二回目のマルチーズの刑の後だけど、一回目の経験のあるアカネさえ驚いた。首座の女神がやると、ここまで出来るんだと腰抜かした。ツバサ先生の一回目が人基準の美人なら、ユッキーさんがやると、まさに
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『天女』
自分の体と顔なのに信じられないぐらいの変わりようだった。コトリさんに言わすと、
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「ユッキーの趣味的にはこうなるな」
そんなわけで天女にさせられたアカネにコトリさんが天女伝説を教えてくれた。コトリさんは歴女だから、この手の話にも詳しいんだ。
天女伝説っていうと一般的には羽衣伝説で、天女が羽衣を脱いで水浴びしてるところを通りがかった男が羽衣を隠してしまって・・・この後はバリエーションがあるそうだけど、始まりはそこからだけど、
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「これはちょっと変わってる」
天女が泉に舞い降りるところまでは同じだし、そこである貧しい男が天女を見つけるところまで同じだけど、他のところと違うのは羽衣を隠したりはしないんだ。目の眩むほど惚れまくった男は、どうやって天女と結ばれるかだけを考えるんだよね。男が目指したのは、
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『天女に認められる男になること』
そこから死に物狂いで働くんだ。がんばって、がんばって、その地方で一番の長者になるんだけど、天女が男の前に現れる気配すらなかったんだ。がっくりした男は家屋敷も売り払って旅に出ちゃうんだ。あちこちを旅した男は仙人に出会うんだよ。仙人に天女と結ばれたい願望を相談すると、
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『天女と結ばれるのはとても難しい。天女と結ばれるには長者になるだけでは無理で、心優しくならねばならない』
そんな頃に男の評判を聞いたお城のお殿様は、この男をお姫様の婿にしようと考えるんだ。お殿様はお姫様の婿にするのだから、断れるはずがないと考えて、男の屋敷にいきなり正式の使者を送っちゃうんだよね。
使者が来る前に男の周囲の人々は、この縁談を受けるように勧めたんだ。もし断ったりしたら大変なことになるかもしれないって。ところが男は、
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『お断りします』
断っちゃったんだ。心配する周囲の人々に、
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『これしきの事で挫けるようなら我が願いが叶うことなどありえませぬ』
面子を潰されたお殿様は怒っちゃったんだ。怒って、怒って、男に無理やり罪を被せて牢屋に放り込んじゃったんだ。それだけでは腹の虫がおさまらないお殿様は、この男を死刑にしてしまうんだよ。刑場に引き出され、磔台に立った男は最後に、
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『今世での願いは叶わず。来世にてこれを叶えん』
こう叫んで槍で刺される瞬間に天から声がしたんだって。
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『その願い聞き届けたり』
あっと思うと空から天女が舞い降り男を抱きかかえて天高く昇って行ったそうなんだ。男の心を確認した天女は、ついに自分に相応しい男と認め、天上界でいつまでも幸せに暮らしたんだったとさ。
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「アカネさんも天女になったんだから、こんな男がきっと現れるで」
だ か ら、アカネは女神でも天女でもなく人だって。そこはとりあえず置いとくけど、二回目にやられてからも十三年だよ。そんな男がこの世のどこかにいて、アカネの愛を得るために日々精進してるとは思えないよ。
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「まあ、天女でもアカンかったら、次はコトリの出番やな」
「けっこうです」
ツバサ先生まで、
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「アカネのキャラ的には前の方が」
「だめよシオリ、今のアカネさんはわたしのお気に入りなんだから」
「そやけどやで、未だに男が出来へんやんか。ここはコトリが・・・」
あのなぁ。さらにツバサ先生の追い討ちが、
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「これだけ外見いじくっても男が出来ないと言うことは、究極の性格ブス決定やな」
ウルサイわい。こんなの心優しいアカネが性格ブスのわけないだろうが。でもさすがに心配になってミサキさんに聞いてみた。ミサキさんは女神の中で別格に人に近い感覚を持っている常識家なんだ。
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「アカネさんは性格ブスではありません」
ほらみろ、アカネはミサキさんなら信じる。他の女神どもは置いとく。
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「ただアカネさんに合う人が限られるだけです」