エンターテイメントから変える医療不信

イデアが興味深かったので取り上げます。三上藤花さんが書かれている「日々のたわごと」というブログで、どうも普段はアニメの事を中心に書かれているようです。その方が医療の事を考えてくれて、エンターテイメントから変える医療不信というエントリーを立ててくれました。相当真面目に考えてくれているようで、医療情報の収集分析もしっかりしたレベルと思います。

エントリーの内容は読んでもらえれば良いのですが、医療に対する様々な偏見は情報不足に尽きると言う提言です。情報不足どころか型にはまりきったステレオタイプの医療ドラマばかりが作られ、それが医療の実態として刷り込まれているのが問題では無いかという考えです。仰っている事はもっともで、医療関係者以外が医療の現場の情報を収集するところとしてはテレビドラマが多いのは間違い無く、そこで見られるのはゴッドハンド医師、強欲医師、医局の封建制度白い巨塔路線とブラックジャック路線の2つぐらいしかありません。

三上藤花さんの主張はもっとリアルな現場を映し出した医療ドラマを作ったらどうかです。主張は直裁的に日本版ERでもエエじゃないかとされています。ゴッドハンド医師も強欲医師も登場せず、普通の使命感を持った中堅医師の日常の苦悩を描くドラマを作れないかということです。三上藤花さんが考えられた設定を引用します。

  1. 舞台は日本。ある程度の都会が良い。
  2. 病院が舞台だけど、ものすごい大病院ではなく、地域の中核病院とされる公立病院。当たり前ですが、救急をやっています。
  3. 病床は多くても500床程度、できれば3〜400床くらい。でも公立病院だから一応ある程度の科は揃っている。
  4. 医者の数自体はかつかつで、産婦人科は当然一人医長(これはお約束)。予算とかうるさく言う事務とか市長が出てきても面白いかもしれません。
  5. 天才医やいわゆるゴッドハンドは不要。というかむしろNG。
  6. 医者の人格としては、白い巨塔の里見みたいな人はいけません。かといって財前もダメ。柳沢の集団であるべきです。
  7. 医局内権力闘争の話は伝聞程度。教授選なんて遠い世界の話。
  8. クレーマー多数登場。中盤から後半で事件発生(11話完結ドラマならば8話くらいで)、9話でマスコミにたたかれまくる(これはお約束)。残り2話でラストへ。
  9. 無理にハッピーエンドにする必要はない。どちらかというとバッドエンドのほうが良いでしょう。そのほうがインパクトが強いです。
  10. 主人公はごく普通の勤務医。科はどこでも良いと思いますが。産婦人科一人医長が主人公ってのはあざとすぎる印象がありますし。
  11. 主人公の死にネタ厳禁。最後に主人公に自殺させるのはやりすぎでしょう(個人的意見)。
私も及ばずながらプランをコメントしてみたのですが、難点はリアルにすればするほど内容が地味になること。それとバッドエンドにする構想は秀逸なんですが、リアルに近づけたバッドエンドは救い難いぐらいの悲惨な物になることです。中盤からドラマを盛り立てる事件の下敷き候補には、福島事件、奈良事件、奈良救急事件、千葉亀田病院事件と事欠かないのですが、使命感に燃えて重症例に全力を尽くし、その結果が家族の非難やマスコミバッシング、さらには逮捕となって終わるエンディングは無茶苦茶暗いとしか言い様がありません。

予算や視聴率を度外視して啓蒙PRドラマを作るのなら、どれだけリアルにしても、エンディングがどれだけ救い様が無くとも構いませんが、エンターテイメントで医療不信を変えようという狙いがあるのなら、趣味のマスターベーションでは話になりません。そうなるとバッドエンドという秀逸な提案は涙を飲まざるを得ません。最後に爽快感が無いと視ている方は相当な忍耐を強いられる事になります。そうなればストーリーの下敷きは東映任侠路線になります。

普通の使命感を持った医師が人手不足、過酷な勤務、無理解な病院幹部・事務、クレーマーの襲来にひたすら耐えながら医療を行ない、最後の最後にスカッとした快刀乱麻の治療を行い、日本の医療現場に絶望しつつアメリカにでも去っていくか、海外の難民医療に生きがいを見出していくぐらいがギリギリの線でしょうか。

どうもストーリーテラーの才能は私には乏しいようです。まあそれでもこの程度の医療ドラマを日医が中心となって、医療関連企業も協賛して作るという構想はおもしろいとは思うのですが・・・