会議は踊る

1/27付共同通信(47NEWS版)より、

 中央社会保険医療協議会中医協厚生労働相の諮問機関)は27日、過重な労働が問題となっている病院勤務医の負担軽減策について、タイムカードで勤務時間を把握するなど労働環境整備の要件をまとめ、2010年度診療報酬改定から導入することで合意した。

 また、救急外来受診の軽症患者に特別料金を課す案については、今回改定では見送りを決めた。

 勤務医の労働環境整備の要件は、一部の報酬加算を受け取るための前提。改善に努めた病院に手厚く配分する狙いだ。

 要件は(1)勤務時間を客観的指標で把握(2)勤務状況の改善提言を行う責任者を配置(3)負担軽減計画の策定に当たる委員会を設置(4)同計画を厚生局に提出(5)目標の達成状況を年1回報告―の5点。報酬加算には全要件を満たさなければならない。

 一方、夜間など時間外でも気軽に来院する「コンビニ受診」の抑制を目的とした、一部の軽症患者からの特別料金徴収は「患者側に軽症受診を控えるよう呼び掛けるのが先だ」と支払い側委員が反対した。

時間外特別料金徴収の話は今日は置いておきます。今日取り上げたいのは、もう一つの病棟勤務医負担軽減策である「タイムカード」の方です。勤務医の負担軽減には様々な考え方、手法がありますが、莫大なサービス残業、当直と言う名の違法夜勤・違法休日勤務対策が必要である事は当ブログでも幾度も取り上げています。

こういう違法状態を解消するための基本として、勤務医の正確な労働時間の把握と言うのが必要であり、そのためにタイムカードを導入するというのは手法として正しいと思います。さらにタイムカードを導入したうえで、労働時間を正確に把握し、それを実行させる枠組みも必要だとは考えます。記事にある枠組みは、

  1. 勤務時間を客観的指標で把握
  2. 勤務状況の改善提言を行う責任者を配置
  3. 負担軽減計画の策定に当たる委員会を設置
  4. 同計画を厚生局に提出
  5. 目標の達成状況を年1回報告
なかなか良くできていそうには思います。ではでは、これだけ病院側が頑張る事による見返りもあった方が良いと思います。労基法的には病院側へのムチだけで必要にして十分と言えますし、労働時間を正確に管理して適切な対価を支払うのは当然の責務とも言えるんですが、それでも現実として勤務医の労働管理を厳格する事により現実的なメリットが生じるほうが効果的と言えます。

その病院側のメリットらしきものも記事には記載されており、

    勤務医の労働環境整備の要件は、一部の報酬加算を受け取るための前提
「一部の報酬加算」が具体的に何を示すかになります。1月27日付中医協資料「骨子における重点課題関連項目」が参考になると思われますが、そこには、

要件を加える項目の例

  • 急性期看護補助加算
  • 栄養サポートチーム加算
  • 呼吸ケアチーム加算
  • 小児入院医療管理料1及び2
  • 救命救急入院料 注3に掲げる加算を算定する場合 等

どうもこれらしい様に思われます。さてこれらの加算がどれぐらいかなんですが、

急性期看護補助加算

看護補助者の配置の評価

急性期の入院医療を担う7対1入院基本料及び10 対1入院基本料について、看護補助者の配置の評価を新設する。

急性期看護補助体制加算 (1 日につき)

  1. 急性期看護補助体制加算1(50 対1) ○○○点
  2. 急性期看護補助体制加算2(75 対1) ○○○点

どうも看護補助者なるものを配備する必要があるようです。これにもまた施設基準があり、

[施設基準]

  1. 1日の入院患者数に対する看護補助者の配置数が、50対1 又は75対1以上であること

    ※ ただし、傾斜配置できるものとする
  2. 年間の緊急入院患者数が200名以上の実績を有する病院、又は総合周産期母子医療センターであること
  3. 一般病棟用の重症度・看護必要度の基準を満たす患者の割合が7対1 入院基本料においては15%以上、10 対1 入院基本料においては10%以上であ
    ること
  4. 看護補助者に対し、急性期看護における適切な看護補助のあり方に関する院内研修会を行っていること

私の知見が欠ける部分ですが、「年間の緊急入院患者数が200名以上の実績を有する病院、又は総合周産期母子医療センター」に看護補助者って現在そんなにいるんでしょうか。診療所なら珍しくもありませんが、どうもよくわからないところです。それと加算点数が果たして看護補助者を雇ってもペイするぐらい出るかと言われれば・・・わかりませんねぇ、トントンなら上出来の様な気がします。


