medtoolz氏の総合医戦車論

はっきり言って面白い秀逸な論でした。幾つかの連続ツイートなので一つだけ紹介しますが、

総合医とか家庭医というのは、歩兵と言うよりも戦車兵であって、戦車はたしかに万能だけれど、後方の支援や随伴歩兵がいなかったら簡単に潰される。「お前戦車だろ。強いんだろ。じゃあ単騎突撃な」って支援なしで僻地に送られたって、総合医にとってはごく簡単な症例で大怪我する

興味がある方は前後のツイートをお探し下さい。簡単に内容を紹介しておくと、総合医をいかに強化して戦車のように仕立てたところで、戦車一台で突撃すれば群がる敵兵に各個撃破されるだけであるです。戦略として考えるなら、後方支援体制の確保こそが重要であり、単体の戦車を強力にすることで地方の医療戦線を支えようとしても無理があるです。一連のツイートを読みながら二番煎じを考えてみました。


エヴァ

ふと思いついたのはエヴァンゲリオンです。別にエヴァじゃなくても良いのですが、この手の怪獣物です。エヴァエヴァファンには申し訳ないのですが、ウルトラマン以来の伝統をしっかり引き継いでいます。

とにかく相手は強力で通常兵器では刃が立たないのが基本です。そのためにこっちも強力秘密兵器を繰り出すのですが、これには種々の使用制限があるです。古典的にはウルトラマンのカラータイマーみたいなものです。その点はまだ良いのですが、相手は必ずこちらが待ち受けているとところに単独で現れるです。ウルトラマン時代は理由も無しにほぼ東京でしたが、エヴァになるとネルフを必ず襲撃する理由を作っています。

設定とかストーリーの進化は歳月を感じますが、相手はいかに強力であっても単騎であり、なおかつこちらが十分に準備迎撃できるところに出現すると言うのはお約束です。そうしておかないと、今度は秘密兵器の使用制限の設定が困るになるからです。それでもそういう御都合主義を感じさせないぐらい昇華しているのは「さすが」と思っています。


エヴァの設定を無理やり医療に置き換えると、十分な医療戦力がある高度救命救急医療機関の真ん前で、それも平日の昼間に重症患者が発生するようなものです。現実の医療ですからすべては救命できないかもしれませんが、最善の治療を最善の時期に施す事は可能になります。常にそういう状況で医療が行なえるのなら、医療戦力は高い効率で発揮できます。

エヴァだって基地の真ん前に使徒が来るから迅速に出撃し、これを撃退できるのと同じです。これが地球の裏側どころか北海道にでも使徒が出現されればお手上げ状態になります。どうやってエヴァを北海道まで運ぶかの問題が解決できなくなるからです。エヴァの運用には多くの設備と人員が必要であり、これがセットでないとまともに戦えないと言うのがあるからです。

しかしエヴァと違って現実の医療では全国どこででも使徒の襲来はありえます。つうか、ピッタリ高度救命救急医療機関の前で重症患者が発生するほうが珍しいです。また高度医療機関エヴァ以上に動く事が出来ません。その代わりと言ってはなんですが、使徒を動かす事が出来るのが医療です。使徒を搬送すると言う手段でこれに対応するわけです。

今日は比喩で遊んでいるので内容は大した話ではないのですが、エヴァ有効利用のために医療は一次から三次の迎撃体制を組んでいます。つうのも現実の医療は使徒だけではなく、戦車も、戦闘機も、ランボーコマンドーの様なレンジャー兵士も、ショッカーの戦闘員のような下っ端も来襲します。かなり単純に定義分類すると、

レベル 医療機関イメージ 対応相手
一次 開業医レベル ショッカーの戦闘員クラスから、せいぜいランボー、コマンド−ぐらいまで
二次 市民病院クラス 戦車、戦闘機クラス
三次 大学病院クラス 使徒クラス


低次に手強いのが来るとそれに相応しい高次に搬送するシステムです。数は言うまでもなく強敵ほど少なくなります。本来の三次は一次や二次がフィルタリングして選ばれた使徒クラスを相手にするところになります。


現実の医療の問題点は使途や戦車、戦闘機の対応ではないと見ています。これらは強敵ですが、相手の強さも数もある程度予想可能であり、これを迎撃するぐらいの戦力はなんとかあります。一番応えているのはショッカーの戦闘員と考えます。

