こうするうらしい厚労省

中医協資料不正流用作成疑惑についての経緯は7/2エントリーおよび7/4エントリーを御参照ください。その上で、保団連の厚生労働省、不正流用を認める 記事には、

7月3日、外来管理加算の問題を厚生労働省で記者発表し、その足で保険局医療課にお邪魔しました。森光課長補佐とやっと会え、30分ほどお話しました。森光補佐は

  1. 厚労省が出したお願い文(A)には、「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」と書いてあり、なんら不正流用には当たらない
  2. みずほ情報総研の文書や、医師会の内部文書に何が書いてあろうと厚労省は関知しない
として不正流用を認めませんでした。

この部分の実況レポートがネットに流出しています。今日は内科開業医のお勉強日記様の聞く耳持たない官僚たち;厚生労働省、不正流用を認めず から引用してみます。

    7月3日厚労省に行って来ました。
    住江保団連会長、竹崎副会長、武田理事、本田で記者会見。
    http://news.cabrain.net/article.do?newsId=16948
    http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080703_1.html

    その後、保険局医療課へ
    アポイントメントなしでの訪問をお詫びし、面談を申しいれる。
    しかたないな、と奥の机に通される。着席。森光課長補佐、既に怒ってる。録音禁止される。

    (A)厚労省保険局医療課の文書
    (B)みずほ情報総研の文書
    (C)厚労省保険局医療課の文書の下書き(抗議文にいう「誤った開示資料」)
    (D)日本医師会より府県医師会宛事務連絡の別添資料より

    森光課長補佐はとにかく(A)に「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」と書いてあるから、再三ご説明したように不正流用ではない。なのに不正流用というのはけしからん。の一点張り。

    我々は(B)に「厚生労働省は、今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため」と書いてあるので、医師は普通はこれをみて判断する。だから不正流用といっているまで、と説明するも聞く耳を持たず。住江会長、武田理事も同様の説明をするも聞く耳を持たず。

    あれは、みずほ情報総研の文書で厚労省は関知せず。(A)にはちゃんと書いてあるから、不正流用ではない。この議論は平行線になるので打ち切り。

    厚労省からの抗議文について;
    どうも保団連からの抗議文に対する抗議文をちゃんと読んでいないらしい。
    国保険医新聞は(C)ではなく、(B)から引用したことを説明。
    →それがどうした。不正流用でないのを不正流用といっていることがけしからん。
    差出人もなく、あのような怪文書のたぐいを送るのはいかがなものか。
    →それがどうした。不正流用でないのを不正流用といっているから出したまで。
    (なんら悪いとは思っていないらしい)
    この議論も、これ以上しても無駄なので打ち切り。

    質問状の回答について;
    「文書で質問してくれと言われたので、文書で出したのに回答がない。厚労省は説明責任を果たすべきではないか。」
    「あれは、最初お互いの信頼関係があったので、そう申し上げたもの。不正流用でないと何度説明しても聞き入れず、今は信頼関係がない。よって回答しない」
    (どうやら永遠に回答してくれないらしい)

    文書Dについて;
    本田:(C)は下書きですよね。
    森光:(気配を察してか答えず)
    本田:もし(C)が使用されていたら、不正流用になりますか?
    森光:それは何とも言えない(警戒)
    本田:文書Dを説明。→なぜ下書きが日医の正式な文書にはいっているのでしょう。
    森光:そんなことは知りません。日医に聞いてください。(A)がはいっているのですから何度も説明しているように不正流用にはあたらない。何べん言わせれば気が済むんですか。

    最初から最後まで怒りっぱなしで、
    よっぽど不正流用と言われるのが気に障ってるみたいです。

なかなか興味深い内容ですが、まずポイントは、

    アポイントメントなしでの訪問をお詫びし、面談を申しいれる。
この面談は保団連が正式に申し込み、厚労省保険局医療課がこれもまた正式に受けたものと考えてよいかと思われます。つまり実際に面談に厚労省側から出席された森光課長補佐は厚労省(ないしは保険局医療課)を代表して発言したと解釈できることです。シチュエーションを読んでもらえばわかるように、面談の形式には私的な要素はほとんど含まれていません。もちろんお役所の慣習として「これは私的なものである」という解釈があるようでしたら、御助言頂ければ幸いです。この辺の形式問題は非常に疎いところがあるのでよろしくお願いします。

