推進事業 3000万円 特命教授4名以上 柏原赤十字、兵庫医大篠山病院、地元医師会らと話し合い、地域の医療連携、最適化について研究する。
へき地医療研究事業 1億5750万円 特命助教授1名 地域包括ケアの中で医師の果たすべき役割・へき地医療のガイドラインを作成し、社会から求められている総合医・家庭医の育成プログラム構築を行います。


ついでに言うと地域医療連携促進事業は、これもおそらく寄附講座になるのではないかと考えられるこれが設けられる上で、
  • 総合臨床教育・育成学
  • 地域医療ネットワーク
  • たぶんもう一つか二つ
これらに対する特命教授と考えても良さそうです。本当のところはどうなっているのでしょうか。大学の事情に疎いもので、サッパリわかりません。