新春から景気の良い話2

1/4付CB記事(ステトスコープ・チェロ・電鍵様経由)より、

小児救命救急センター」を認定へ―厚労省

 厚生労働省は来年度、小児の救急医療を担う小児専門病院や大学病院などの中核病院を「小児救命救急センター」(仮称)と新たに認定し、その運営に対する補助金を設ける。PICU(小児集中治療室)の整備や専門医師の研修経費への補助金と合わせて、来年度予算案に3億900万円を計上している。

 同省の「重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会」が昨年7月に提示した中間取りまとめを受けたもの。中間取りまとめでは、「小児専門病院で救命救急医療を積極的に進めるべき」「小児専門病院のない地域では、大学病院などの中核病院が担うことが望まれる」などと強調。

 また、小児の集中治療に習熟した小児科医が100人に満たない現状を指摘していた。これを受けて、3億900万円のうち1200万円をPICUの専門医師の研修経費への補助に充てる。

 このほか、NICU(新生児集中治療室)などに長期入院している小児の在宅への移行促進も新たに実施。これに1億1300万円を計上している。内訳は、NICUやGCU(回復期治療室)などに長期入院している小児が在宅に移行するための訓練を行う「地域療育支援施設」(仮称)の運営費への補助金として6300万円、在宅に戻った小児が重症化した場合などに一時的に受け入れる病院向けの補助金として5000万円。

昨日の10年間で45兆円に較べるとスケールが小さいのですが、記事によると「小児救急センター」を中心にドド〜ンと、

    3億900万円♪
これだけの補助金が注ぎ込まれるようです。内訳は記事にある限りの情報ですが、
  1. 1200万円:PICUの専門医師の研修経費への補助
  2. 1億1300万円:NICU(新生児集中治療室)などに長期入院している小児の在宅への移行促進
  3. 1億8400万円:小児救命救急センターの運営補助金
小児救命救急センターへの補助金問題についてはリンク先のnuttycellist様のエントリーを御参照下さい。私はこの予算のうち、NICUからの在宅移行促進費は1億1300万円の方を考えて見ます。これにはさらに内訳があり、
  1. 6300万円:小児が在宅に移行するための訓練を行う「地域療育支援施設」(仮称)の運営費への補助金
  2. 5000万円:在宅に戻った小児が重症化した場合などに一時的に受け入れる病院向けの補助金
地域療育支援施設は「仮称」となっていますから、おそらくこれから認定基準を作り、認定された施設に補助金が支給される段取りかと思われます。この在宅促進政策の背景をちょっと考えてみたいと思います。考えるまでもなくNICU病床の不足への対策でしょう。日本にどれほどのNICU病床が必要かになりますが、おおよそ出生300〜500人あたりに1床と言う計算法があります。

日本のNICU整備は出生300〜500人の計算の内で、500人を目標に整備されてきたとなっています。2009年の出生数は106万9000人だそうですから、2138床は単純計算で必要となります。では現在どれぐらいのNICU病床数があるかといえば、滋賀県臨床工学技士会様によりますと、

NICUを備える施設は291で、前回の2005年調査に比べ11増加していた。NICU内の病床数は05年調査の2341床から、3年間で107床増えていました。

2341床より107床増えたと言う事は2448床ある事になります。これは出生447人に1床の計算になり、出生500人基準では「足りている」事になります。もっとも出生500人基準ではどうも足りないの意見が出ていたはずで、せめて出生400人基準を目指すの話はどこかにあったはずで、出生400人基準なら2673床必要ですから、まだ225床ほど足りないとも言えます。

出生基準はマクロでの計算ですが、現実にはNICU病床が足りない要因として、NICU病床の有効利用が出来ていないと言うのがあります。有効利用とは病床利用率ではなく、回転率の悪さです。新生児医療は私が触れたときに較べても長足の進歩を遂げているとも聞きますが、幾ら進歩しても当分は解消の目途が立たない問題が厳然と存在しています。

救命はできても退院の目途が立たない患者の発生です。これは急性期の救命技術の向上だけではなく、救命後の生命維持技術も進歩していますから宿命的に発生します。様々なケースがありますが、多くは人工呼吸器からの離脱が困難と言うのが多いと存じます。そういう患者の状態も様々なんですが、これも長年の課題ですが、安定はしていても人工呼吸器などの医療を欠かせない患者の受け皿が非常に貧弱なのがあります。