栄養サポートチーム加算

急性期の入院医療を行う一般病棟において、栄養障害を生じている患者又は栄養障害を生じるリスクの高い患者に対して、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などからなるチームを編成し、栄養状態改善の取組が行われた場合の評価を新設する。

栄養サポートチーム加算(週1回) ○○○点

これも新設のようですが、施設基準があります。

当該保険医療機関内に、以下から構成される栄養管理に係る専任のチームが設置されていること。また、以下のうちのいずれか1人は専従であること。

    ア 栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤医師
    イ 栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤看護師
    ウ 栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤薬剤師
    エ 栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤管理栄養士
上記のほか、歯科医師、歯科衛生士、臨床検査技師理学療法士作業療法士社会福祉士言語聴覚士が配置されていることが望ましい。

病院規模は関係ないようですが、専任チームが必要なのと、資格を持った専従の職員が1人は必要のようです。さらに1チームあたりの受け持ち患者は30人以内みたいな事も書いてありますから、やはりかなりの新規職員が必要そうな気配があります。専従と専任のお役所用語の違いはかなり前にコメントを頂いたのですが、ゴメンナサイ、忘れてしまいました。


呼吸ケアチーム加算

一般病棟において、医師、看護師、臨床工学技士、理学療法士などからなるチームにより、人工呼吸器の離脱に向け、適切な呼吸器設定や口腔状態の管理等を総合的に行う場合の評価を新設する。

呼吸ケアチーム加算(週1回) ○○○点

これも施設基準があり、

呼吸ケアチームは専任のア)〜エ)により構成する

    ア) 人工呼吸器管理等について十分な経験のある医師
    イ) 人工呼吸器管理等について6カ月以上の専門の研修を受けた看護師
    ウ) 人工呼吸器等の保守点検の経験を3年以上有する臨床工学技士
    エ) 呼吸器リハビリテーションを含め5年以上の経験を有する理学療法士

これも専任となっています。新たな職員の雇用は・・・もうよくわかりません。


小児入院医療管理料1及び2

これも改訂されるらしく、小児入院医療管理料1は常勤の小児科医20名以上、小児入院医療管理料2は9人以上が最低条件です。小児入院医療管理料1が適用されるのは一部の大学病院クラスとこども病院クラス、小児入院医療管理料2は神戸なら中央市民病院クラスが辛うじて可能になります。


救命救急入院料 注3に掲げる加算を算定する場合

「注3に掲げる加算」がなんのこっちゃらなんですが、現在の診療報酬では、

別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たす場合には、1日につき所定点数に500点を追加する

こうなっているのですが、この施設基準とは前にやった日本中の救命救急センターがA評価だった例の奴です。これが改訂されてA評価とB評価で点数が変わるのが今回の改定のようです。



駆け足で「一部の報酬加算」の対象にされそうなものをチェックしてみましたが、点数がいずれも未設定であったり、新設する変わりに削除される加算があったり、加算を受けるための新規職員の必要性があったりとかで、トータルでどうなるかの試算は私の手に余ります。ただこれらの加算の前提条件に正しい労務管理が前提条件として存在すれば、考え方は単純になります。

まず、

    人件費増大 > 加算収入
これであれば誰も申請などしません。手間暇かけてわざわざ損をする選択するようなセンスでは経営者失格です。せめて、
    人件費増大 ≒ 加算収入
この状態でなければ手間をかける意欲が出てこないでしょう。ただこの状態でも積極的になるかと言えば疑問です。手間暇かけても、かけなくとも収入は変わり無いのであれば、現状のままで放置する選択枝も有力だからです。そうですねぇ、労基署による監査の予防と言うメリットをどれだけ重視するかの問題になるかと考えます。ではでは、
    人件費増大 < 加算収入
これならどうなるかです。恒例の梯子外しの危険性は怖いですが、どこも経営には苦しんでいますから、かなり強力な呼び水になると思われます。この状態で、申請していない病院に労基署からのピンポイント攻撃が加わればさらに有効です。


どの状態を念頭に置いているかは記事からは不明ですが、医療報酬の常識として「人件費増大 < 加算収入」の設定が果たしてありうるかの問題があります。それこそ財源問題に直結します。現実的に一番ありえそうなのは、「人件費増大 > 加算収入」の設定で誰も見向きもされない可能性が一番強いと考えられます。最大限に希望的観測を織り込んでも「人件費増大 ≒ 加算収入」での、早期梯子外し特約付の設定が関の山と感じます。

