厚労省データ不正流用疑惑深まる

ネットは怖いところで思わぬデータが飛び出てきました。何度もやっているのですが、経緯がやや煩雑なので出きるだけ簡便にまとめるように努力します。

  1. 中医協厚労省が「5分ルール」の主張に用いたグラフの出典開示を保団連が開示請求(出典は6/10の質問状

     今年4月23日、『中央社会保険医療協議会の診療報酬基本問題小委員会(第115回、平成19年12月7日開催)に提出された、「中医協 診−4−4,これまでの宿題事項について−外来管理加算について(2)−」の参考資料として示された「内科診療所における医師一人あたりの、患者一人あたり平均診療時間の分布」に関連して、以下の資料を開示されたい。 1)調査機関、2)調査対象、3)調査方法、調査用紙、4)個人情報を除いた調査結果』との行政開示請求書を提出した。

     これに対し貴省より5月23日、行政文書開示決定通知書が出され、『「時間外診療に関する実態調査」ご協力のお願い(平成19年7月)、平成19年度厚生労働省委託事業 時間外診療に関する実態調査(調査用紙)、時間外診療に関する実態調査(結果)』が開示された。

  2. 情報開示の時に「時間外診療に関する実態調査」ご協力のお願い(平成19年7月)文書の文面が、大阪保険医協会の保管している分と異なる事を保団連が厚労省に指摘
  3. 厚労省は開示時に「下書き」を間違って渡したとして、「正しい」ものを渡す
ここで2種類の「お願い」文書が登場する事になります。問題になっている調査目的文と合わせて示すと、この調査目的の解釈ですが、厚生労働省保険局医療課の名前で厚労省の封筒に入り、さらに配達証明付で保団連に郵送された抗議書(怪文書)に明記されています。

また、貴会が発刊する全国保険医新聞(2008 年6 月15H 号)においては、「別件調査が『5分ルール』の根拠に」(カッコ内は全国保険医新聞記事より引用。本段落において以下同じ。)、「『概ね5分』根拠なし」との表題の下、当省が行った時間外診療に関する実態調査(以下「調査」という。)が「『今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため』として」実施されたとし、「これを密かに、外来管理加算の時間要件という全く別の目的に使用したのは、明らかな不正行為であると考えられる。」と述べられています。

 しかし、当省が行った調査については、医療機関に対し調査への協力を依頼する文書において、「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に… 実施することとなりました。」とし、平成20年度診療報酬改定における検討で用いることを明確にして実施したものであり、調査の結果を外来管理加算の検討に用いることにっいては、何ら不正使用に当たるものでないことは明らかです。この点において、貴会のホームページの記載や、全国保険医新聞の記事には重大な誤りがあるものです。

ここがちょっと煩雑なところですが、この抗議書でまず、

    今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため
この文面では不正流用に当ると主張していると解釈してよろしいかと考えられます。もちろん、
    今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に
こちらは「正しい」バージョンですが、これであれば不正流用ではないとしています。ところが不正流用になるとした文面は「下書き」バージョンとはやや異なります。これはどの文面かと言えば、厚労省が調査を委託し、実際に調査に当ったみずほ情報総研のお願い文書の文面です。厚労省のお願い文書とみずほ情報総研のお願い文書は調査票に同封されています。もちろんどちらも正式の文書でありながら、不正流用の解釈について正反対の内容が記されていた事になります。これだけでも厚労省の手続きに大きな問題が生じていると指摘可能です。

ここで厚労省からの抗議書で不正流用とされた「みずほ」バージョンと「下書き」バージョンの文面を並べて比較します。

    「下書き」バージョン:今後の時間外診療のあり方を検討するための基礎資料とする事を目的に
    「みずほ」バージョン:今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため
誰がどう読んでも「下書き」バージョンの方がより詳しく調査目的の限定が書かれ、「みずほ」バージョンが不正流用に当るのなら、当然ですが「下書き」バージョンでも不正流用になる事になります。これについて異論がある方はまずおられないかと考えます。もう一度整理すると、

バージョン 流用の適否
厚労省「下書き」 ×
厚労省「正しい」
みずほ情報総研 ×

ところが昨日、えらいものが出てきました。まずのぢぎく様のコメントです。

    ...