森光課長補佐の主張は首尾一貫しているようでポイントは、

    とにかく(A)に「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」と書いてあるから、再三ご説明したように不正流用ではない。なのに不正流用というのはけしからん。
あくまでも厚労省の「お願い」文書では不正流用にならないから問題など存在しないであるようです。確かに厚労省が主張する「正しい」バージョンでは不正流用にならないは間違いないらしいので、主張は基本的に間違っていません。しかし現在疑惑として上っているのは、「正しい」バージョンの他に2種の「お願い」文書が正式に配布されている問題です。これもあえて再掲すれば、

バージョン 調査目的文 流用の適否
厚労省「正しい」版 今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に
厚労省「下書き」版 今後の時間外診療のあり方を検討するための基礎資料とする事を目的に ×
みずほ情報総研版 今後の時間外診療体制のあり方を検討するため ×


ここで流用の適否については、厚労省からと考えられる怪文書および文面をごく常識的に解釈した結果です。この3種の「お願い」文書が乱れ飛んだ結果として、
  1. 調査書類に調査目的が異なる2種類の正式の「お願い」文書を同封して送付した事
  2. 日医に「下書き」バージョンの「お願い」文書を送付した事

この二つの事実が証拠付で確認されています。保団連の質問もこの点について展開されます。まず「みずほ」バージョン同封問題について森光課長補佐は、
    あれは、みずほ情報総研の文書で厚労省は関知せず。(A)にはちゃんと書いてあるから、不正流用ではない。
こうでも強弁しないと話が収まらないのは分かりますが相当な主張です。解釈の仕方が困るのですが、あえて行なうと、こういうあたりで宜しいのでしょうか。厚労省はあくまでも「正しい」バージョンで約束しているから無関係であるとの主張と解釈します。みずほ情報総研の責任だとまで言明し、厚労省は無関係であると押しまくった様子がよくわかります。

もう一つの日医に「下書き」バージョンが正式に渡された問題については、

    本田:(C)は下書きですよね。
    森光:(気配を察してか答えず)
    本田:もし(C)が使用されていたら、不正流用になりますか?
    森光:それは何とも言えない(警戒)
    本田:文書Dを説明。→なぜ下書きが日医の正式な文書にはいっているのでしょう。
    森光:そんなことは知りません。日医に聞いてください。(A)がはいっているのですから何度も説明しているように不正流用にはあたらない。何べん言わせれば気が済むんですか。

ここは凄まじい応対です。医師会に保存されている「お願い」文書は日医経由で厚労省から正式に都道府県医師会、さらには郡市医師会に配布されています。そこで保管されている「お願い」文書が「下書き」バージョンであることを伝えても森光課長補佐は、

    そんなことは知りません。日医に聞いてください。(A)がはいっているのですから何度も説明しているように不正流用にはあたらない。何べん言わせれば気が済むんですか。
「日医に聞いてください」と主張されても、日医だって厚労省に忍び込んでわざわざ「下書き」バージョンを盗み出し、これを都道府県や郡市医師会に配布するような酔狂な事をする理由がありません。いくら日医を問い詰めたところで、「厚労省から正式に渡された」以外の返答が出るわけがありません。それに森光課長補佐が主張する「(A)がはいっているのですから」も現実に入っていないから問題なのであって、「何度も説明」されても答えになっていないと素直に感じます。

まさかと思いますが、お役所の慣習として、間違った文書を仮に渡したとしても「正しいものを渡すつもりであったから、間違っても無問題」というのがあるのでしょうか。人間のやることですから、単純ミスはありえますし、ミスがあればこれを謝罪して訂正するという行為は許されます。謝罪の程度はミスの大きさに比例すると考えてよく、大きなミスなら責任問題が生じますし、小さなミスなら口頭の謝罪で済みます。

