週末もツーリングの予定だったのだけど、雨予報が段々にずれていってアウト。お天道様には勝てないよ。そしたらコータローから、
「飲みに行かへんか」
コータローとか・・・だいぶ悩んだけど行くことにした。待ち合わせ場所に指定された551の前に行くとコータローがいたんだけど、
「へぇ、千草もそんな服を持ってたんや」
あのね、土曜の三宮に飲みに行くのにライディングウェアなんか着れるわけないでしょうが。そもそも同窓会でもこういう服装をしてたのを見てるじゃないの。それよりもコータローこそどうなのよ。
「マシなんを選んだつもりやねんけど」
どうもコータローはあんまり服に興味がないタイプのようだ。
「そんなことあらへんで。こだわりが強すぎるだけや」
それはこだわりじゃなくて、歪んでるって言うのだよ。社会人なんだからTPOってものがあるでしょうが。
「そういう時の服はちゃんと持ってるで」
なになに、成人式の時に買った洋服の青山のぶら下がりと、
「就職祝いで叔母さんに贈ってもらったやつや」
えっと、えっと、スーツがそのたった二着だけってこと。だいたいだぞ、成人式とか、就職祝いって何年前の話なんだよ。
「男物にあんまり流行はあらへんからな」
それは情報に疎すぎると言うか無頓着も度が過ぎる。スーツは定番ではあるけど学ランと違うんだぞ。細かいところのこだわりの塊なのを知らないのか。十年も前のスーツなんて古臭くなるし、よくそんなものを着て行けるものだ。
「略礼服もあるで」
お爺さんの葬式の時に、これまた洋服の青山で買ったのか。よくまあ、それだけで、
「仕事場は制服で済むねん」
制服って白衣の事かと思ったけど、ちょっと違うようだ。コータローはフリーランスの麻酔科医だから、仕事を請け負った病院に行くと手術室に直行で、
「そこで術着で済んでまうねん」
な、なるほど。外来とか病棟では働かないのか。でも、なんだっけ、そうだ、そうだ学会ってあるじゃない。
「あれか。フリーランスになってもたから出席してるだけや」
ここは良くわからなかったのだけど、医者にとって学会の出席は勉強の意味もあるそうで、
「勤務医しとう頃は、発表もあったさかいスーツで行ったで」
発表って研究成果を会場で披露するみたいなもので良さそうだけど、これは勉強とか研究の成果を見せるだけじゃなく、
「標榜医とか専門医とかあれこれあってな」
これも良くわからなかったけど、麻酔科医のさらなる資格みたいなもので良さそうだ。これも試験で取れるみたいだけど、維持するのもあれこれ必要みたいで、
「だから学会も出席はしとる。そやけど座ってるだけやから、服はどうでもエエねん」
医者にも色々あるだろうけど、コータローの話を聞く限りだったら医者と言う人種は服装に無頓着なのが多いみたいだ。それだけでなく、無頓着な医者を誰もさして気にしない世界にも聞こえてしまう。
「あんなもん、上に白衣さえ引っかけ取ったら全部OKや」
ホントにそうなのかな。それでもコータローにはもう一つの顔があるじゃない。
「あんなもん、家でPCと格闘してるだけやん」
そうじゃなくて仕事の依頼とかあるでしょうが。
「あんまり言いたないけど、あれは依頼される関係で、仕事を貰う関係やないねん」
そ、そうなるよね。イラストレーター水鳥透と言えば、それぐらいの人気と地位があるぐらいは知ってるものね。コータローは北野坂を登って行くのだけど、
「ここや」
二階に階段で上がると、ふ~ん、焼鳥屋さんか。どうもコータローの行きつけの店みたいだな。手慣れた感じでオーダーしてくれて、
「カンパ~イ」
まずはとりあえずビールだ。店の雰囲気は煙がモウモウのいかにも焼鳥屋って感じじゃなく、どちらかと言うと居酒屋って感じかな。それにしてもコータローと夜の三宮で焼き鳥を食べる日が来るとはね。人生、何があるかわからないとはこの事だ。
「それ言うたら、千草とツーリングしてるんもそうやないか」
たしかに。こんな日が来るなんて夢にも思わなかったもの。昔に戻った訳じゃないけど、こういうのも人生じゃない。
「まあそうや」
コータローは本当に変わったな。あのマメタンがこうなるって誰が予想できるものか。
「高校でも背が伸びたからな」
だろうね。背が伸びただけでなく、スリムになってるんだもの。スリムと言ってもガリじゃない。細身で筋肉質って言えば良いのかな。
「だいぶジムに行った賜物や」
それよりビックリさせられるのが顔だ。同窓会の時になかなかコータローだと認識できなかったのはスタイルもあったけど顔が変わり過ぎだろ。これってやっぱり美容整形とか、
「そんなもんしとるか! 痩せただけや」
はっきり言わなくてもイケメンの良い男になってるよ。そのうえ医者だし、人気イラストレーター水鳥透の二足のワラジを履くって、どれだけマルチ人間なんだよ。これでモテなかったら、それこそ性格最悪だ。
「えらい言われようやけど、性格だけは変わってへん」
まあそうだ。だってとにかく遠慮と言うものがないものね。いくら幼馴染と言っても、ここ二十八年ぐらいで一年しか一緒にいないじゃない。なのにあれだけのタメ口がよく叩きまくれるものだ。
「ほんなら、千草さんって呼んで欲しかったんか」
えっと、えっと、そうなるとこっちもコータロー君とかコータローさんとか呼ばないといけないのか。それはそれで嫌だ。こういう関係もどこか気に入ってるかな。