後方支援体制

昨日の議論は良質だったのでそれを受けてのエントリーです。現在の医療の流れは崩壊から再生を考えるになりつつあるのですが、再生の構想を少し考えてみようがテーマです。再生には様々な意見があるのですが、当然のように理想論があり現実があります。理想論の展開だけなら幾らでもバラ色の夢を紡げますが、再生の日は50年も100年も先の話ではなく、5年から長くて10年内外の事であり、もっと早いかもしれません。そうなると現実から変えられない部分を踏まえないと完全な机上の空論になります。

変えられないものとして医療の供給戦力があります。厚労大臣は医師の頭数を増やすことを主張しています。これ自体が今後どうなるかもわからないのですが、現状を考えると大臣のプラン通り10年後に1.5倍に増やしても供給戦力は1.5倍にならないと考えます。現在の医師戦力は長年築き上げられた医師教育の伝統の上に培われています。長時間労働を当然以前とし、それに耐え抜くものこそ医師であると信じている集団による供給戦力です。

そういう意識の医師は現在でも多数派ですが、急速に減少しつつあります。それよりもっと大きな問題として旧来の医師教育が断絶しつつある事です。これから増える医師は違う意識を持ったものが確実に多数派を占めると言う事です。これは悪いことではなく、これまでが余りにも異常であったのが正常化するだけのことです。ただ正常化すれば頭数の分だけの供給戦力増加につながらない事にはなります。つまり再生の時点での供給戦力は現状と余り変わらないと前提しておく必要がありますし、そうでなければ医師の過酷な勤務環境は改善されない事になります。

変えられるものとして現在の医療政策があります。再生プランは現在の医療政策の延長上には存在不可能です。存在するのなら医療は崩壊するわけがありません。再生プランは現在の医療政策を否定したところから考えるものであり、現状で「政策的に否定されている」は再生プランを考える上では無用の配慮です。

それと医療費が増やすのは再生プランでは議論以前の同意事項です。問題は増やすと言っても無尽蔵に資金を注ぎ込めるわけではなく、出来るだけ効果的に増やす必要があります。必要額の試算までは無理としても、優先順位ぐらいまでは考える事はある程度可能です。それと財源論議は末端医師レベルでは不要と考えています。財源論議は利害関係が余りにも深く絡み合い、それこそ政治レベルの解決を行ってくれない事には簡単には話が進まないからです。どこかを削る論議は削られる関係者を敵に回すことになり、そんな事は政治しか対処しようがないと考えています。

もう一つ重要な事は医療崩壊と言っても震災の様に一瞬で目の前から崩れ去るものではありません。小さな崩壊の積み重ねが、気づかない内に手遅れになっているような状態です。再生もまた同じで、「御破算で始めまして」みたいにある日にそろってヨーイドンの世界でもありません。小手先ではない根っ子からの再生をバラバラと行ないながらになると考えます。

医療者として行なわなければならないのは、バラバラと行なわれる再生に対し、方向性が明後日にならないように提案し、修正していく努力かと考えています。とは言うものの再生と言われても茫然とするほど大変な事なので、昨日は医療に冗長性を備える事をまず一つのテーマにしようとのエントリーを書いてみました。まだまだ抽象的ですが、医師の労働環境の改善のためには不可欠な事だからです。

それに対しての提案として「後方支援体制の充実」が出てきました。これは深い感銘を受けました。どうにも小児科開業医であるため、自分の視野がいかに狭かったを思い知らされる思いでした。後方支援体制の概念もややバラツキがあるのですが、今日は介護の充実を考えてみます。

かつて医療は介護まで抱え込んでのものでした。これが介護保険として名実ともに現在は分離しています。この分離自体は基本構想として間違っていないとの意見は多いと見ています。問題は分離した介護を医療費削減の手法として運用した政策に問題があると考えられています。問題点の話は何度も行なっているので省略して、医療と介護の大雑把な関係を図にしてみます。

矢印の患者の流れには例外も多々あるのですが、おおよそこういう感じです。基本のテーマの一つが「医療の冗長性」ですから、医療部分の負担をスムーズに介護に流す事は重要な事です。この図の流れがスムーズであれば良いのですが、黄色で示した介護部分が非常に弱体です。弱体であるがために、上流とも言える医療部分に強い負担がかかったいるとも言えます。

介護部分が後方支援体制にあたりますから、ここが強化されないと前方部隊とも言える医療の負担は軽減されません。前提の一つである医療供給戦力の増大が望めない状態で冗長性を確保するためには、後方支援体制の要である介護の充実が不可欠になります。介護の充実なくして根本的な医療の負担の軽減はありえないと考えるのが妥当です。

介護業界の惨状は説明するまでもありませんが、まずここが充実しない事には、前方部隊とも言える医療の中で少々の術策を講じようとも効果が期待できないことがわかります。後方支援の要である介護がガタガタの状態で、前方部隊に小出しの緊急応援部隊をいくら注ぎ込んでも、応急処置以上の政策ではない事もわかります。

誤解無いように加えておきますが、介護の充実だけですべてが解決するわけではありません。たとえば産科危機には直接的には何の効果もありません。ただ医療全体を俯瞰すると後方支援体制の充実こそが前方部隊の負担軽減に直接つながります。つまり根幹的な必要条件の一つが介護の充実になります。今日は時間が足りないのであえて触れませんが、介護の充実による前方部隊の負担軽減で医療を成立させる条件が十分条件になります。必要条件と十分条件をそろえる事で再生のスタート要素の一つが満たされる事になります。

ちょっと時間と練りこみ不足で話が中途半端になっている点はご容赦ください。


■修正

通りすがりの勤務医様から図の足りないところの指摘がありましたので書き直しておきます。