ただ謝罪も前提として「ミスを認める」ところから始まります。判断として「ミスはない」として主張し、ミスの事実が判明した時により大きな謝罪(責任問題)が生じます。事実関係を考えるとこの戦術を取るリスクがかなり高いように感じます。

それでもここまで突っぱねてますから、自ら退路を遮断する行為に出ていると個人的に見えます。証拠はかなり有力なものですし、「下書き」バージョンなんて厚労省が配布しない限り「絶対」に流出しないものですから、苦しい強弁に思えるのですが、まず突っぱねて抗弁しきれなくなったら、シブシブ譲歩していく路線なのでしょうか。それも常套手段ですが、そういう手法は最終的に袋叩きコースになる事が多いのですが、目算は大丈夫か心配になります。


もう一つ怪文書についての問答が為されています。森光課長補佐曰く、

    それがどうした。不正流用でないのを不正流用といっていることがけしからん。
    それがどうした。不正流用でないのを不正流用といっているから出したまで。
森光課長補佐の口調はさておき、ここで極めて重要な事が確認できます。つまり怪文書は厚労省保険局医療課から出された事を面談において認めています。正体不明の怪文書ではなく、厚労省医療局保険課から出されている事実を森光課長補佐は明言している事になります。それでもなお文書の形式から「公式」か「非公式」の見解は分かれる部分はありますが、ここまで怪文書の内容を肯定しているところから、かなり公式に近い文書である証拠になるかと考えられます。


それとこれも注目すべき発言がありまして、

    あれは、最初お互いの信頼関係があったので、そう申し上げたもの。不正流用でないと何度説明しても聞き入れず、今は信頼関係がない。よって回答しない
この「何度説明」ですが、保団連の厚生労働省保険局医療課の「抗議文」について即時撤回と書面による謝罪ならびに説明を求めますに、

またこの件に関して「・・謝罪し、再三ご説明した・・」と述べていますが、当理事は開示された文書と実際の文書が異なるので、その理由ならびに5分ルールに関する疑問点を問うために電話したもの

さらに電話内容も厚労省から保団連への抗議文―保険局医療課のとんでもない勘違い―

6月3日 厚労省保険局医療課にお電話し、理由を問いました。森光課長補佐が対応されましたが、すぐには原因が分からず、「とにかく、こちらで調べまして、折り返しお電話します」というご返事でした。
 6月4日 森光課長補佐より当院にお電話があり、「あれ(C)は、正しい文書(A)の下書き用のほうを誤って保団連に送ってしまったもの。大変申し訳ない。後ほど正しい文書(A)を保団連に届けます。」とのことでした。

それ以後はどうだったかと言えば、これは「みずほ」バージョンと「正しい」バージョンの差についての問い合わせについてでしょうが、森光課長補佐は、

この時の面談とほぼ同内容の「説明」を「何度」か繰り返した形跡があります。どうも森光課長補佐の説得力溢れる説明を保団連が理解しないので、
    今は信頼関係がない。よって回答しない
森光課長補佐の説明にどれほど説得力があるかは事実関係をみれば明らかですが、それに納得しない者は厚労省の主観で「信頼関係がない」と公式に決定してよいそうです。「信頼関係がない」ところに「回答しない」は一般的にありえない事とは言えませんが、官庁がそこまで言い切るのは影響力が巨大です。よほどの根拠が必要かと通常は考えますが、森光課長補佐の説明はそれに十分該当するとの判断のようです。


本当に興味深い面談内容ですが、ここでまとめてみます。厚労省を代表して保険局医療課の森光課長補佐が回答した趣旨は、

保団連の質問 森光課長補佐(厚労省)の回答
怪文書は厚労省保険局医療課が郵送したものなのか それがどうした。不正流用でないのを不正流用といっているから出したまで
「みずほ」バージョンでは「不正流用」にあたるのではないか あれは、みずほ情報総研が勝手に約束したものだから、厚労省は関知しない。文句を言うならみずほ情報総研に言え
日医には「下書き」バージョンが送られていた問題は そんなことは知りません。日医に聞いてください。「正しい」バージョンがはいっているのですから何度も説明しているように不正流用にはあたらない。何べん言わせれば気が済むんですか
これらの問題について問い合わせ、厚労省の説明に納得できずさらに説明を求める者は 今は信頼関係がない。よって回答しない