後は現実的にやらかしそうなのは、正しい労務管理厚労省による管理がザル運用される事です。つまり書類さえ整えて出せば、加算のための前提条件はOKで、正しい労務管理による適切な労働対価の支払いは綺麗にスルーしてしまう事です。「労働時間を正しく管理しました」と言って書類を提出すれば、「御苦労様、加算はすべて承認されました」で後は書類のみが保存されてオシマイのパターンです。

そういう書類儀式で普段は運用しておいて、何か事があれば書類からの調査を基に、気に入らない医療機関を血祭りにして粉砕する、脅迫のアイテムにするぐらいは良くあることです。

とりあえず会議は踊ってますねぇ。



追伸

上の間に差し込むと話が余計に読みにくくなるので追伸としておきます。「一部の報酬加算」の候補をもう一度列挙すると、

  1. 急性期看護補助加算
  2. 栄養サポートチーム加算
  3. 呼吸ケアチーム加算
  4. 小児入院医療管理料1及び2
  5. 救命救急入院料 注3に掲げる加算を算定する場合 等
設定点数が不明なので推測になりますが、1.〜3.は金額的にあまり大きくない可能性が高いと見ています。加算収入分の事業としてトントンか若干のプラスであれば上出来みたいな感じです。5.はもともと500点(1日につき)ですから、小さいとは言いませんが、新規設定分が2倍になっても人件費との算盤勘定は成立しないところが多いと考えます。

小児科医ですからとくにそう強く感じるのかもしれませんが、4.は少々大きい額です。この加算も今回の改定の俎上に上っていまして、

現行 改訂予定
区分 小児科医数 点数 区分 小児科医数 点数
小児入院管理料1 20人以上 4500点 小児入院管理料1 20人以上 4500点
小児入院管理料2 5人以上 3600点 小児入院管理料2 9人以上 検討中
小児入院管理料3 3人以上 3000点 小児入院管理料3 5人以上 3600点
小児入院管理料4 1人以上 2100点 小児入院管理料4 3人以上 3000点
小児入院管理料5 1人以上 2100点


ついでですからこれに伴う施設基準も改訂され、

(1) 小児入院医療管理料1

  1. 入院を要する小児救急医療の提供を行っていること。
  2. 小児重症患者に対する集中治療を行うための体制を有していること。
  3. 年間の小児緊急入院患者数が800件以上であること。
(2) 小児入院医療管理料2
[施設基準]
  1. 常勤の小児科又は小児外科の医師9人以上配置されていること。
  2. 7:1以上の看護配置であること。
  3. 平均在院日数21日以内であること。
  4. 入院を要する小児救急医療の提供を行っていること。

小児科常勤20人以上なんて病院があるのかと言う疑問があるでしょうが、改訂ポイントはもう一つあり、従来は特定機能病院(全国の大学病院、がんセンター、国循)が除外されていましたが、今回は除外されない事になっているようです。これまで小児入院医療管理料1が取得できたのは子ども病院以外では不可能であったのが、一部の大学病院でも可能となります。小児入院医療管理料1は無理でも2ならかなりの大学病院は取得可能であり、ましてや3ならほぼすべて可能かと考えます。

特定機能病院外で小児入院医療管理料2を取れる病院すら少なく、のぢぎく県でざっと調べたら、神戸中央市民病院、加古川市民病院、姫路日赤が可能なようです。西神戸医療センターも惜しかったのですが現在は8人のようです。

そういう小児入院医療管理料ですが、良く見れば小児入院医療管理料1は4500点ですが、小児入院医療管理料3でも3600点です。小児入院医療管理料2は検討中とされていますが、おそらく4000点前後と推測されます。小児入院医療管理料1や2は条件が厳しくて取得できなくても、小児入院医療管理料3ならかなり容易に取得可能かと思われます。

そうなると差額は小児入院医療管理料1で900点、小児入院医療管理料2で400点ですから、これで人件費収入が見込めるかと言われれば「???」と思います。確実に被害を蒙るのは、これまで小児入院医療管理料1であった子ども病院だけです。他の特定機能病院はこれまでゼロであったのが小児入院医療管理料3は無条件に入りますし、小児入院医療管理料2の資格を得た病院でも、400点の増収を見送るだけで今より減収にはなりません。