姫路宣言の真相

姫路の事件に対してQQ医様から貴重なコメントを頂きました。

どうも事実誤認があるようですので報告します。先日の事件の後の救急の会で明らかになったのは市内に患者を受け入れられる病院(人も能力も)があったにもかかわらず救急隊の判断ミスで搬送できなかったと言うことです。この件に関しては病院から厳重な抗議が消防、市にあり彼らは火だるま状態でした。消防隊の判断ミスを受けて診療科を限定せずに症状を医療機関へ伝えて判断を仰ぐという議論であったと記憶しています。決して何でもとれと言うことではありませんでした。実際会議中に2、3の医療機関から輪番から撤退するという申し出もありました。その時点では少なくとも医師会の敗北ではありませんでした。診れないものは診れないというスタンスをはっきり伝えたと思います。どうも役人のマスコミ操縦で違った解釈ができるように内容をすり替えようとしている節はあります。しかし実際は今述べたとおりです。

会議の冒頭に消防から今回マスコミに患者受け入れを断った病院のリストをその理由と共に公表したいきさつが述べられました。これによると新聞社が手当たり次第に市内の病院へ電話して事実確認を試み、これがうまくいかないと市に対して情報公開請求の手続きをとると迫ったそうです。市としてはやむなく公表せざるを得なかったとのことです。一応謝罪らしきものはありました。しかし診察を拒否したとされる病院より厳しい抗議がありました。その病院へは救急隊は患者の病態は知らせずに今日の当直は何科ですかと尋ね、内科(消化器内科)と整形外科ですと事務当直が応えるとそれでは結構ですと応じて以後連絡はなかったそうです。しかし後日の新聞には拒否の字が躍っていたというわけです。新聞を見るまで当直医は自分が断ったことになっているとは全く知らなかったわけです。救急隊は外科対応できる施設ばかり探していたようです。病院の名誉回復をどうするのかとか、患者の隣人がたまたまリストの病院の職員でお葬式の場で皆につるし上げられそうになったなどの抗議もずいぶん出ました。以上です。なかなかこういうニュアンスは表へ出ませんね。

この事件のポイントは幾つかあるのですが、

  1. 18病院で救急応需不能があった
  2. 救急応需不能病院のリストと応需不能理由が新聞に掲載された
  3. 事件後の対応で「救急隊が搬送先を探す際に診療科を限定せずに判断」の姫路宣言が出されたと報道された
この点についてQQ医様が情報を寄せていただいています。この情報の信憑性ですが、9割は私も裏が取れています。残り1割ほどは私も完全には知らなかったことですが、状況からするとほぼ信じてよい情報かと考えます。ちょっと歯切れの悪い言い方なんですが、なかなか表に書けない事が多く、QQ医様の情報に便乗させて頂いて「真実である」とします。

まず重要な点ですが、

    その病院へは救急隊は患者の病態は知らせずに今日の当直は何科ですかと尋ね、内科(消化器内科)と整形外科ですと事務当直が応えるとそれでは結構ですと応じて以後連絡はなかったそうです。
事件当日、応需出来る病院は存在していました。救急隊もその病院に連絡まではしています。ところが救急隊は患者の容態の判断として「外科が必要」と考え、事務当直に外科当直がいない事を確認した時点で救急要請をあきらめています。患者は末期肝硬変での食道静脈瘤破裂はほぼ間違い無く、もっとも相応しい専門医は消化器内科医であったので、搬送機会を逃したと考えられます。おそらくこの病院も拒否理由として「専門医が不在」とされたと考えます。

18病院拒否リストは消防から新聞社に提供されています。提供された経緯は、

    新聞社が手当たり次第に市内の病院へ電話して事実確認を試み、これがうまくいかないと市に対して情報公開請求の手続きをとると迫ったそうです
新聞社の超強力な要請に市及び消防が屈したという事です。このリストを掲載したのは神戸新聞ですが、「拒否理由」は救急隊のメモの丸写しになっています。救急隊の要請病院は混乱もあってか、無人のビル診の外科診療所まで及んだとされますが、おそらくそこは「電話がつながらず」とされていると考えられます。

