神戸の集団接種の結果

神戸の集団接種の経緯は


日付 事柄
11月18日 ・インフルエンザ対策会議にて神戸市行政と市医師会が集団接種計画について合意
・ワーキンググループが実施計画(案)を策定
11月20日 ・ワーキンググループにて神戸市行政が否定的見解を発表
・集団接種を小規模にする案を持ち帰り検討
11月25日 ・医師会、行政、小児科医会の見解を確認
・集団接種計画は白紙に戻る
12月2日 ・神戸市が詫びを入れて計画再始動
12月5日 神戸新聞に12/13に神戸で集団接種を行うと報道(12/4に判明との事)
12月7日 ・どうやら正式決定(神戸市HPが12月7日更新と記載)、募集始まる
12月8日 神戸新聞が詳細を掲載
12月9日 ・医師会員に決定のFax送付
12月10日 ・郵送必着にて締め切り
12月13日 ・集団接種始まる


神戸市役所HPの1歳以上5歳以下の幼児を対象とした新型インフルエンザワクチン集団接種の実施についてでは接種計画数は1620人となっています。これが実際にはどう運用され、どういう結果になったかが平成21年12月28日付神戸市医師会新型インフルエンザ対策会議「新型インフルエンザ関連情報第46報」にあり参考にさせて頂きます。

まずなんですが最終的に計画数は200人増え1820人になったようです。計画時に較べて西区の接種日が1日増えているからです。それと希望者の当選者数は計画数より多くなっています。これも当日になってのキャンセルや接種不可を見越したものになっていると見ます。当選者数は1967人となっており、計画数の8.1%増しです。もう少し細かく見れば、

場所 計画数 当選者数 当選者/計画数
灘区 200 220 1.10
兵庫区 200 250 1.25
240 330 1.38
北区 300 275 0.92
西区 300 330 1.10
200 214 1.07
中央区 40 50 1.25
40 50 1.25
40 50 1.25
40 50 1.25
40 50 1.25
40 50 1.25
40 48 1.20
1820 1967 1.08


接種場所により当選者数のバラツキがありますが、おそらく1〜2割増を目標にして当選者数を調整したと考えられます。募集期間の問題はさておいて、神戸市医師会が行なった計画として、
  1. 応募者が多かったと推測される西区を200人増しにした。
  2. 当日のキャンセル、接種不可者を1〜2割程度に設定した。
それにしても北区で計画数割れしか当選者がいない事は少し驚かされました。ここまで準備して実際の接種者がどれぐらいかも報告にあります。これは全体の数字で見てみますが、

計画数 当選者 接種者 接種不可 キャンセル
1820 1967 1330 108 529


接種不可者とキャンセル数を当選者数からのの割合で見ると、

分類 人数
当選者 1967
接種者 1330 67.6%
接種不可 108 5.5%
キャンセル 529 26.4%


接種不可者5.5%は集団接種と言う特性から高いと見るか、低いと見るかは微妙ですが、この辺は当選者数に織り込み済みかと考えられます。やはり多かったのはキャンセル数で、実に1/4以上になっています。ここまでのキャンセル数が発生すると事前に予測するのは困難かと思われます。そうそう計画数に対する接種率は73.1%です。

福井の報道ではキャンセルの大量発生の理由にダブルブッキングが報じられていましたが、神戸ではどうだったのでしょうか。募集期間から接種日までの日数を考えるとそんなに大きくないと考えますが、真相は不明です。それよりも新型インフルエンザに罹患した者が多かったと考えています。時期的にまだまだ多い時期で、申し込み時から接種日までに罹患した可能性は十分あります。ほんの小さな傍証ですが、集団接種参加時にインフルエンザに罹患したと考える患者が何人か受診しています。

キャンセル者をもう少し詳細に見ると、

Date 当選者 キャンセル数 キャンセル率
12/13 470 61 13.0%
12/14 50 1 2.0%
12/15 50 6 12.0%
12/16 50 11 22.0%
12/18 50 13 26.0%
12/19 50 11 22.0%
12/20 935 356 38.1%
12/21 50 16 32.0%
12/22 48 12 25.0%
12/23 214 42 19.6%