    FAXを見るまでは信じられませんでした(すみません)。

    FAXを見たら興奮状態になって、やっとさきほど冷静になりました。


    すなわち、厚労省が保団連に誤って開示したのは「下書き」ではなく、熊本県で実際

    に配布された文書だった。

    「不正流用ではない」という厚労省の主張は根底から崩れたことになります。

なんとなんと、「下書き」バージョンが正式に同封されて郵送されていたのです。ただしこれは全国すべてでは無いようで、保団連の保管資料は「正しい」バージョンであったようなので、「下書き」と「正しい」の2種の「お願い」文書が調査の対象になった6府県に配布された事になります。これがどれぐらいの比率であったかは現時点では確認しようがありませんが、これ一通であるという事は少なくとも無いと考えられます。

これだけでもビックリするような事ですが、さらに驚くべき事実が発覚します。「お願い」文書は日医にも保管されていたのです。これはサンクチュアリー様からですが、

    大阪府日本医師会の鈴木常任理事を通じて出された資料を入手しました。
    愕然とする内容ですので、以下に引用します。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                    平成19年 7月
                   厚生労働省保健局医療課

         「時間外診療に関する実態調査」ご協力のお願い
    (冒頭文略)
     さて、厚生労働省保健局医療課では、今後の時間外の診療体制のあり方を検
    討するための基礎資料とすることを目的に、「時間外診療に関する実態調査」を
    じっしすることになりました。

     (中略)

     また、ご記入いただきました調査表については、厳重に取り扱うこととし、
    上記以外の目的に使用することは一切ありませんので、調査の趣旨をご理解の
    うえ、ご協力を重ねてお願い申し上げます。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                                    以上引用

なんとなんとですが、日医には「下書き」バージョンが送られていたのです。日医に「下書き」バージョンが送られた重要性ですが、「時間外診療および救急医療に関する実態調査」の集計結果にこう書かれています。

 今回の調査の経緯としては, 7月中旬頃に日医への依頼を経由される前に調査書類が各医療機関へ配付されました。ただ, 配付の翌日には日医も本調査について連絡を受けたとのことで, 慌てて各府県の対応を広報し周知するに至りました。調査は大阪府京都府を含む6府県で, その対応すなわち協力するか否かについては, ご承知のとおり各会員先生方のご判断に委ねるとの見解でありました。京都府医師会も同様の見解です。

これを読めばお分かりのように調査は

  1. 調査書類が医療機関に送付される
  2. 翌日に日医に厚労省からの「お願い」文書が送られる
  3. 日医は「お願い」文書を確認して府県医師会に対応を指示
つまり日医は「下書き」バージョンを読んで府県医師会への対応を判断した事になります。どれだけ内容を吟味したかの問題はさておき、日医の調査協力の判断材料はあくまでも「下書き」バージョンである事だけは間違いありません。日医が厚労省から受けた「下書き」バージョンはさらに重要な事に、日医から調査対象の府県医師会に「下書き」バージョンを添えて対応の指示が伝達された事になります。府県医師会はおそらくですが、今度は市町村医師会に「下書き」バージョンを送付して日医の対応と府県医師会の見解を添えて伝達されたと考えて良いかと考えます。これは推測になりますが、鹿本郡市医師会に保管されていた日医経由の「お願い」文書である可能性も出てきます。つまり、
    厚労省から出た「下書き」バージョン → 日医 → 府県医師会 → 市町村医師会
つまり日医から市町村医師会まで、この「時間外診療に関する実態調査」の調査目的はあくまでも「下書き」バージョンの内容であると判断してのものである事になります。おそらく今日に至るまでこの点について日医に訂正文書を送っているとは思えませんし、少なくとも中医協厚労省がグラフを用いて力説していた時には「時間外診療に関する実態調査」の調査目的は「下書きバージョン」であると信じていた事になります。

問題点をまとめると

  1. 調査書類には不正流用が出来ない「みずほ」バージョンが同封されていた
  2. 厚労省文書は「正しい」バージョンと、不正流用が出来ない「下書き」バージョンの2種類のものが配布された
  3. 日医には「下書き」バージョンが配布され、日医から市町村医師会まで「下書き」バージョンに基づいて調査協力の指示を行なった
こういう時の文書の扱いはどうなるかの役所の慣習はよく存じませんが、調査書類を受け取った各医療機関は、同封されていた「お願い」文書を正式のものとして理解します。今になって保団連相手に「正しい」とか「下書き」とか説明されても、調査が終わり、この資料が中医協の診療報酬改定のための重要資料として用いられ、実際に診療報酬がこれに基づいて改正されてから、「あれは間違いでした」で済む問題なのでしょうか。

役所では「手続き上の不正行為」は非常に重視されるとされます。役所でなくともこういう手続きは万全を期します。今回の調査手続きは誰がどう読んでも無茶苦茶です。3種類の正式の「お願い」文書が乱れ飛び、数だけで言えば不正流用を禁じる文書の方が多いという大失態です。このような杜撰な手続きを行なった責任は厚労省にありますし、こんな杜撰な手続きで作成されたデータを中医協の公式資料として使った大きな責任問題が生じる可能性があると考えます。

※用語について

後から読み直すと「不正流用」の使い方がやや粗雑でしたので、注釈としておきます。文中で不正流用としているのは、「時間外診療に関する実態調査」の調査目的が「時間外診療に限る」と言う解釈で用いています。つまり時間内診療である外来管理加算の資料として用いる事は「不正流用」に当るという意味です。おおよそ、そういう意味で用いていますが、文中では使い方にややブレがある点もあり、その点については陳謝させて頂きます。