福井総裁と財界人

日銀の福井総裁が村上ファンドがらみで叩かれています。事実を冷静に見直しても福井氏に落ち度が無かったかといわれれば、あるとしか言い様がありませんし、弁明も疑惑を納得させるだけのものがあったかといわれれば疑問は残ります。金融政策の中枢に座る人物として判断が甘かったとの批判は甘んじて受けなければならないでしょう。

日銀の福井総裁があれほど叩かれているのは金融政策の中枢にいるからです。これからの日本の金融政策の行方を熟知し、判断し、最終決定する立場にある人間が投機的な金融商品に投資していれば、インサイダー疑惑と受け取られるのは致し方ないでしょう。日銀の内規の解釈は微妙なようですが、それなりの責任は生じると考えるのが常識的な感覚と思います。

であるならばと思います。とくに小泉政権になってから政治に大きな影響力を及ぼしている人種に財界人なるものがあります。なんたら諮問会議やらで巨大な発言力と決定力を有しています。小泉政治の政策決定に大きな役割を果たしてきたのは誰が見ても明らかです。この事を否定できる人間は少ないかと思います。

財界人はどこにも利害関係の無い無色透明の賢者ではありません。彼らは自ら率いる企業ないし企業集団の現役の長もしくは非常な有力者です。財界人とは商売人であり、有能な商売人であればあるほどあらゆる商機に利益を得る事に邁進します。これは商売人を批判しているのではなく、商売人の本性が元来そういうものであり、これをより有能に働かせたものが賛美される世界であるからです。これもまた常識です。

諮問会議に出席するほどの企業であれば、国の方針の行方で自らの商売が大きく左右される事は言うまでもありません。金融政策、公共工事など国の予算がどこに大きく動くかの動向は自らの商売の浮沈に関わるといっても過言ではありません。これを前もって知っておれば、時に大もうけも出来ますし、また損失を大きく回避する事も出来ます。そのため昔から国の政策の行方を察知し、自らが望む方向に誘導するために財界は非常な努力を払っていました。

政治献金、選挙での応援、はたまた小まめな接待に至るまで、政治の中枢に少しでも近づき、有力政治家に便宜を図ることで情報を入手し、族議員といわれるシンパの養成に余念が無かった事も周知の事です。格好よく表現すればロビー活動とでも表現するのでしょうか。こういう活動も不明朗な事はよく批判にさらされていますし、実際に犯罪行為として摘発された事もあります。それでもこういう行為は広い意味で合法的活動の範疇に辛うじて収まります。そういう風に解釈できるように法運営がなされているからです。

それでは直接諮問会議に出席し、発言し、決定に影響を及ぼす立場にあることはどう解釈すればよいのでしょうか。こういう立場にあれば政権中枢の極秘情報を容易に知りえる立場にあります。知るだけではなく、それに修正を加える権限も有しています。自らが望む方向に政策を誘導する事も可能です。そういう情報を知り、決定権に近いものがある者が、その情報を利用し、自らの商売のために有利に運用していないとは間違っても思えません。

分かりやすいところではオリックスの宮内会長。彼が諮問会議の中枢メンバーである事は多くの人が知っています。どこかの議長だったと記憶しています。また彼は村上ファンド設立に大きな力を貸し与え、村上ファンドの40%以上の株式を有していたはずです。福井総裁は1000万円の投資でしたが、オリックスに至っては140億円だったかの投資を行なっています。福井総裁がインサイダーならオリックスも十分インサイダーに当たるような気がします。

他の財界人のメンバーも基本的に同様です。彼らは政策の方向を知る立場にあり、その情報を利用できる立場にあります。財界人と威張ってみても、一皮向けば社長なり、会長なり、オーナーであり、彼らが一番重視するのは自社の利益です。商売人の本質はそこに尽きるからです。

自由に政策の方向性を知りえる立場にあり、さらにそれを大きく左右できる立場にあり、またその情報を自由に使って自分の利益を図れるのに、そういう人物に対し批判が起こらないのは摩訶不思議です。もし知りえた情報を自社の利益のために使っていないと弁明されても、それは福井総裁の弁明と同レベルです。

いつから財界人は特権階級に昇進したのでしょう。福井総裁のインサイダー疑惑で祭り状態のマスコミを見ながら思った感想です。