結局のところNICUないしGCUから退院できない患者が長期に存在し、NICUの有効利用が低下する現象を生み出しています。これへ対策として常識的に考えられるのは、

  1. NICUおよびGCUの増床
  2. 受け皿施設の整備拡充
NICUは1床作るのにン千万円が必要とされ、NICUで入院治療を行う事自体が多額の医療費及び医療資源を費やす事になりますから、現実的な選択枝は受け皿施設の整備になります。医療の流れとしては、
    NICU → GCU →(一般病床)→ 受け皿施設
この流れが整備されスムーズに動けばNICUの有効利用が良くなります。これは高齢者医療の流れとも良く似ているのですが、新生児医療でも下流施設の整備は遅々として進まず、上流施設に患者が滞留する現象が発生しています。でもって現在どれ程の下流施設への患者がおり、下流施設がどれぐらいあるかですが、2009.2.1付朝日新聞より引用します。

在宅療養が困難な場合の受け皿となる重度障害児向けの施設は圧倒的に不足している。重度の知的・身体障害がある児童は08年時点で約3万8千人。重症児施設や国立病院重症児(者)病棟のベッドは計約1万9千で、入所待機者は5千人以上とみられる。

なんとなく算数があわないのですが、3万8000人の対象者がいてベッド数は1万9000床ですから、1万9000人があぶれていると考えられます。この1万9000人ですがとりあえず待機者5000人となっていますが、残りは・・・てな話になります。



さてと、そういう現状があっての上の在宅促進対策になります。在宅移行の対象患者は、

    NICU(新生児集中治療室)などに長期入院している小児
こういう小児は大まかに分類すると、
  1. 生命維持のために入院治療が不可欠
  2. 在宅も不可能ではないが家族が協力的でない
  3. 家族に意欲があっても、在宅治療を行なうための支援が不十分
1.はそもそも無理ですし、2.も現実的に非常に困難です。子どもを生むような家族は通常は若年層で、在宅医療を行なうだけの生活基盤に欠けている家庭も少なくありません。そうなると在宅施策で対象になるのは、3.のケースが主になるような気がします。予算規模からしても、それぐらいが精一杯と考えます。

予算規模は上述したように1億1300万円です。記事内容しか在宅移行計画を知りませんが、この金額で何人在宅に移行できたら施策として有効かになります。問題の根底は下流施設の不足によるNICU等への患者滞留現象です。NICU増床も下流の受け皿施設拡充にも膨大な予算が必要ですし、とくにNICUはハコを作っても新生児科医師をどうやって集めるかの難題は一朝一夕には解決しません。

問題を単純化してみます。滞留患者は一定の率で発生しますから、それに応じたNICU病床が埋まります。NICUだけの有効利用と言う観点で見ると、そういう患者を抱えながら有効利用するには、

  1. NICU病床を増やす
  2. なんとか患者を他の病床なりに移動させる
病床を増やす事に注目すれば、上で1床ン千万円としましたが、確か5000万円であったかと記憶しています。つまり在宅に移行する患者が1人出れば5000万円の効果があるとも考えられます。2人で1億円、3人で1億5000万円とも言えますから、その程度で在宅施策は「成功」とも見ることが出来ます。もっと詳細に分析すれば2人でも十分効果的と見れるかもしれません。

長期入院患者の家族でも在宅に非常に前向きなところはあります。現在でも医療機関と家族、さらに行政も連携して意欲的に取り組んでいるところはあります。ただ取り組みは地域差が大きいので、家族に意欲はあっても在宅に移行できないところもあるはずです。それがこの在宅政策によって少しでも可能になればモトが取れるとも見ることが出来ます。

目標人数は先ほどの粗い概算では、2〜3人程度でも成功といえるかもしれません。別に100人とか、1000人みたいな規模が必要なわけでなく、10人も在宅移行してくれれば万々歳と言っても良いかもしれません。10人程度なら、本当に我が家で我が子を見ると言う家族の希望をかなえることになるでしょうし、医療機関にすればその分だけNICUの有効利用が行なえるわけですから、誰も文句がでるものでないとも考えられます。



もっともあくまでも「そうとも受け取る事ができる」と言うだけで、本当の狙いはまったく別かもしれません。ただそうであってくれたら、妙に現実的な施策には見えます。少なくとも昨日の45兆円の話より費用対効果がストレートでわかりやすいような気もします。悪い方に考えれば幾らでも連想は出来ますが、まだ松の内ですから前向きの話と受け取りたいところです。