宮島俊彦氏

久しぶりにその名前をみました、御健在だったのですね。9/2付CBニュース「介護療養型病床は財政再建の「いけにえ」か」より一部引用。

清水紘・日本慢性期医療協会副会長
 これが7月の人事で新しく就任した、今の厚労省老健局長、宮島俊彦氏の就任時記者会見の発言だ。
「療養病床の医師は1万人いるが、なぜ子どもや妊産婦を診てくれないのか」
「療養病床では病状が急変すると一般病床に送るという。それで病院なのか。病院という名前はやめてほしい」
 これを聞いてどう思うか、判断は皆さんに任せたい。
 そして、療養病床削減という重要なことがたった約1週間で決められたという事実を皆さんにはよく覚えておいてもらいたい。

引用した記事のメインテーマである療養病床削減問題は散々やったので今日はほどほどにしておきますが、実に画期的な発言に少々驚きました。もっとも宮島氏はこういう発言が初めてではありませんから、宮島氏の思想・信条がそうであるか、こういう方針で医療政策を行うように命じられ、言われるがままに立案実行して現在の地位を築いているかのどちらかです。

何回かこれは紹介した事があるのでご存知かもしれませんが、2年ほど前の2006.10.5付で神戸新聞に掲載されたインタビュー記事です。ちと長いですが宮島氏のお考えがよく分かる記事なので全文引用します。

−治療と療養を目的とする療養病床を大幅に減らす理由は何か?

「三点ある。一つは病院ではなく、自宅などで療養したり、亡くなったりする環境を整える必要があること。約50年前までは自宅で亡くなる人が全死亡者の約八割を占めていたが、今は逆に約八割が病院や診療所でなくなっている。できるだけ終末期は自宅で療養したいという人が約六割いるという調査結果もある。二つ目は医療提供体制の変換が迫られていることだ。老人医療無料化の『副作用』として、本来、福祉で対応すべき高齢者を病院で対応してきた歴史的経緯がある。高齢者の長期療養を自宅で対応できるようにすれば、長すぎる平均入院日数を短くし、医師や看護師を人材不足が深刻な小児科や産婦人科に回すことができる。」

−三点目は?

「調査の結果、療養病床にはほとんど医療の必要性のない患者が約8割もいることが分かった。介護施設や在宅に向かわせるべきだ。」

−増え続ける医療費の伸びを抑えることが大きな狙いでは?

「目的のすべてではないが、保険財政上の問題もあることは確かだ。療養病床では月に四十九万円くらいの医療費がかかるが、老人保健施設なら三十四万円、在宅サービスならもっと少なくすむ。入院が長期化して亡くなる人が増えれば、(医療保険制度は)やっていけなくなる」

−病院を追い出される患者も出る?

「計画では、介護保険の療養病床約十三万床と医療保険の療養病床約二十五万床を六年かけて再編し、医療保険の十五万床に集約する。その際、療養病床は老人保健施設などに転換するので、患者が追い出されることは考えられない」

−それでは受け皿が足りないのでは?

「現在、一年間に亡くなる人は百万人程度だが、団塊の世代(一九四七−四九年生まれ)が二十年後に亡くなると推定すると、死亡者は約170万人になる見通しだ。この人たち全員を療養病床で対応する事は不可能だ。受け皿として、老人保健施設などの介護施設だけではなく、有料老人ホームやケアハウス、安い高齢者賃貸住宅などに入ってもらい、外から在宅医療や介護サービスを利用できるようにする」

−ことし四月から「在宅療養支援診療所」(支援診療所)の整備を始めたが、どんな診療所か?

「二十四時間体制で往診や訪問看護ができる診療所のことだ。必要な医師や看護師がいることや、他の医療機関と連携して緊急入院に対応できること、介護計画を立てるケアマネージャーと連携していることなどの条件をクリアした診療所になってもらっている。既に全国で八千五百九十五の診療所が名乗りを上げている」

−患者が安心して在宅医療を受ける上での課題は何か?

「二〇〇〇年度に始まった介護保険制度で、在宅介護サービスは充実している一方、病気の治療など在宅医療の取り組みが遅れている。在宅介護サービスを利用していても、体が心配というのでは在宅療養はうまくない。入院・治療、リハビリ、在宅という流れに沿って医療に取り組むためには、在宅における支援診療所の果たす役割がとても重要だ。今後、患者が安心して在宅療養できるよう、都道府県が中心となり、在宅療養と介護に総合的に取り組む地域ケアの整備を進める必要がある」

読めばそれまでなんですが、療養病床を減らす理由は、

    約50年前までは自宅で亡くなる人が全死亡者の約八割を占めていたが、今は逆に約八割が病院や診療所でなくなっている。できるだけ終末期は自宅で療養したいという人が約六割いるという調査結果もある。
実に明快な論旨で、
    50年前は8割が自宅で死亡していたし、現在の厚労省集計のアンケートでも6割は自宅で最後を迎えたいとなっている。つまり国民は自宅で死亡する事を強く望んでいるのに、療養病床なんてものがあるばっかりにそれを阻害している。国民の希望を叶えるためには療養病床を減らし、自宅で最後を迎えるようにするのが国民の意向に副った最善の政策である。
上記したように宮島氏が心の底からそう考え、宮島氏が国民の幸福を実現するために邁進されているのか、出世の便法で機械的に処理されているのかは知る由もありませんが、一貫した姿勢で取り組まれているだけはよく分かります。厚労省の人事はよくわかりませんが、2006.10.2時点で「厚生労働省審議官」であったのが2年足らずで「厚労省老健局長」に御就任遊ばされたのは、おそらく順調だと思われます。ただ1953年生まれとなっていますから、今年で55歳になられ、年齢と役職の釣り合いが妥当かまでは私には判断できません。

細かい出世の評価はわかりませんが、官僚の出世システムはステップを登る毎の椅子取りゲームとされ、椅子に座れず脱落したものは窓際族になるのではなく、挫折した段階によっての天下りが慣例とされますから、55歳でも厚労官僚として現役であるだけで評価しなければならないのかもしれません。そうなると療養病床の大幅削減計画に手を染め、国民の夢と希望であるはずの「自宅死」推進に取り組んだ功績は非常に大きいことになります。

ここで宮島氏は新たな功績の積み上げを考えているようです。現在の医療の問題はテンコモリありますが、産科医不足や小児科医不足、それと救急問題はよく知られたポピュラーなものです。医学部定員増などの対策が進められていますが、おそらく老健局管轄の分野でこれに対する援護射撃を行なうようです。引用したCBニュースの要点を書きますが、

  1. 療養病床の医師も小児科や産科を診察しなければならない。
  2. 療養病床で容体がどんな状態になろうとも、そこは「病院」だから最後まで治療を行なわなければならない。

1.は産科医・小児科医不足対策、2.は救急医療対策です。これに動員される戦力は、
    療養病床の医師は1万人
なんともビューティフルな机上の妄想です。ただ妄想と言ってバカにしてはいけません。国民が「自宅死」を熱望しているという妄想の実現に取り組んだだけで御出世されているのですから、療養病床の医師1万人動員計画も妄想に終わらず具現化されると考えなければなりません。御発言の妄想が具現化すれば宮島氏の更なる御出世は約束されますし、医療がどうなるかは清水紘・日本慢性期医療協会副会長のコメントのように、
    これを聞いてどう思うか、判断は皆さんに任せたい。
私もそうしたいと思います。