時間外加算の奇々怪々

焼津市立総合病院の時間外加算を自費にする話を昨日エントリーしたのですが、気になるコメントがありました。焼津の前に磐田が類似の制度を施行しているのですが、その磐田市立総合病院のHPですが、

◎時間外診療費について

 磐田市立総合病院では、平成18年11月1日から平日時間内で受診される患者様と同様に、診療時間外および土・日曜日、祝日、年末年始に受診される患者様からも、初診時に「特定初診料」をいただいております。また、緊急に受診する必要がなく都合により診療時間外などに受診される患者様から、時間外加算に相当する額を自費でいただいております。

微妙な表現で意識しないと気がつき難いのですが、

    緊急に受診する必要がなく都合により診療時間外などに受診される患者様から、時間外加算に相当する額を自費でいただいております
焼津の時でも引っかかる表現ではあったのですが、時間外加算だけを自費にするような保険診療は制度上できないはずです。昨日はそこの検索が十分出来ておらず「出来るんだろうな」ぐらいで書いています。ところがどうもそうでは無いようです。

とりあえず医科診療報酬点数表にある時間外加算の条件ですが、

  1. 都道府県における医療機関の診療時間の実態、患者の受診上の便宜を考慮して一定の時間以外の時間をもって時間外として取り扱うものとし、その標準は、概ね午前8時前と午後6時以降(土曜日の場合は、午前8時前と正午以降)及び休日加算の対象となる休日以外の日を終日休診日とする保険医療機関における当該休診日とする。


    ただし、午前中及び午後6時以降を診療時間とする保険医療機関等、当該標準による事が困難な医療機関については、その表示する診療時間以外の時間をもって時間外として取り扱うものとする。
  2. 1.により時間外とされる場合においても、当該医療機関が常態として診療応需の態勢を取り、診療時間内と同様の取扱いで診療を行っているときは、時間外と取扱いとはしない。
  3. 保険医療機関は診察時間をわかりやすい場所に表示する。
  4. 時間外加算は、保険医療機関の都合(やむを得ない事情の場合を除く)により時間外に診療が開始された場合は算定できない。
  5. 時間外加算を算定する場合には、休日加算、深夜加算及び時間外加算の特例については、算定しない。

休日加算、深夜加算もあるのですが似たような条件なので、今日必要な部分はこれぐらいです。これだけ読めば救急病院は「常態として診療応需の態勢」であるため時間外加算を取れないことになりますが、時間外加算の特例と言うものがあり、

  1. 地域医療支援病院(医療法第4条第1項に規定する地域医療支援病院
  2. 「救急病院等を定める省令」に基づき認定された救急病院又は救急診療所
  3. 「救急医療体制の整備事業について」に規定された病院群輪番病院、病院群輪番制に参加している有床診療所又は共同利用型病院

救急病院は時間外加算の特例に該当するので「常態として診療応需の態勢」であっても時間外加算を取れます。

医科診療報酬点数表の規定はこれだけです。私の読む限りこれだけです。ところが診療報酬の査定基準は不文律と言うのがテンコモリあります。不文律はテンコモリあるだけでなく、誰も知らないところで決められ、突然施行され、査定と言う痛みで初めて知らされることになります。恥ずかしながら私もこれは知らなかったのですが、兵庫県保険医協会の審査対策部だよりに「時間外加算の減点事例」が紹介されており、

 緊急の必要性のない「患者の都合」による時間外等の受診である場合は、保険診療としての「時間外加算」は不適切になるので、制度として実施するのであれば、特定療養費として定められている「時間外診療」として、時間外加算相当分を自費徴収する旨を社会保険事務局に届け出ることになる。

はっきり言って仰天しました。救急医療の大問題となっている「不必要なコンビニ受診」はどう考えても、

    緊急の必要性のない「患者の都合」による時間外等の受診
これに該当します。「患者の都合」による受診では時間外加算を算定する事は不適切としています。つまり「不必要なコンビニ受診」は担当医を疲弊させる一方で時間外加算まで算定されないのです。時間外加算が算定されないとは通常の昼間の受診と患者の負担は変わらないことになります。こんな怖ろしい査定が行なわれていたのです。

それにしてもです。「患者の都合」によるコンビニ受診がこれだけ問題になっているのに、コンビニ受診をした患者ではなく応需した医療機関に罰則があるとはなんと言ったらよいか言葉を失いそうです。時間外診療が真に必要な患者よりコンビニ受診の方が安く、たんに安いだけではなく昼間と同じ料金になっています。これでコンビニ受診が増えなきゃ嘘でしょう。

長くなりましたが、磐田も焼津もこの査定基準に従っての行動の可能性もある事がわかります。磐田も焼津も押し寄せるコンビニ受診に時間外加算を算定しようとしても保険診療としては査定されてしまうわけです。それでも時間外加算を徴収しようとすれば保険外併用療養費のうち選定療養にあたる時間外診療を届け出て徴収しなければならないわけです。

そうなると磐田も焼津も押し寄せるコンビニ受診対策としてだけ「時間外加算の自費」を行なったのではなく、コンビニ受診では時間外加算を算定できないから保険外併用療養費として「時間外加算」を確保しようとした部分もあると考えられます。穿って考えれば、コンビニ受診患者への時間外加算を厳しく査定されたがために、保険外併用療養費としての時間外加算を徴収せざるを得なくなった側面もあるかもしれません。

保険診療として時間外加算を払うのと、保険外併用療養費として時間外加算を払うのでは金額も違いますが、厚労省の医療費としても異なります。保険診療なら厚労省の言う医療費のうちに含まれますが、保険外併用療養費なら全額自費ですから医療費削減につながります。そうなるとmoto-tclinic様がコメントされたように、

この先の流れとしては、何年か先に、病院の時間外自費は、全国的に当たり前になって、次に、夜間時間外診療所の加算が、上記指導のように、厳しくあげられるんじゃないでしょうか?

無茶苦茶現実味があって寒気がするほどです。

この「コンビニ受診に時間外加算を算定するのは不適切」は4月改定の診療報酬では奇々怪々の展開になります。4月から改定される診療報酬では午後6時以降であれば規定の診察時間内であっても特例の時間外加算を算定できます。つまり夕診察を午後4時から7時とか、午後5時から8時に設定していれば、午後6時以降受付の患者からは時間外を算定できます。もともと正規の診察時間内ですから、緊急の必要性のない「患者の都合」であっても査定対象になるとは思えません。

ところが診察が終わり患者の要請により本当の時間外診察を行なった場合にはコンビニ受診であったなら時間外加算は査定されます。もっと言えば、午後6時以降に急病診療所をコンビニ受診すれば時間外加算は算定されない事になります。もちろん保険外併用療養費として届け出て時間外加算していれば徴収されますが、その場合は保険診療からの支出ではなく自費診療ですから国の言う医療費には含まれません。

医療費削減から見た時間外コンビニ受診ですが、

医療費削減の観点に立てば診療所に受診されるより病院に受診してもらった方が保険診療分の時間外加算を削減できます。

あっそうか!診療所の時間外特例加算の予算をどこから調達するのかと思っていましたが、救急病院の時間外加算の査定を強力にして持ってくれば可能です。お釣りが出るんじゃないでしょうか。時間外加算査定で病院が悲鳴を上げれば、保険外併用療養費としての時間外加算を取らせれば病院は埋め合わせがつきますし、それによる患者の不満の標的は病院です。

厚労省はポーズとして「勤務医優遇」を打ち出し、裏ではしっかり医療費削減を計算している事になります。混合診療への布石の一環とも読めないことはありませんが、やっぱり奇々怪々です。