第3回奈良事件裁判・やりとり編

僻地の産科医様が奈良事件の第3回公判の様子をupしてくています。裁判自体は30分ほどで終わったらしいのですが、主なやり取りが書かれています。順番に見て行きます。

裁判官

    原告から10/22、10/29。被告からは10/16、10/26。に準備書類が裁判所に提出された。何か訂正があれば。
被告
    漢字ミス。必死の字が違う。
裁判官による現在までの流れの説明が始まる。

ここまでは前置きでしょう。

原告の主張

    死因は8日0時の右前頭葉における脳内出血によるヘルニア。6時で完成している。始まったのは0時である。過失は0時14分の意識消失時のCTなどの脳内検査等の検査を怠ったこと。除脳硬直を見逃したこと。
被告の主張
    国立循環器病センター6時20分には脳ヘルニアが認められる。右前頭葉の脳内出血は4時ごろおこりそれが脳幹にいたって6時ごろヘルニアになったものと考えている。0時の血圧上昇、意識消失、痙攣、瞳孔については子癇による症状である。

    CTを撮る義務はない。安静を優先させる。子供の安全を優先する。1時37分に痙攣発作がおこったときに母体搬送センターへ連絡をとっている。原告の主張には因果可能性がない。2時ですでに治療可能性は低い。

医師の過失個所の指摘が具体的なされています。焦点になるであろう脳出血の発生時刻で意見が当然のように対立しています。

  • 原告側:0時
  • 被告側:4時
原告側としては0時に脳出血が発生していない事には、責任の問いようが無いわけですから、0時説を主張するでしょうし、被告側は子癇の後の脳出血を主張しますから4時説になります。ここは今後の大きなポイントになると考えますが、第3回の時点では様子の探りあいの感じです。

診療情報提供書

    原告 被告病院が持っている情報を開示要求。同じであるかはわからない。 被告 国立循環器病センターからの情報提供に被告病院のものも含まれているため再提出の必要はない。
血圧の記載
    原告 送り先への情報提供について血圧の記載がどの時点での血圧かわからないので特定を 被告 検討

診療情報提供書とは大淀病院から国循に患者の容体を書いて届られたもので、俗に言う紹介状の事です。通常は複写にして作成し、搬送元(大淀病院)と搬送先(国循)に一通ずつ同じ内容のものが残ります。ここで私も良く分からないのですが、原告側は搬送元(大淀病院)の診療情報提供書を入手していないようです。そんな事は通常考え難いのですが、そうでないと

    被告病院が持っている情報を開示要求
この要求が理解できません。これに対し被告側は国循カルテに搬送先の診療情報提供書があるから再提出は不要としています。わかったような、わからないようなやり取りですが、原告側の証拠確保に不備でもあったのでしょうか、それとも法廷戦術としての駆け引きなのでしょうか、かなり不可解な問答です。

救命可能性について

被告

    いつ治療すれば救命可能性があったのか。
原告
    今問題としてるのは過失の有無であり、救命可能性ではない。救命可能性は血圧、呼吸、脈、脳神経の症状についてが確定後議論する。
被告
    1時37分ですでに依頼をしている。
被告 
    4時に脳内出血があったと考えている。0時に脳内出血があるなら原告に証明責任がある。救命可能性についても原告に証明責任がある。
原告
    情報(血圧、呼吸、脈、脳神経の症状について)を一覧をそちらが作成していただければやる。
被告
    わかりました。1時37分の搬送では間に合ったのか?
原告
    過失は診断すべきだったこと。検査を怠ったこと。搬送できなかったは過失でない。
被告
    診断と搬送の遅れは関係あるのか?

微妙な問答ですが、原告側は救命の可能性の論議は後回しにして、過失の有無、すなわち原告側の脳出血0時説に基づいた過失責任を第1ラウンドにすると宣告しています。それに対して被告側は4時説を念押しするように主張し、0時説であるなら立証責任は原告にあると主張し、第2ラウンド以降に予想される救命可能説も原告側に立証責任があるとしています。この立証責任について原告側は、

    情報(血圧、呼吸、脈、脳神経の症状について)を一覧をそちらが作成していただければやる。
この原告側の立証責任ですが、被告側が巧妙に立ち回ったと言うより、裁判のルールだそうです。きわどそうな会話ですが、ここはルール確認みたいな会話と考えれば良さそうです。ただここで原告側は重大と思われる発言をしています。
    搬送できなかったは過失でない
搬送が長時間化したことについては争わないの姿勢を明らかにしています。過失を問うのは
    過失は診断すべきだったこと。検査を怠ったこと。
非常にわかりやすい主張で、事実関係にあわせて解釈すると
    CTを撮らなかった責任
この一点に原告の主張は集約され、そこから派生する救命の可能性に言及する戦略であるとしています。つまり原告側は0時に脳出血は発生しており、すばやくCTを行なえば診断はついたのに、それを怠ったとの主張です。一方でその後の搬送先探しが長時間化したことについての過失は問わないとしています。ここで医師なら誰でも素直に疑問に思う事があります。たとえ0時に脳出血があり、CTで診断されたとしても、陣痛が来ている妊婦の治療をどうするのかと言うことです。この点については、今回のやり取りから原告側に立証責任があるそうですから、次回以降の裁判が注目となります。

個人的に気になるのは原告側は「脳出血の誤診、見落とし」に焦点を絞り、「誤診、見落とし」からの「救命の可能性」までを争点にし、「搬送問題」は責任を問わないとしていますが、これを額面通りに受け取ってよいものなのでしょうか。裁判のルールは良く分からないのですが、一度こういう風に法廷で発言すれば事実認定で風向きが変わったときに再び問題にしないのでしょうか。それとも初めにそう言っておいて、後から蒸し返すのも法廷戦術として常套手段なんでしょうか。よく分からないとしておきます。

次回について
被告側による診療経過の一覧表の提出
原告 妊娠中毒症は妊娠高血圧症となって学会ではなっているが、今も妊娠中毒症を使っているのはなぜですか?

次回は12月17日月曜日 1006法廷 11時からです。

次回は12/17 11:00からだそうです。それと

    診療経過の一覧表
ここは個人的に事実認定で一つの山になるかと思います。今回の裁判でも原告側は脳出血0時説を取り、被告側は4時説を取っています。脳出血の存在が判明したのは国循到着後ですから、どこで脳出血が起こったかは症状、診察所見から判断する必要があります。原告側は0時説での鑑定医を用意しているのは間違いありませんし、被告側は子癇説の鑑定医を準備していると考えます。診療経過と言っても元はカルテですから、これ自体の作成は平穏でしょうが、カルテ記載事項以外の攻防があると予想します。

原告側は病院側が見ていない時間以外の家族証言で0時説の補強を考えるでしょうし、被告側は産科医師が感じたニュアンス、または0時に対診を依頼した内科医の証言を脳出血否定の補強材料に使うと考えます。カルテ内容自体は子癇説を強く示唆するとネット医師は結論していますが、脳出血の可能性を何%かでも裁判官の心証に抱かせれば原告側とすれば大収穫になります。さらに言えば原告側は心証に抱かせるのに失敗すれば裁判が成立しなくなります。

僻地の産科医様は第2回原告準備書類、10月29日原告側の論点整理も情報提供していただいていますが、これはこれで分量があるので明日読んでみたいと思います。