そういう現実はエヴァではなく仮面ライダーの方が判りやすいような気がします。ショッカーの怪人は単騎襲撃を行いません。たいていは部下を引き連れてきます。でもってショッカーの戦術として部下を先に戦わせて、仮面ライダーが少しでも弱るのを待って、最後に戦うわけです。テレビでは戦闘シーンのオマケみたいなところであり、仮面ライダーの方が下っ端の戦闘員より遥かに強く、バッタバッタと薙ぎ倒しついでに怪人もふっ飛ばします。

テレビの仮面ライダーでは下っ端を先に戦わせて弱らせるショッカーの戦術はいつも通用しませんが、現実としてはかなり有効な戦術と思います。テレビでは下っ端の戦闘員は10人から多くて20人程度ですが、これが百人、千人、万人となればいかに仮面ライダーであってもかなり体力が消耗し、怪人と対決する頃にはかなり疲れているはずです。


考えてみると現実の医療、とくに救急医療の世界はエヴァと言うより仮面ライダー的な世界のイメージがちょっと近い気がします。ラスボス的な怪人と戦う前に下っ端の戦闘員がワンサカ押し寄せるイメージです。1人1人は軽症でも数見ているうちに医師の方が消耗するとすれば良いでしょうか。

一次・二次・三次フィルター戦術にしても、そうはうまく分散してくれません。ショッカーの戦闘員は一次だけではなく二次や三次にも容赦なく襲いかかります。戦闘員個々は大した敵ではないのですが、問題は数です。そいでもって戦闘員の増加は抑制するのではなく、むしろ増やすほうに医療政策が取られている面が多いので、仮面ライダーに程遠い体力の医療者にとっては誠に辛いところと思っています。


戦車論に戻ります

かなり寄り道しましたが、medtoolz氏の総合医戦車論に戻ります。medtoolz氏は総合医を陸上の万能兵器である戦車に喩えられました。皮肉も混じっていると思いますが、医師の個々の能力アップにによる事態収拾は愚案であるの指摘です。ただ現実の総合医養成計画は戦車を目指しているのだろうかです。戦車であっても無理なのはmedtoolz氏の指摘通りですが、現実に送り込まれるのは促成栽培のもやし(もやしには重々謝っておきます)ではないかです。

それでも私は総合医が戦車であろうと「もやし」であろうと、言うほど差は出ないんじゃないかの観測も持っています。ここで前線と後方と言う考え方ですが、大雑把に

    前線:一次
    後方:二次以上
後方は支援と言うより迎撃部隊とする方が良いと思います。一次はショッカーの戦闘員と戦うわけですが、その中に戦車や怪人、使途が見つからば「紹介」作戦を行って後方迎撃部隊に任せるです。後方さえ充実していれば、もやしと戦車の差はわずかになります。戦車の方が広くはカバーできますが、戦車とてカバーできない敵はおり、もやしだって同様です。もやしはよりレベルの低い戦闘力の相手を後方にやや多く任せるだけで、後方の負担が激増するわけでは必ずしもないです。

前線は後方さえ充実していれば少々質が落ちても、後方のリカバリーに期待できます。ここで後方の戦力が劣化したらどうなるかですが、前線を戦車クラスで強化しても、前線の戦車の対応限界は一定です。もやしよりは後方に任せる数は減りますが、後方でしか迎撃できない敵は前線ではしょせん処理できないです。医療システムの根幹は後方にあり、三次を「幹」に喩えれば、二次はそこから張り出した太い「枝」です。でもって一次は枝に繁った「葉っぱ」です。幹や枝が衰えた状態で葉っぱだけ立派にしても保たないつう事です。

全体が弱っている時には、葉っぱを犠牲にしても、幹や枝の強化が基本であり、幹や枝を強化してから葉っぱを繁らせるのが正攻法と言う事になります。幹や枝の弱体化に半分目を瞑って、葉っぱを繁らして現状を凌ごうとするには姑息的な奇策であり、一時は成功したように見えても、枝ごと折れたり、幹さえ腐らせる結果を招きかなねない事になります。


後は幹や枝の評価です。これが健在であれば葉を繁らすのは正解です。さてどうなんでしょうか。地域差は大きいので一概には言えませんが、俗に地方僻地と呼ばれるところほど枝は弱っています。またそういうところほど葉を繁らそうとする政策が取られているように見えます。私の錯覚であれば良いのですが・・・。