とっても福島

ssd様のところで拾った話題ですが、3/17付読売新聞より、

 県では07、08年に相次いだ救急患者の「たらい回し」後に死亡した事案を受け、09年1月までに県内七つの地域救急医療対策協議会ごとに、受け入れを断った搬送元の病院が責任を持って次の搬送先病院を確保するなどのルール作りを実施しており、県医療看護課は「効率的な救急搬送体制づくりの取り組みが、少しずつ成果が現れ始めたのではないか」と分析している。

あくまでもこの記事が正確であるとの前提ですが、

    受け入れを断った搬送元の病院が責任を持って次の搬送先病院を確保するなどのルール
「・・・・・」どういうルールか頭の中が一瞬ホワイトアウトしました。とりあえず解釈が難解です。まず「搬送元」と言う表現ですが、医療機関の間の搬送なら搬送元医療機関と搬送先医療機関が存在します。存在した上で搬送元医療機関が搬送先医療機関を責任をもって探し、なおかつ搬送先医療機関に患者を送り届けるまで責任も持ちます。

一方で医療機関外で発生した救急なら搬送元医療機関は存在しません。当たり前ですがまだ医療機関が診療に関与していないからです。そのため、救急隊が責任を持って搬送先医療機関を探し、搬送先に病人を送り届けるまで責任を持ちます。

もう一つあり得るケースとして、医療機関外で救急が発生し、救急隊が搬送先医療機関に患者を送り届けたとします。そこで搬送先医療機関が治療を開始したものの、とてもその医療機関では手に負えず、さらに高次の医療機関に再搬送するケースもありえます。この時は治療しきれなかった医療機関が搬送元になり、手順としては病院間搬送と同じになります。

通常は「搬送元」医療機関になるには、一旦であっても患者の診療を引き受ける事に同意する必要があります。同意して治療を開始したから患者に責任が生じ、搬送先医療機関に送り届けるまで責任を持つと言う事です。

福島のシステムで難解な点は「受け入れを断った」にもかかわらず「搬送元」医療機関になり、患者への責任が生じる点です。これがどんなシステムになっているかを推測しないといけないのですが、カギは福島県独自の救急患者搬送新システム「問答無用」にあると見ます。

これは条件が整えば救急隊は搬送先医療機関がどんな状態であれ問答無用で搬送できるシステムです。とは言え、医療機関も無い袖は振れませんから、いくら問答無用とは言え治療が出来ない時は出来ません。ここで福島独特のルールが発動されると考えます。

つまり「受け入れを断る」は福島以外では「悪いが他をあたって下さい」になって、そこで照会された医療機関の関係は終了します。ところが福島では「受け入れを断る」は他の都道府県での「搬送を受け入れたが、そこでは治療が出来ないので他の医療機関に再搬送する」状態に該当すると考えたら良さそうです。

運び入れの基本は問答無用ですから、突然救急患者を搬送されたらその瞬間から患者の責任は救急隊から離れ、そこの医療機関が受け入れが可能であろうが不可能であろうが全責任を負わされるシステムと考えられます。もっともと言うかたぶんですが、搬送元にさせられた医療機関に搬送先を探す余力も無い場合は考えられます。記事からですが、

受け入れを断った理由は、医師不足や症状に対する設備がないなどの「処置困難」が最も多い32・9%、次いで「専門外」(19・6%)、「手術中・患者対応中」(15・7%)だった。

まさか「手術中・患者対応中」の医療機関に搬送先を探させる事は無いはず(せめて、せめて、そう思いたい)なので、それ以外の「処置困難」とか「専門外」の理由であれば、搬送先探しは要請された医療機関のお仕事になるようです。そうなればこれも記事にある、

いわき市では、脳梗塞で半身まひとなった80歳代の女性が15回受け入れを断られ、出動から最終的な受け入れまで77分かかったケースもあった。

ここも興味深いのですが、受け入れ不能医療機関は「責任をもって」搬送先を探すだけでなく、どこに搬送要請を行なったかを記録する義務も負わされるようです。当然ですが受け入れ不能の理由も記載して後日消防署に提出しなければならない事になります。それともこのケースは、14ヶ所までは「手術中・患者対応中」として断られたので記録に残ったのでしょうか。