つまり姫路地域の救急体制の確実な弱体化はありますが、事件当夜に限って言えば、救急隊の患者の搬送先の選択に誤認が無ければ適切な搬送先があったと言うことです。一概に救急隊の不手際を責める気はありませんが、結果として不手際は存在したのは事実です。適切な搬送先を見逃し、患者の治療機会を失わしめた事は残念ながら存在します。

ところが報道は救急隊の不手際についてはまったく触れず、病院が「拒否」した事のみに焦点を合わせています。構図は適切な搬送先を探す救急隊に「No」を突きつけた冷たい病院という感じです。実際記事を読めばそうとしか受け取り様のない内容です。

消防からの「拒否リスト」マスコミ提供、「病院が悪い報道」を受けた事後対策会議は大荒れになった様です。いわゆる「たらい回し報道」があるたびに「拒否リスト」が公表されるのなら救急病院はたまったものではありません。「拒否」には正当な理由があり、病院の戦力として重症患者への適切な治療が行なえなかったにも関わらず、報道記事になれば冷たく「受け入れ拒否病院」との烙印を押されるからです。

救急輪番病院は必ずしもやりたくてやっているものではありません。経営的にはペイするものではありませんから、現実としてはボランティアに近いものです。赤字でも地域医療の貢献の為に、困っている患者のために行なっているものです。それが受け入れが出来ない事があるたびに「拒否病院」と公表されるのなら、「やってられない」と考えてもおかしくありません。その辺が、

    実際会議中に2、3の医療機関から輪番から撤退するという申し出もありました
2〜3の医療機関が輪番から脱退する意味合いはどんなものかになりますが、姫路の救急輪番病院は、内科系が最盛時14病院あったのが現在は6病院、外科系が16病院あったものが現在は7病院に磨り減っています。内科系6病院、外科系7病院のうち2〜3病院の脱退の大きさは言うまでもありません。2〜3病院は内科系も外科系も重複している可能性は強く、輪番病院が最大で半減するほどの規模と考えられます。

会議の様子は推測になりますが、消防サイドが自らの不手際を伏せ、「拒否リスト」まで提供して騒ぎの外に位置付けた事に対する追及が厳しく行なわれたと見ます。とくに適切な治療を受けられる病院があったにも関わらず、これを見逃した点については厳しかったと考えられ、その結果、

    救急隊が搬送先を探す際に診療科を限定せずに判断
この部分は報道記事では救急隊の不手際が完全に伏せられたために意味が分からなくなり、私だけでなく記事を読んだ多くの人間が、救急隊が空床さえあれば「診療科に限定せず」に問答無用で搬送する意味に誤解する効果を生み出したと考えます。

ここは会議の趣旨では、あくまでも救急隊の独断だけで搬送先をせずに、病院側と患者の容態を確認して搬送先を決定しろと考えます。記事からは「救急隊が判断する」に誤解されやすい書き方ですが、本当は「救急隊が独断で判断せずに病院側と相談せよ」であったという事です。

前回に触れたときも書きましたが、救急隊員の判断ミスが時に生じることについて一方的に責める気はありません。ただしこういう事件があったときには、不手際は不手際と認めないと事態の改善は望めません。今回は患者の容態の判断ミスが確実にあったわけですから、判断ミスの原因を検証し、それが起き難い対策を取らなければなりません。

経緯についての情報が集まると、この事件ではある重要情報、すなわち救急隊の不手際があった事を伏せて報道記事が展開されています。伏せたのが消防当局なのか、それともさらに上の市レベルなのか、それともマスコミレベルで意図的に操作されたのかは情報不足です。ただ伏せたばっかりにより混乱が生じたと考えます。

どうにも様々な意図が裏で渦巻くような状況を想像してしまいます。