大雑把に言うと、集団接種として大規模にやったのは12/13と12/20です。12/13では13.0%のキャンセル率であったのが、1週間後の12/20には38.1%に跳ね上がっています。流行の拡大は感染が済む事で終息傾向にはありますが、それでもまだ未感染であったものが1週間でこれだけ感染者が増えたとも見れます。もっとも1週間経つとダブルブッキング者も増えるかも知れませんが、感染によるものの比率も低くないと考えます。


誤解はして欲しくないのですが、神戸市医師会の不手際を責める気は本当に毛頭ありません。だいたい、流行の真っ只中に集団接種を行なって、どれほどのキャンセル率が発生するかなど予測するのは非常に困難だからです。私がもし集団接種の立案段階に参加していても、やはりキャンセル率の設定は1〜2割程度しか思いつかなかっただろうと思います。

どれほどのワクチンを医師会が準備していたかどうかの情報はありませんが、当初計画数の1620人分からすると1700〜1800人分ぐらいと推測されます。計画を立案するに当たって「足りない」のも深刻な事態ですから、そうそう過剰な設定を経験も無しに出来ないと考えるのが妥当です。

思ったのは、やはりになりますが、流行の真っ最中に予約でパーティボトルの完全利用を求められる困難さです。予約は当然ですが、接種日より以前にとられます。申し込んだ日から接種日までの間隔が広いほど流行の影響が深刻になるのは当然です。1週間もあればクラス一つが壊滅するぐらいの蔓延は容易に起こると言う事です。


ここでもう一度福井の報道を見直しておきたいのですが、12/11付共同通信より、

病院によると、1歳から小学3年生のワクチン接種が始まった7日、予約のあった88人のうち22人がキャンセルした。

88人中22人ですからキャンセル率は25.0%です。報道からは判然としませんが、キャンセルの中に接種不可も含まれていても「こんなもの」と言う事が出来そうな気がします。接種希望者は多いでしょうが、当日にどれほどの融通が利かせられるかは別問題です。これは使用するボトルが大きい(接種者が多い)ほど問題は深刻になる性質があります。

実はと言うほどの事ではありませんが、季節性の接種も今年は新型の影響は大きく受けています。理由は単純で、例年以上にキャンセル率が高くなっているからです。それでもさしての混乱が無かったのは、季節性接種には優先順位とパーティボトルがなかったためで、キャンセルが発生して余っても、24時間以内に他の飛び込み希望者に回す、さらにはボトルのサイズから廃棄量が少なく済んだためと考えています。



神戸の結果を読みながら感じたのは、新型ワクチン接種計画の全体を厚労省はどう総括するかです。これには輸入ワクチンの問題も入ってきますが、全体としてどう総括するかは重要な事です。ある時期から新型対策は来るべきトリ対策の壮大なシミュレーションであるとの考え方はあります。シミュレーションは次に活かしてこそ意味があります。

不手際の数々をここで列挙するつもりはありませんが、防げる不手際は次回までに十分な対策を行なっておく必要があります。トリ対策も未知の感染症対策ですから、実地では不測の事が起こるにしろ、今回の新型対策で学習した防ぎ得る事ぐらいは防がないと意味がありません。心配しているのは済めば臭いものに蓋のような総括処理を行なってしまわないのかの懸念です。

懸念と言うか現実かもしれません。不手際だった個々の対策にも責任者がおり、不手際を検証すれば自動的に責任問題は発生します。不手際の責任問題を転嫁できるのは前政権時代の責任者しかいませんから、「それが諸悪の根源だ」ぐらいでお茶を濁す可能性は非常に高いと思わざるを得ません。そういう処理は次回に大きな禍根を残しますが、それを防ぐ術はないかもしれません。二の舞は十分ありうると言う事です。


いずれにしろ神戸の集団接種の関係者の皆様、本当に御苦労様でした。まだ2回目がありますから頑張りましょう。