新春から景気の良い話

1/4付CBニュースより、

「高い成長と雇用創出が見込める」として、成長けん引産業と明確に位置付けた医療・介護分野では、2020年までに新規雇用約280万人、新規市場約45兆円を創出することを目標として掲げた。

現在の医療・介護分野の市場規模は38兆円、300万人程度と言われています。それが10年で倍増するとは新春早々、景気の良いお話です。45兆円も半端な額じゃなく、1年平均にしてもドドーンと4.5兆円です。来年度の診療報酬改訂で1000億円以下の規模の額で大騒ぎしたのとは話の規模が違います。スケールからすれば毎年新たな子ども手当が追加されるぐらいのお話です。

そんな景気の良いお話は具体的にどうかと読んでみると、

 医療・介護など健康分野では、サービスの基盤強化を柱の一つとして挙げた。具体的には、医師の養成数を増やすとともに、勤務環境や処遇を改善することにより、勤務医や医療・介護従事者を確保する。医療機関の機能分化や高度・専門的医療の集約化、介護施設や居住系サービスの増加を加速させ、質の高い医療・介護サービスを安定的に供給できる体制の整備を目指す。

医師の数は養成数を倍増しても10年後では高が知れています。ここの狙いは介護サービスと読みたいところです。潜在需要と言う点では「増加を加速」なんて言わなくともテンコモリと思っています。

 また、日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発促進も盛り込んだ。創薬ベンチャーの育成を推進するほか、新薬や再生医療などの先端医療技術、情報通信技術による遠隔医療システム、医療・介護ロボットなどの研究開発や実用化を促進する。そのため、ドラッグラグやデバイスラグの解消を喫緊の課題と指摘しており、治験環境の整備や承認審査の迅速化を進める。

薬価の削減とゾロ品推奨政策と矛盾する様な気がしないでもないのですが、革新的な医薬品の創出による市場拡大を謳っています。ただ45兆円のパイ拡大のためには、年間売り上げ1兆円クラスがゴロゴロ必要と思われます。製薬企業がどれほどの規模の売り上げの新薬を「ヒット」と言うかよく存じないのですが、年間売り上げ1兆円クラスのヒットが2個もあったら「凄い」ように思わないでもありません。それともうひとつ、

    医療・介護ロボットなどの研究開発や実用化を促進
趣旨として必要であろう事は認めますが、これを購入し使用するには人件費とのトレード・オフが必要です。便利であってもペイしないものの需要は喚起されないと考えてしまいます。もちろんあくまでも計画ですから、画期的な新薬が突然連発され、ロボットがバカ売れしないとは限りません。

 さらに、高齢者が住み慣れた地域で暮らすため、地域主導で地域医療の再生を図ることが重要と指摘。その上で、医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携や、情報通信技術を活用した在宅での生活支援ツールの整備などを進めるとした。

ここは増えるかもしれませんが、現在最もお金をケチっている分野でもあります。いくらネットワーク云々を言ったところで、人件費の塊みたいな分野です。ここの計画は人員の効率的な運用のための投資は書かれていますが、人員を雇用するための政策は書かれていません。運用のための投資も医療・介護分野のパイ拡大には有用ですからそこに力点があるように読めてしまいます。

職員の待遇はどうなんでしょうか。可能性として今後劇的に改善向上されるのか、それとも現在の待遇でも魅力溢れる様に見える社会に、今後劇的に変動するかになります。どっちなんでしょうね。

 このほか、今後独居や介護が必要な高齢者が増加することを踏まえ、バリアフリー化された住宅の供給を促進することや、アジア市場での医療関連サービスの展開や医薬品などの海外販売を促進することなども盛り込まれている。

バリアフリー住宅の建設関連も医療事業に含めるのなら雇用はここで大幅に水増し勘定は可能かもしれません。その手を使えば自動車産業やIT産業などの人数も勘定に入れるのもありになりますからね。医療・介護分野と言っても、別に生まれる市場が狭義の医療・介護ととらえずに、それに少しでも関連している産業を裾野として考えると45兆円とか280万人は統計操作で十分可能とも考えられます。


あくまでも記事に掲載されている部分だけですが、市場が45兆円も10年で増える要因としては、

  1. 革新的な新薬発売
  2. 医療・介護ロボットの開発販売
  3. バリアフリー住宅需要の上昇
  4. 介護業界の需要増
  5. アジアに介護産業の展開
これで10年間に45兆円の新たな市場が創出される計画と解釈すればよいのでしょうか。そうなれば、それはそれで目出度い事なんですが、なんとなくハコモノ行政の需要予測みたいに見えてしまうのが、あら不思議です。それでもって新規雇用は医療・介護分野の裾野の統計解釈の変更により増えることになるみたいにも読めてしまいます。


ここでちょっと思い出したのは、2007.12.17付CBニュースにある2007.12.6の参議院厚生労働委員会での西島英利議員の発言です。

西島議員は、日本医師会の常任理事時代、規制改革・民間開放推進会議の前進である総合規制改革会議にヒアリングに呼ばれ、会議後の記者会見で宮内義彦座長(オリックス社長)が「医療産業というのは100兆円になる。どうして医師会の先生方は反対するのか」と発言したことを紹介

この記事は混合診療導入に対するものですが、医療産業市場は当時も介護を含めて同じぐらいですから、100兆円発言と今回の新成長戦略基本方針の額が奇妙にシンクロするように思います。いろいろと「その他」で方針を飾っていますが、政府の負担が増やさず、医療・介護市場を45兆円も新規に創出するには混合診療の導入方針があるんじゃないかと思ったりしています。

2007年当時はすぐにでも導入しようと財界の鼻息も荒かったですが、政権が変わり10年計画に変更したのかもしれません。モデルはアメリカ式でしょうが、これも日本に導入する時にはアメリカ式の「欠点」を取り除いたものにしようと構想していると予測しています。アメリカ式の欠点は企業の民間保険への負担が膨大すぎる点ですから、これを個人なり、国家に肩代わりさせようとしていると考えています。

混合診療の導入による民間保険の創設は、金にもっともウルサイ業界の有力者が100兆円を保証しているのですから、とりあえず10年後に45兆円程度増えても何の不思議もありません。混合診療導入は自費診療に対する健康保険だけではなく、医療訴訟に対する損害保険市場の拡大も同時に意味します。損害保険分野は医療・介護分野から除外するとすれば、財界人からはやはり100兆円市場に見えるのかもしれません。

混合診療の導入は医療者にとってもメリットになるという意見は3年間で多くなって来ています。保険屋に取られる分は膨大でしょうが、それでもおこぼれの規模は小さくなく、皆保険で延々とジリ貧やっているより、よほど夢があるという考え方です。医師も患者の利益のために皆保険制度堅持を口にするのが疲れてきているようですから、3年前みたいには挫折しないとも考えられます。


もちろん記事には一言も混合診療導入によって新たな市場を創設するとは書かれていませんから、そこのところは誤解無いようにお願いします。記事にあるように「その他」の部分だけで45兆円が湧いてくるかもしれないからです。新年ですから景気の良いお話と受け取る事にします。まだ1月6日ですから、せめて夢や希望がある方がよいですからね。