いやいやそうではなくて、搬送先を探してくれる医療機関にたどり着くまでが14ヶ所目で、そこから見つけてくれた搬送先に行ったので計15ヶ所だったのでしょうか。どちらであるかは記事からは見当がつきません。私が乏しい想像力を搾り出しても、この程度しか考えられません。



それとですが、このルールは2007.12.21付朝日新聞が報じた、

 この問題を受けて「市救急医療病院群輪番制運営協議会」が19日に開かれ、再発防止策として「救急隊員の医療判断を最優先とする」ことを決めた。要請を受けた当番病院がまず患者を診察し、重篤な患者については県立医大病院に搬送することになる。

 協議会会長の有我由紀夫・大原綜合病院院長は「今回1番の大きな問題は『患者を診なかったこと』。満床などと言うのは言い訳にすぎない」と語気を強めた。

こういう検討の末に生まれたのが問答無用システムですが、このルールの上に1/8付タブロイド紙にある、

救急搬送:ルール策定へ 県が受入協議会の初会合 /福島

 救急搬送患者のたらい回しを防ごうと県は7日、「県傷病者搬送受入協議会」を設置し、初会合を開いた。10月までに、搬送先の医療機関選定のルールや、病気・けがの種類に応じた受け入れ機関のリスト、救急隊が患者の状態を把握するためのマニュアルなどを策定する。

 県のまとめでは、08年の重症患者の救急搬送で、最初の照会で受け入れ先が決まったのは84・7%にとどまり、17回拒否されたケースもあった。断った理由は「処置困難」が32・1%で最も多く、専門外20・7%、手術中・患者対応中16・5%と続いた。

 昨年10月施行の改正消防法は、都道府県ごとの搬送ルール策定を求めている。県の協議会は医師会や病院協会、消防長会などの代表18人で構成。併せて▽県北▽県中・県南▽会津▽相双・いわきに地域検討会を設置し、地域別のルールも定める。

 初会合では、「受け入れの可否が当直医師の熱意次第になっている」「罰則も含めたルールを検討すべきだ」「近隣県との連携が必要」などの意見が出た。田勢長一郎会長(県立医大救命救急センター部長)は「広く意見を聞き、できるだけ早く実効性の高いルール作りを進めたい」と話した。【関雄輔】

この記事を取り上げた時には、

     初会合では、「受け入れの可否が当直医師の熱意次第になっている」「罰則も含めたルールを検討すべきだ」「近隣県との連携が必要」などの意見が出た。
「近隣県との連携が必要」はともかく、残りの二つに違和感を感じたものですが、今回の記事を読むと意味が少し理解しやすくなります。「受け入れの可否が当直医師の熱意次第になっている」これは照会先の医療機関の受け入れについても意味するでしょうが、ひょっとして問答無用で搬送しても「手術中・患者対応中」の返答が出てくることを問題視しているのかもしれません。つまり受け入れを断るだけではなく搬送元にもなってくれない状態を指すと言う事です。

そう考えると「罰則も含めたルールを検討すべきだ」もわかりやすくなり、問答無用システムで搬送したらいかなる状態であっても受け入れて当たり前、最低限「搬送元医療機関になる」事を罰則付きのルールにしようとしていると考えれば筋が通ります。新たな救急搬送ルールの作成の趣旨は、

    素晴らしい救急搬送ルールを作ったのに、罰則と言う強制力が無いので、机上の計画通りに進んでいない。
こういう苛立ちを表現したものであったとすれば筋が漸く通ります。福島の救急医療を検討する委員の認識はそういうレベルで論じていると理解すれば良さそうです。もう一度だけお断りしておきますが、読売記事が正確であるならばが前提としています。

読んだ感想としては、現時点では福島の医師と言えども移動の自由はあります。頑張っても、それぐらいしか今朝は思いつきません。ただ移動できるのは現時点であって、県傷病者搬送受入協議会が10月に新たなルールを策定したら、どういう新しい世界が待っているかは誰にも予想できません。そうなると微笑がこぼれてしまうのは、福島県HPにある

福島県内で勤務していただける医師募集中!

「ほんとの空」の下、豊かな自然環境に抱かれながらふるさとふくしまで、 医療を通じて地域社会に貢献していただける方を必要としています!

この誘い文句が、

    ARBEIT MACHT FREI
こういう風に見えて仕方が無いのは疲れているからでしょうか。