苦情処理の担当は誰

3/8付静岡新聞より、

焼津市立病院 「時間外」全額自費に 4月から 2008/03/08

 焼津市立総合病院(太田信隆病院長)は7日までに、夜間など通常時間以外の診察で診療代に上乗せする「時間外加算」を、緊急性や重篤性のない患者に限り4月から全額自費負担とすることを決めた。同日の市議会一般質問で太田病院長が明らかにした。比較的軽い症状でも「仕事が忙しい」などの理由で日中ではなく夜間救急を受診する患者が後を絶たないためで、太田病院長は「このままでは真に救急医療が必要な人への対応が遅れかねない」とし、市民に理解を求めている。

 これまで時間外加算は保険を適用し、患者の負担は3割だった。額は時間帯や曜日で異なる。例えば、午後10時から翌朝6時までの間の初診は、保険適用で1440円だった加算額が、4月以降は4800円に上がる。3割か全額かの判断は、症状の重さ、切迫度で医師が判断する。救急車で搬送された場合も例外ではない。ただし、6歳未満の幼児には適用しない。

 同様の制度は磐田市立総合病院が導入済み。焼津市立を含む志太榛原地区の4公立4病院は2月中旬、救急医療に関する協議会を設立し、時間外加算の全額自費制を前向きに検討する方針を打ち出していた。

 焼津市立総合病院によると、夜間救急受診者の重症度の尺度となる入院率は近年、県内の拠点病院中で同病院が最も低い。太田病院長は「全額自費はペナルティーではなく、患者さんにも受診の在り方を見直してほしいという医療現場からのメッセージ」と話している。

記事は読んでの通り「時間外加算」を自己負担にして救急抑制を行なおうとするものです。まずここで時間外加算をもう少し詳しく見れば、、


区分 初診 負担増 再診 負担増
深夜 4800円 3360円 4200円 2940円
休日 2500円 1750円 1900円 1330円
その他 850円 590円 650円 450円


ここで深夜とは午後10時〜午前6時で、休日深夜も平日深夜も料金は同じです。最大の深夜初診の負担増が3360円、最小の深夜でもない休日でもない再診の負担増が450円。これを患者がどれほどの負担増と感じ、時間外診察の抑制に効果があるかは微妙です。ここで厚労省がマスコミに説明し、論説委員がそうなるに違いないと書きたてた診療所と200床未満の病院の再診料の差が140円。ちなみに産経新聞の1/20付主張では、
    厚生労働省が開業医の再診料引き下げを提案した。再診料は、開業医(710円)が病院(570円)よりも140円高い。厚労省はこれが、病院の夜間外来に患者が集中する一因になっているとみている。
140円と言っても3割負担で、
    50円
ですから、厚労省が主張し産経新聞論説委員が絶大な影響がある認めた140円(3割負担で50円)の最大で67.2倍、最小でも9倍ですから絶大な効果があると見ることも不可能ではありません。ただしそこまで効果があると盲信しているのは会議室の中と論説委員の頭の中だけと感じています。それでも救急抑制のために経済的障壁を作る以外に特効薬は無いだろうが現在の最有力の考えですから、額的には必ずしも十分といえなくとも、そういう試みを行なうという姿勢は評価しても良いと思います。

しかしです。医師なら誰でも気になる一文がこれです。

3割か全額かの判断は、症状の重さ、切迫度で医師が判断する

この時間外全額自費制度は軽症か重症かで変わるようです。なおかつその判定は医師が行なうようです。重症か軽症かの判断は医師でなければ出来ないのはわかりますが、どう考えてもトラブルのタネです。これは推測ですが、患者が「軽症だから自費」とされ納得いかないときには、納得いくまでの説明を医師に求める事はごく普通にありえるでしょう。時に喧嘩腰の態度に出られると長時間化することも予想されます。

さらに軽症と重症を機械的に二分していますが、医療はそんな単純なものではありません。最初の受診時には軽症と判断されても、後の経過で重症である事もしばしばあり得ます。それが医療です。時間外時点で軽症と判断して、患者が納得せずにトラブルが起こり、さらにその後重症となれば考えただけで対応はゾッとします。生死に関わる事であったり、後遺症が残るようなものであれば、今どきどんな態度を患者が取るか考えただけでも空恐ろしいものがあります。

「3割か全額」の判断基準が入院するか否かぐらいのものであればまだしもです。この場合でも「なんで入院させないんだ!」と納得されない患者は出現するかもしれませんが、まだ判断基準はクリアカットです。そうでなければあんまり担当したくない外来と思えます。この際、一律の方がトラブル防止になると思いますがどんなものでしょうか。

もう一つ、これは小児科医だからとくにそう思うのかもしれませんが、

6歳未満の幼児には適用しない

成人同様、ある意味成人より危機的な小児救急は除外されています。そうなるとこの「時間外加算自費」が成人の救急ではある程度効果を上げても、小児救急にはほとんど関係ない事になります。記事にある焼津市では小児救急の問題は起こっていない別天地と理解して良いのでしょうか。

試み自体は評価しても良いのですが、苦情処理まで医師が担当するシステムはやりきれないように感じます。それとも判定は医師で苦情処理は専任の係員が置かれるのでしょうか。そういう事はあんまり想像し難いと思っています。