ただしこの面談内容は、
    録音禁止される
つまり「そうは言っていない」もしくは「話の趣旨を曲解された」の発言の余地が森光課長補佐には生じます。状況が悪化すればするんでしょうね、きっと。


最後に追加情報ですが、無能な土木役人様からの現場を知る者の指摘です。

 中央官庁が大規模なアンケートなどの統計調査を行う場合には、統計法の規定で総務省の統計局の承認を事前にとっておく必要があるのだけど、質問票にも、依頼文のどこにも統計局の承認番号が書いてない。普通は質問票の右上に統計局承認第○○号と承認番号が記載されるばずなんだけどなあ。ひっとして、統計局の承認なしに調査をしていたとしたら、これまた、手続きの瑕疵かもね。

げげげ、今度は統計法です。初めて見る法律ですが、まず「法の目的」として、

第一条

この法律は、統計の真実性を確保し、統計調査の重複を除き、統計の体系を整備し、及び統計制度の改善発達を図ることを目的とする。

要するに類似の調査が重複しないように総務省統計局が統計調査を一元管理する法律のようです。この統計法では統計調査は3つに分類されるようで、

  1. 指定統計調査
  2. 国勢調査
  3. 指定統計調査以外の統計調査
国勢調査は今回は関係が無いので厚労省の指定統計調査を見てみると、
  1. 人口動態調査
  2. 毎月勤労統計調査
  3. 薬事工業生産動態統計調査
  4. 医療施設統計
  5. 患者調査
  6. 賃金構造基本統計
  7. 国民生活基礎統計
そうなると「時間外診療に関する実態調査」は指定統計調査以外の統計調査になります。

第八条

 指定統計調査以外の統計調査を行う場合には、調査実施者は、その調査に関し、前条第一項第一号に掲げる事項を総務大臣に届け出なければならない。ただし、統計報告調整法(昭和二十七年法律第百四十八号)の規定により総務大臣の承認を受けた場合は、この限りでない。

  1. 前項の規定により届け出るべき統計調査の範囲その他の事項については、政令でこれを定める。
  2. 総務大臣は、必要と認めたときは、関係各行政機関若しくは地方公共団体の長又は教育委員会に対し、指定統計調査以外の統計調査の変更又は中止を求めることができる。

読んでもよく分からないのですが、今回の調査が「統計調査の範囲その他の事項については、政令でこれを定める」までされていないような気がしますので、統計報告調整法の規定によるものではないかと考えられます。この法律もまた初めて読むのですが、「承認の基準」を引用すると、

第五条

 総務大臣は、前条の申請書を受理したときは、次の基準によつてこれを審査しなければならない。

一 当該統計報告の徴集が統計技術的に見て合理的であること。
二 当該統計報告の徴集と既に総務大臣が承認した統計報告の徴集との間に調整の必要がないこと。

2 総務大臣は、前項の規定による審査の結果、申請に係る統計報告の徴集が同項各号の基準に適合していると認めたときは、速やかに、当該統計報告の徴集について期間を定めて承認しなければならない。

要は統計法でも統計報告調整法でも最終的に総務大臣(統計局)の承認が無いと行政機関は統計調査が出来ないわけで、通常はその承認を明記した「お願い」文書になるはずです。なるはずですというより、「承認期間及び承認番号の明示」として、

第七条

 統計報告の徴集について承認を受けた行政機関の長は、当該報告様式にその承認期間及び承認番号を明示しなければならない。

そうなると「お願い」文書にその旨の記載が無いのは、

  1. 書き忘れた
  2. 承認を受けていない
どちらかの可能性が出てくるわけです。しっかし、まあ、次から次にと言う感じです。これに関しては残念な事に保団連が厚労省に問い合わせても回答は期待できません。森光課長補佐が厚労省を代表して
    今は信頼関係がない。よって回答しない。
こう断言していますから、この問題は総務省統計局に問い合わせるのが宜しいでしょう。