ツーリング日和19(第7話)播州ラーメン

 あれからも御坂さんと連絡を取り合って、今日は二回目のマスツーだ。待ち合わせは前の時に別れたコンビニの駐車場。待つことしばしで赤いダックスが駐車場に入ってきた。

「お待たせ」

 あかん。どうしたってドキドキするのを止めようがない。インカムを調整してまずは大石川の交差点から国道四十三号に入る。岩屋の陸橋を超え、春日野道の交差点を直進して生田川の交差点から新神戸トンネルに。

「左に入るのね」

 直進すれば新神戸トンネルで箕谷に出るけど、今日は山麓バイパスで西に向かうツーリングだ。天王谷料金所で二十円を払い、

「安いのは良いけどメンドクさいよね」

 しょうがない。トンネルが断続的に続く山麓バイパスは西神戸有料道路に入り、

「あのね、ここが有料道路だったことを知ってるだけで歳がバレるよ」

 同い年の同級生だからそこは気にしないことにする。白川からトンネルを抜けるとユニバ競技場、さらにグリーンスタジアムが見えてくる。

「グリーンスタジアムじゃなくほっともっと神戸だって」

 ネーミングライツも程々にしてくれないかな。そこからも片側二車線の道は西に延びていて西神中央まで続いていく。

「ここって」

 ああそうだ。あの高校だよ。

「あの頃ってそうだったけど・・・」

 今だってそうじゃないかな。高校進学は受験で振り分けられる。どうやって振り分けられるかだけど偏差値だ。必然的に高校の序列もそれで出来上がるだけでなく、

「入ってくるのも偏りが出るのよね」

 そのために風紀の取り締まりもあり、その中に遅刻チェックもあるのだけど、

「チサたちの高校で校門の立ち番なんて殆どなかったものね」

 ボクたちの高校でも遅刻も遅刻チェックもあったけど、それは始業時刻に校内に入っているかではなくて、

「朝のホームルームの点呼に間に合うかどうかだったもの」

 あれも教師で温度差があってホームルームの時間内であればOKも多かった気がする。でもこの高校では校門を潜って校内に入っているかどうかが基準であり、さらに遅刻者をはっきりさせるために重いスライド式の校門を閉じてたんだよ。

 そこに遅刻ギリギリで駆け込んできた女子生徒が、なんとか校内に入ろうとして首を突っ込んだのだけど、

「重い校門が勢いよく走ってきて頭を挟まれて死亡した」

 当時はたかが遅刻に命を懸けるなんてやり過ぎも良いところの猛烈な批判が出たのだけど、

「当時はチサもやり過ぎと思ったけど、今となったら複雑なのよね」

 はっきり言うけど序列が低い高校ほど風紀は良くない。遅刻だって平然とやらかすのはいくらでも出てくる。序列が高い高校は遅刻のルールは守って当然ぐらいだけど、

「その手の高校では、そのルールを教えるところから始まる」

 これは社会人になればもっとわかるのだけど、遅刻は『たかが遅刻』じゃない。小さくは勤怠評価になり給料を減らされるし昇進にも影響が出る。

「商談とかでやらかしたらタダでは済まないよ」

 遅刻をしないのは守るべき絶対のマナーであり、遅刻すれば商談自体が破棄されても不思議じゃない。それで会社に損害など与えようものなら、

「減給とか左遷で済めば良い方で、懲戒免職の上で損害賠償請求までされることもあるもの」

 あの高校なら卒業後に就職するのも多かったはずだから、そこで高校生気分で遅刻などしようものなら社会人としての遅刻への制裁が加えられてしまうのだよな。だからと言って死亡事故が許されるものではないけど、

「社会人になれ遅刻は命に関わるぐらいの重大なことになってしまう」

 そんなことを話しながら西神中央を抜けて国道一七五号に向かうのだけど、

「ここじゃないの」

 それは旧国道で今日はバイパスを行くよ。国道一七五号はボクらが高校生の時からバイパス工事が延々と続けられていて、

「こうなってるんだ」

 ボクも久しぶりに来た時に面食らったもの。でも道は四車線で快適だ。バイパスは三木、小野と超えて、

「中国道を潜って次の信号を左ね。へぇ、ここにもコメダがあるじゃない」

 今日はラーメンツーリングなんだ。うちの県にもラーメン屋は多いけどご当地ラーメンは少ないのだよな。

「だって神戸ラーメンってなってるけど、あれは第一旭だし、第一旭は京都じゃない」

 他にも二国ラーメンとかもっこすとかもあるけど、

「やっぱり播州ラーメンよ」

 加古川を渡ってあの信号だ、

「あそこを左ね」

 そしてすぐに右折。加古川線を超える陸橋を超えて突き当りを左に。しばらく直進すると、

「あれだ!」

 お目当ては紫川ラーメン。ここも人気店で播州三大ラーメンの一つに数えられるぐらい。バイクを停めて店に行ったら、ラッキーだ。行列ができていない。それぐらいの人気店だってこと。店内は満席ではないものの八割方は埋まっていて御坂さんと空いていたカウンター席に。

「ここって・・・」

 言うな。店の人が聞いてるぞ。ラーメンを食べて店を出たら行列が出来ていた。バイクで走り出してから、

「ラーメン屋さんだからあれでも良いと思うけど・・・」

 その通りで建物はかなりチープなんだよな。あれってプレハブに毛が生えた程度だもの。立派な店構えが必要とは言わないけど、

「儲かってるはずじゃない」

 もう少しぐらい小綺麗にしてもバチはあたらないとボクも思った。ちなみに播州ラーメンとは北播の地場産業の播州織の女工さんたちを相手に成立したとなってるらしい。そのせいか、

「甘いのよね。だから好みはかなり分かれると思う」

 はまれば病みつきになるけど嫌いな人も多いかもしれない味だってことだ。

「さっき播州三大ラーメンって言ってたけど、やっぱり大橋ラーメンでしょ」

 どっちの大橋かな。

「そりゃ滝野」

 この手の情報はネット前と以後では桁が二つか三つぐらい違うのだよな。だから播州ラーメンと言えばボクも大橋ラーメンだと思い込んでたぐらい。この大橋ラーメンだけど二軒ある。西脇と滝野だ。

 どちらも大橋だから親戚とか暖簾分けしたしとかと思われがちだけど、まったく別の店なんだ。まず西脇の方だけど、こちらは西脇大橋の近くで始まったから大橋ラーメンとなってるのだけど、

「滝野は大橋さんがやってるから大橋なんだよね」

基本はどちらも甘い系の播州ラーメンではあるけど、

「滝野の方があっさりしてるかな。紫川も美味しかったけど、なんとなく西脇の大橋に似てる気がする」

 さすがだな。紫川ラーメンを始めた人は西脇の大橋ラーメンの味を作った人らしいんだ。その西脇の店を譲ったのか、雇われだったのかはわからないけど、改めて自分のラーメン屋として始めたのが紫川となってるらしい。

「だったら似てるはずよね。コッテリ風味があったもの」

 どちらが美味しいかは別問題だけどボクも御坂さんも滝野の大橋ラーメンが好きだから、

「どうしても食べ慣れてるからね。そのうち三つ目の三大ラーメンも食べに行こうよ」

 三つめは西脇の内橋ラーメンだったよな。うん、そのうち行こう。