犯罪被害者基本法

あくまでも私は法律の素人であることを先にお断りしておきます。また法律に書かれている条文だけで解釈するのは危険である事もお断りしておきます。その前提の上で犯罪被害者基本法を少し紹介させて頂きます。まず前文みたいなものがあるのですが、

 安全で安心して暮らせる社会を実現することは、国民すべての願いであるとともに、国の重要な責務であり、我が国においては、犯罪等を抑止するためのたゆみない努力が重ねられてきた。

しかしながら、近年、様々な犯罪等が跡を絶たず、それらに巻き込まれた犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。さらに、犯罪等による直接的な被害にとどまらず、その後も副次的な被害に苦しめられることも少なくなかった。

もとより、犯罪等による被害について第一義的責任を負うのは、加害者である。しかしながら、犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する我々もまた、犯罪被害者等の声に耳を傾けなければならない。国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性が高まっている今こそ、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。

ここに、犯罪被害者等のための施策の基本理念を明らかにしてその方向を示し、国、地方公共団体及びその他の関係機関並びに民間の団体等の連携の下、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

犯罪被害者の保護を謳った法律である事は理解できます。まずですが、

第一条

 この法律は、犯罪被害者等のための施策に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、犯罪被害者等のための施策の基本となる事項を定めること等により、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって犯罪被害者等の権利利益の保護を図ることを目的とする。

犯罪被害者に対し


  1. 地方公共団体
  2. 国民
この三者に対する責務について書かれている法律である事がわかります。全部紹介すると長いのでこの三者に対する総則での責務だけ引用します。

(国の責務)
第四条

 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、犯罪被害者等のための施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

地方公共団体の責務)
第五条

 地方公共団体は、基本理念にのっとり、犯罪被害者等の支援等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(国民の責務)
第六条

 国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分配慮するとともに、国及び地方公共団体が実施する犯罪被害者等のための施策に協力するよう努めなければならない。

これ以上詳しい事はリンク先の条文を読まれるようにお願いします。ここでどういう人が対象になるかを見てみます。

第二条

 この法律において「犯罪等」とは、犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為をいう。

  1. この法律において「犯罪被害者等」とは、犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいう。
  2. この法律において「犯罪被害者等のための施策」とは、犯罪被害者等が、その受けた被害を回復し、又は軽減し、再び平穏な生活を営むことができるよう支援し、及び犯罪被害者等がその被害に係る刑事に関する手続に適切に関与することができるようにするための施策をいう。

犯罪等の定義がここに書かれているのですが、具体的には、

  1. 犯罪
  2. これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為
犯罪はある程度わかりやすい定義です。ただ犯罪が具体的に何を指すかの法律定義は小うるさいものの様なんですが、私が解釈する限りでは刑法犯の事を指す様に考えます。民法に関しては犯罪とは用いないような気がするのですが、具体的な情報をお持ちの方があれば御教授ください。もう一つの「これに準ずる」となるともっと見当がつきにくいように思えます。何を具体的に指しているのかピンとこないので、こうなっているとまずさせて頂きます。

ピンとは来ないのですが、ヒントになるような具体的な例があります。12/12付読売新聞記事です。この記事の中に犯罪被害者基本法について触れた部分があります。

犯罪被害者基本法を所管する内閣府によると、医療ミスがあったとして医師が業務上過失致死傷で起訴された場合、被害者や遺族は無罪判決が確定しても同法によって保護される「犯罪被害者等」に当たる。

この解説は具体的には割り箸訴訟についてのものと解釈できます。割り箸訴訟の経緯を大まかに書くと、子どもが割り箸を加えて歩いている時に転倒し、その割り箸が脳に突き刺さるという事故です。痛ましい事故で子を持つ親として御遺族に御悼みを申し上げます。これで医師が業務上過失致死傷で起訴された理由は、容易に発見できるものを見逃した疑いをかけられたからです。

これについての刑事訴訟は先日高裁判決が確定し、上告が為されなかったために無罪として確定しています。判決文の詳細の解説は避けますが、司法の判決として業務上過失死傷は存在しなくなりました。御遺族にとっては無念であったでしょうが、法治国家ですから司法の判断をこれ以上どうしようもないかと考えています。

そうなれば犯罪被害者の定義のうち犯罪は消失する事になります。そうなると御遺族が「犯罪被害者等」にあたるのは「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」と言うことになります。御遺族への同情とは「まったく」別に定義の置き方に違和感を少々感じます。

割り箸訴訟での直接の死因は脳に突き刺さった割り箸です。割り箸が突き刺さった原因は子ども転倒です。ここには犯罪も無く「これに準ずる」ものもないと考えます。犯罪ないし「これに準ずる」ものがあるかないか争われたのは病院での診療行為を巡ってのものです。ここでは検察が業務上過失致死の可能性を疑い、刑事訴訟を起しています。これについては無罪が確定しています。つまり犯罪も「これに準ずる」ものも存在しなくなったと考えそうなところです。

しかし無罪判決により犯罪も「これに準ずる」ものも無くなったように思えても、御遺族は犯罪被害者等になられるというのが内閣府の見解だそうです。そうなると

    これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為
この範囲は私が考えるよりも非常に広い事になります。裁判で無罪であっても残るのはどういう理由かを考えなくてはなりません。これは本当に条文だけではサッパリわからない見解なのですが、この唯一の具体例から考えると、一度刑事訴訟の被害者ないし遺族となれば、犯罪の嫌疑がかけられた行為が有罪無罪に関らず犯罪被害者等になると考えざるを得ません。まさかと思うのですが、医療のみの適用解釈とは思えないからです。この辺も正しい解釈情報があればよろしくお願いします。


ここでもう一つ気になるのは、無罪となった被告医師です。無罪となったわけですから、被告医師に刑法的な責任はありません。ただ嫌疑をかけられ被告として訴訟を行っている時にかなりの誹謗中傷の類を受けたとは思っています。これも用語に気を付けなければならないのですが、無罪が確定した今なら冤罪を受けたとしてもよいかと考えています。つまり「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」に該当しないかです。受けた被害の大きさを考えると立派に犯罪被害者等に該当し、保護される対象になるように思われるのですが、実際の運用は如何なものでしょうか。

どうにも条文を読むだけでは、これ以上は素人にはよく分かりませんでした。