医療従事者向け新型ワクチンの算数

平成21年10月9日付事務連絡「新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンの初出荷等のお知らせについて」を読むと初出荷分の新型ワクチンは、

1ml 10ml 国立病院治験用
初出荷ワクチン数 36万4729本 2万2498本 2万2870本
1回接種換算人数 72万9458人 40万4964人 4万5740人
2回接種換算人数 36万4729人 20万2482人 2万2870人


ちょっと注釈ですが、10mlバイアルは平成21年10月20日事務連絡「新型ワクチン接種における10mlバイアル使用に係る留意事項について」に、

新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種では、10mlバイアル(成人接種18回接種分)が使用されます。

こうなっているため、18回分として計算します。

ここで当初計画、少なくとも初出荷時点では医療従事者も2回接種でした。そうなると初出荷分でカバーできるのは59万81人になります。当初計画でも医療従事者の予定接種者は100万人ですから6割分しか充足していない事になります。ではでは、初出荷分を2回接種の1回目分と考えると118万162回分になり、100万人計画なら足りる量になります。

では第2回出荷分が幾らになるかと言えば、平成21年10月16日付事務連絡「新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの第2回出荷等のお知らせについて」によれば、

1ml 10ml
第2回出荷ワクチン数 21万9561本 5万628本
1回接種換算人数 43万9122人 91万1304人
2回接種換算人数 21万9561人 45万5662人


1回接種換算で135万426回分になり、100万人計画で当初より1割程度増えても接種が可能と言う事になります。100万人計画であってもワクチンの出荷数からすると当初2回の分は医療従事者向けと考えのが妥当と思われます。ワクチンは1mlバイアルにしろ10mlバイアルにしろ100%利用は難しく、どうしてもロスが生じます。また100万人計画であっても上下1割程度の見込み違いは必ず生じますから、幾分は余裕をもたせると考えてよいかと思います。

あくまでも推測ですが、

  1. 医療従事者の事前の計画接種人数は100万人であった
  2. 初出荷及び第2回出荷分の総接種回数は253万588回であり、2回接種なら126万5294人分である
ワクチン出荷数まで考えていたかどうかの疑問もありますが、現実の出荷数からすれば最初の2回はほぼ医療従事者に割り当てる以外に手段はないと考えられます。ところがここで医療従事者の希望者に大きな誤算が生じます。タブロイド紙ですから信用性はそれなりですが、10/23付記事には、

医療機関側の接種希望者数が国の割り当て(約100万人)を大きく上回る230万人以上に達する

なんと言っても「毎日新聞都道府県への調査」ですから眉にツバが必要ですが、2倍以上の数に増えています。増えたから足りないの報道がなされていますが、よく考えなくとも不思議な話です。確かに希望者は2倍以上に増えましたが、一方で接種回数も医療従事者は1回に急遽変更しています。結果としてどうなったかと言えば、

当初計画(2回接種) 現実(1回接種)
接種希望者 100万人 230万人
必要接種回数 200万回 230万回
計2回の出荷ワクチン 253万588回


接種希望者は増えましたが、接種回数が減ったため机上ではワクチンはほぼ足ります。当初計画通りに医療機関にワクチンを配給すれば、それほど大きな問題にならないかと考えます。かなりギリギリですから、どうしてもの過不足は生じるでしょうが、低く見積もっても9割以上の希望者に接種可能と見る事は出来ます。


さてと、それでも医療従事者向けワクチンは不足しているとの情報が多く集まっています。微妙な日程のお話なのですが、

  1. 初出荷分は10/9に出荷され市中に出回るまで約10日必要だった
  2. 第2回出荷は10/20出荷のため10月末頃に市中に出回ると予想される
  3. 第3回出荷も11/6出荷のため11月中旬以降に市中に出回ると予想される
こういうワクチン事情の中で11/1から医療関係者以外の優先者の接種が始まります。当初の2回接種、100万人計画であっても最初の2回のワクチンの殆んどは医療従事者で消費されるのは上述した通りです。そうなると11/1からの一般の優先希望者向けのワクチンは非常に少なくなります。つまり「接種開始」と謳いあげても医療機関にワクチンは無いことになります。

ワクチンの出荷状況の情報ぐらいは厚労省も握っていると思われます。ワクチンの出荷スケジュールに従っていたら、11/1の一般接種開始が実質不可能になり「ワクチン不足騒動」が問題視される可能性が出てきます。これを解消するには第2回出荷分を一般向けに振り向ける必要があります。そう考えると、あの土壇場で急遽1回接種の話が出てきたのに妙に合点がいきます。

医療従事者が予定通り100万人であれば、初出荷分で医療従事者分はほぼ机上では足りる勘定になります。さらに13歳以上の希望者を一律1回接種にすれば、135万人分は確保できる事になり、11月中旬以降に出回るはずの第3回出荷分を合わせると、11月のワクチン不足問題はかなり回避できるとも見る事が出来ます。ちなみに第3回出荷分は、

0.5ml 1ml 10ml
第3回(11/6) 24万9800本 約83万本 約9.6万本
1回接種換算 24万9800人 約83万人 約172万8000人
2回接種換算 12万4900人 約41万5000人 約86万4000人


第3回出荷分は最初の2回を合わせたより出荷量が多く、ここまでなんとか粘れば一般向け接種のワクチン不足トラブルが小さく出来る計算がある様な気がしています。どこに問題が生じたかと言えば、医療従事者の希望者が当初計画の2倍以上に膨れ上った事です。それでも半数ぐらいは接種できるはずなのですが、初出荷分の都道府県レベルの配布方法の指示に微妙な文章があります。

例3.

    医療監視等の各種データから、各医療機関の接種対象医療従事者を試算。当初は、全ワクチンの8割程度を供給し、その後、過不足を各医療機関と確認し、不足している医療機関に追加納入する方法。
例4.
    診療所は○人分、大規模な病院は○人分のように一定の規則で当初全ワクチンの8割程度を供給し、その後、過不足を各医療機関と確認し、不足している医療機関に追加納入する方法。

配布法として最初に8割を配り、その後に残り2割を配るとしています。これ自体は悪い方法ではないのですが、残りの2割を一般向けに回した可能性も完全に否定できないところです。あくまでも推測であるのはお断りしておきます。傍証と言うほどのものではありませんが、これもタブロイド紙ですが、

厚労省インフルエンザ対策推進室は「妊婦など接種が急がれる一般国民が後に控えているので、割り当ての範囲にとどめてほしい」と話している。

厚労省が言う「割り当ての範囲」が何を指しているのか、現時点で真相は藪の内です。わかるのはワクチン出荷量と医療従事者の希望者の怪しい概算と、医療従事者へのワクチンの不足だけです。新型インフルエンザ対策は本当にいろんな事が起こります。それと今日のお話も大部分はあくまでも推測ですからご注意下さい。本当のところがどう回っているかなんて、現時点では不明と言う事です。