正しい怒り

「北村のブログ」よりたらい回しを読みながら感じた事です。内容は状態の悪くなった御親戚が、紹介状を書いた加古川市民病院と、紹介先の姫路医療センターの間で宙ぶらりんになって治療先が決まらない悲劇を書かれています。どんな病気かは具体的に書かれてはいませんが、手際の悪さに猛烈に憤慨されていました。気持ちは良くわかります。誰だって書かれたような扱いを受けると怒るに決まっています。しかし怒るだけでなく冷静にわかる範囲で状況を分析しているのには感嘆します。

すったもんだの末に加古川市民病院で治療を受けることになって、待合室で待っている間に考えられた事だと思いますが、次のように書かれています。

 待っている間、掲示板等を見ていたらこの4月から病院の医師が減少するので、ご協力をとのメッセージが書かれていたので、叔母を病棟に運ぶ際に移動ベッドを押しておられた看護婦さんにそのことを尋ねると、内科が中心で、それも半数になるので、患者さんに転医してもらっているそうで、今回の血液内科関係も2月からそのようなことを勧めているそうである。

 先日会社で神戸大学病院で治療していた者が姫路医療センターに戻されたが、直に元の町医者に戻された話を聞き、その理由が医者が減るそうだといっていた。

 そうすれば、今回の叔母の病院のたらい回しの要因は、医師不足に端を発するものであると分かったが、しかし現在の医療制度は、良くなっているものと思っていたが、患者不在の医療行政そのもであることに気づいた。

素晴らしい理解です。今まではそういう風に思考の過程を進めてくれる人は殆んどいなかったかと思います。「たらい回し」にされた怒りが少し落ち着いた後に北村様が気がつかれた点はまず二つです。

  1. 加古川市民病院の内科の医師が半数に減る。
  2. 姫路医療センターの医師も減っているらしい。
この二つの事実をつなぎ合わせて、経験された「たらい回し」の原因が医師不足に起因している事に気がつかれています。そこで次の考えが「だから医者が悪い」に行かなかった冷静さに本当に驚かされます。大抵はそこで「医の心」とか「「赤ひげの精神」みたいな精神論に展開するものですが、そうはならなかった思考能力は只者ではありません。
    患者不在の医療行政そのもであることに気づいた。
問題の根っ子に速やかに到達した考えの明晰さに医療関係者として謹んで賛辞を贈りたいと思います。そこに一人でもたくさんの方々が気がついてくれるように、私だけではなく、たくさんの医療関係者が努力を重ねていると思います。医療関係者はその事に早くから気がつき、問題が表面化しないうちの問題の解決を長い間訴えてきています。しかし残念ながら医療関係者の声は何重もの色眼鏡で見られ、百訴えてもそのうちの一か二ぐらいしか耳を傾けてくれません。

北村様のように実際に辛い目に合わされ、なおかつその経験の原因を冷静に分析してくれる人が一人でも増える事を心より願います。医療関係者以外からのこういう声こそが本当の力になります。そうやってブログにでも強く訴えて書く事が、事態を少しでも良い方に変えていく大きな力になってくれるかと思います。

ただし残念な事が一つあります。北村様が経験されたクラスの事は、ほんの一時的なことではなく、この春には広い地域で現実化し、固定するのは避けられぬ情勢になっている事です。心が折れて職場から去っていく医師とて、残した患者に後ろ髪を引かれなかった医師はいません。それでも辞めていかざるを得ないほどの激務が医師にかかっている事だけは根本として理解して頂きたいと思います。

激務の負担は良心的な医師の心を確実に蝕み、抑鬱状態に追い込まれている者も急増中です。医師が抑鬱状態になるほどの環境は相当なものだと御理解頂けると幸いです。去っていく医師は自らの精神を崩壊させるか、地域の医療を守るかを天秤にかけ、ギリギリの選択で去って行く側面さえあります。

北村様。あなたが経験した怒りは正当なものですし、怒りの鉾先も正しい方向です。これからも正しい怒りの情報発信をされる事を期待しています。