ツーリング日和30(第38話)権田の末路

 池田君との結婚話がそんな事になって、さすがに課長は落ち込んでいたみたい。これで落ち込まないのなんていないだろ。そんな課長にすっと入り込んだのが権田だったのか。

「だってイケメンだし、ファッションも決まってるし、女の扱いも段違い」

 池田君だってブサ男じゃないけど、権田と較べたら可哀そうだ。それと池田君はマザコンなのもあって女の扱いはやっぱり不器用だなところもあったのか。

「比べたら話にならないな。とくに直後だったから落差が物凄くて・・・」

 ベッドでもその差は歴然だったみたいだ。さらに、

「マザコンじゃなさそうだってだけで、評価はひたすら甘かった」

 権田にマザコンはないだろうな。すぐに深い関係にはなったけど、結婚には躊躇いがあったみたいだ。

「また年下だったでしょ。しばらくは考えたくないって感じだった」

 とは言え切り捨てるにはもったいなさすぎるから関係は続いたのだけど、あの妊娠はどうして、

「それは・・・」

 課長はピルには抵抗があったみたい。そういう女も少ないのよね。あれだって副作用はあるし、使ったことによる体への影響も心配しだすとキリがないぐらい。ただピルを使わないとなると避妊の主導権は男が握ることになる。

「そうなった。抜き身で貫かれて、生でぶっ放された」

 ここはさすがに突っ込めないけど、それを課長は許し、その味を教え込まれてしまったと思う。そこまでやれば出来るよ。権田には結婚を迫られてたから堕ろす選択はなく、そのまま出来ちゃった婚に雪崩れ込んで行ったで良さそうだ。式はやらなかったけど、

「産んでからにしようで丸め込まれた」

 籍を入れたから発覚したのが権田の借金問題。

「子どもが出来て、籍も入れてるじゃない。清算するしかなかった」

 借金問題の清算が終わると権田は豹変したのか。豹変と言うより本性を剥き出しにしたんだろうな。権田にとって課長は借金清算の手段に過ぎないはず。

「浮気癖、浪費癖も大変だったけど、あそこまでのDV男だったとは・・・」

 課長もあの頃はおかしくなってたとしてた。そんな相手なのに結婚してるから、子どもがお腹の中にいるからと、なんとか家庭を守ろうと懸命だったみたい。

「それとね、毎日のように暴力にさらされると感覚が麻痺するのよ」

 思考がどんどん狭くなって、どうやったら権田の暴力からお腹の子どもを守れるかしか考えられなくなってしまったのか。

「でもね、やっぱり女の力では限界があった」

 腹に強烈な蹴りを入れられてついに流産。そこでやっと目覚めることが出来たみたい。

「同級生に弁護士がいて、相談したら力を貸してくれた」

 さすがは明文館だ。同級生に弁護士までいるんだ。その友だちの弁護士はかなりの手腕と言うより、そこまで行けば辣腕どころか、悪辣とか悪徳になるじゃないの。

「ああ凄かった。お腹の子どもを殺してるし、日常的な暴力の結果の証拠も診断書付きであるじゃない。言うまでもないけど、浮気癖、浪費癖の証拠も調べ上げて・・・」

 とくに暴行はこれでもかぐらいに脅しあげたみたい。暴行は犯罪だから警察沙汰になれば起訴はされるだろうし、そうなれば社会的に破滅にもなる。

「友だちに言わせれば、元のコースに戻してあげただけと笑ってた」

 課長側の言い値の賠償金やら慰謝料を呑ませたって言うけど、そんな金額を払えるはずが無いじゃないの。

「弁護士って、ああいうコネも持ってるのだってわかったかな」

 いやいや、どの弁護士だって持ってるとは言えないはずだよ。いわゆる闇金みたいなところにカネを借りさせて払わせただけじゃなく、

「後は業者のお仕事と笑ってたけど、腎臓の一個ぐらいで済めば良いけど肝臓とかはどうだろ。肝臓って切っても生えて来るんだって。そうそう角膜もあるとか」

 あのね、そんなもの闇金マンガの世界だぞ。

「残りはマグロとかカニになるけど、どっかの汚染地帯の清掃業務もあるって言ってたな。そうそう、世の中には地下にも工場があるらしいよ」

 カイジかよ。それぐらい我が子を殺された課長の怒りは凄まじかったで良さそうだ。

「そうそう浮気相手からももらっておいた」

 既婚者相手の浮気は不貞行為になり賠償の対象になるそうだけど、悪辣な友人弁護士がいるからガッツリ取り立てんだろうな。

「払えない女には、ちゃんと業者に紹介したはずよ」

 やっぱりマグロとかカニとか、

「まさか。あんなもの女には無理だって。一日に何回もお風呂に入る仕事じゃないかな」

 そっちになるよな。

「千草さんも困った事があったら紹介してあげるよ」

 今のところは不要だ。

「考えてみなくても、この歳のおばさんに年下が迫ってくる状況が不自然なんだよ。そんなもの訳アリ物件しかないはずよね」

 そ、それは、

「一人は最凶コンボのマザコン、もう一人はカネ目当てのハズレ男。まさか、この歳でこんな経験をさせられるとは思わなかった」

 そういうけどさ、女って生き物は白馬の王子様幻想をどこかで持ち続けるのが多い気がする。課長の歳で枯れてるのはまだいないと思うのよ。若い時ほど熱くなくても、火を着けられてしまえば燃え上がるのは避けられるとは思えない。

 千草だって危なかった。千草が幸運だったのは相手がコータローだったことに尽きる。コータローだって最初は冗談だと思ったし、コータローに愛を受け入れると心に決めた後だって、いや夫婦になってからだって不安は残ってた。

 コータローだってマザコン息子だったり、浪費癖とか、浮気癖、さらにDV夫になってた可能性もあったと思う。そこまでコータローを見抜けていたかと言われたら、全然自信がないもの。たまたま大当たりのクジだった話に過ぎないはずだ。課長が引いた外れクジを千草は笑えない。